転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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石橋はさっさと渡れ

 ジグラの誘いを断って以来、クルムは街での情報収集を強化した。

 何かジグラに企みがあるのならば、見破ってやろうと考えてのことだった。

 しかし分かったことと言えば、今回の〈万年祭〉が盛況であり、各地から人々がたくさん集まってきている、ということくらいであった。

 そもそもの問題として、クルム陣営にはこれまでの〈万年祭〉の情報があまりない。比較とするデータがない以上、今の状況を見て、どんな具合であるかを判断することしかできないのだ。

 実際のところ、今回の〈万年祭〉は十年前の万年祭の頃ほど、王位継承争いが活発な状況ではない。よって、比較的安全であるとして、招待客もやや増えているようでもある。

 

 クルム主導で行われた、旧貧民街に建てられた宿屋や商店、倉庫なども非常に賑わっており、このままのペースで行くと夏ごろには建物が不足するのではないかという推測も出ている。

 ウィクトから聞いた話によれば、〈万年祭〉が始まってふた月目あたりから、護衛としてやってきた冒険者の数も続々と増えているらしく、彼らが安い宿屋を必要としているのだとか。

 

 王都に人が増えるピークは年も半ばを回って少しした頃から、年明けにかけて。

 まだまだ増え続ける予定であることを考えれば、今から新たに建築をしたとて無駄になることはない。

 そのため、貧民街の住人と相談しながら、新たな建物の建設計画を進めているくらいだ。

 

 クルムは念のため、流れ込んできている冒険者たちが、アハーバ王国の出身者ばかりではないかと疑って、ウィクトに確認を取ってみる。

 するとどうやら、本当にアハーバ王国出身者は多い。

 これはどういうことかと思い、裏取りとして招待客や来客の割合を調べてみたところ、こちらも他国に比べるとアハーバ王国からの者が圧倒的に多い。

 

 一見怪しい比例のように見えるが、招待客や来客が多いのならば、その護衛の冒険者が増えるのも当然のことだ。

 そしてその客たちが多いという事実も、ジグラという王位継承者候補が残っていて、それを支援するためにやってきていた、と考えればそれもおかしな話ではない。

 誤差の範疇で済ませてしまえる数字でしかなかった。

 

 ジグラの話からほんの数日で、忙しい合間を縫ってここまで調べあげたのであるが、どうにも決定打のような何かは見当たらない。

 

「よくもまぁ、疑うのう。まぁ、あ奴の顔がいかにも悪さしますよ顔であることは確かじゃが」

「どんな顔ですか、それ」

「儂の知ってる限り、ああいう顔したやつは大抵裏切るんじゃ。物語じゃあ鉄板じゃな」

「わけのわからない話を……」

 

 調査をまとめた資料を睨んで色々なことを考えていると、横から茶菓子をかじっているグレイがちゃちゃを入れてくる。

 何が正しいのかと慎重に考えすぎて、やや頭が疲れてきていたので、ちょうどいいと言えばちょうどいい邪魔である。

 

「罠を仕掛けていたとて、どうせ参加しないことにしたのだから、お主には関係なかろうに」

「そうかもしれませんが、そうじゃない可能性もあります。先日の話を名目に、何かとんでもないことをしでかそうとしているかもしれませんから」

「石橋を叩いて渡る、というやつじゃな。身分を持った人間というのは、そういうのが面倒じゃわい」

「なんですか? 追っ手がやって来る前に、石橋をたたき壊して進路を塞げという意味ですか? いかにも先生ならやりそうですが」

 

 グレイを基準に考えると、当たり前の言葉も通じなくなる。

 クルムが軽口をたたくと、グレイが鼻で笑った。

 

「馬鹿め。儂であれば石橋に立ちふさがって追っ手を皆殺しにしてみせるわ」

「確かに」

 

 その方が余程グレイらしい。

 反論の余地もなく納得であった。

 

「……それで、本来はどういう意味なのです?」

「余計な心配してる暇があったら、さっさと走って渡り切ったほうが良いという意味じゃ。石橋叩きながら渡って、そのせいで真ん中あたりで崩れたら大馬鹿じゃろうが。悩むより行動してみてはどうじゃ、ってことじゃな」

 

 嘘である。

 慎重に慎重を期してリスクを最小限に抑えるという意味だ。

 いつも通り、適当なことばかり言う爺であった。

 

「なるほど、慎重になりすぎ、ですか」

 

 しかし、クルムにはそれが刺さったらしい。

 納得してしまって立ち上がる。

 

「先生、ちょっと外へ出ます」

「どこへ?」

「ヘグニお兄様の元へ」

「ほう、ようやく直接ぶち殺す気になったか」

 

 グレイがにやりと笑っていったブラックジョークは、その中にほんの少しの本気も混じっている。

 それを分かっている上で、クルムもにやっと笑って答えた。

 

「いいえ、殺すなんてとんでもない。忠告を一つして差し上げようと思っているだけです」

 

 さっと着替えを済ませ、早足で部屋を出たクルムは、ウェスカに外へ出ることを告げてそのままさっそうと廊下を進んでいく。

 

「どういう意味じゃ」

「ジグラお兄様が王位継承争いを継続されるならばともかく、もし本当に王位継承権を放棄するつもりならば、アハーバ王国の関係者がこれほどたくさんやってきているのはおかしな話です。これが示す可能性二つ。一つは、どこかでアハーバ王国の方針が変わり、近々に状況が変わったこと。ジグラお兄様の説明を真正直に信じるのならばこちらです」

 

 招待に応じるまでは、あるいは下々に通達が間に合わないくらいに、最近ジグラ王子の後援を取りやめることが決まった。だから、今回の〈万年祭〉には、たくさんのアハーバ王国関係者がやってきている。

 これが第一の可能性だ。

 

「で、もう一つは?」

「ジグラお兄様か、アハーバ王国の関係者か、あるいはその両方が、嘘をついてまで私たちを呼び出して、陥れようとしている」

 

 そこまでするようであれば、ジグラは本当にハルシ王国をアハーバ王国へ売る売国奴と言われたって仕方がない。そうなれば、一人でも他の王位継承者が残っていれば、ジグラが王位に就くことはないだろう。

 だからこじつけ、と言われればそこまでであるが、低かろうが可能性がある以上放っておくのは気分が落ち着かない。

 

「だから、ヘグニお兄様にこの考えを伝えに行くのですよ。せめて、王宮内で交渉を行っていただくように、と」

「糞生意気な妹の話など聞くかのう?」

「そこは、うまいことやりますよ」

 

 すっかり悪い笑い方も似合うようになってきたクルムと、最初っから悪い顔ばっかりしてるグレイが廊下を歩く。

 一見軽口をたたいてふざけているようだが、クルムのいつにも増した早足具合が、実のところの余裕のなさを示しているのであった。




お陰様で、時折Xの方で本かったよ報告いただいております。
ありがとうございます。
えー、Xでの報告。購入サイトでのレビュー、全て大歓迎しております。
うおおお、私はこの作品が売れて、漫画とか、ゆくゆくはアニメとかで動くのが見たいんじゃぁ
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