ファンファの区画に差し掛かると、丁度出かける準備を終えたところだったようで、いつも通りの派手なお洒落をしたファンファが廊下に出てきていた。
どたどたと大勢が一斉に現れたせいで、ファンファは驚いて二人の冒険者護衛、ドーンズとニクスの背中に隠れる。だが、先頭にいるのがグレイとクルムであることに気付くと、すぐに胸を張ってなんだかにこにこと笑いながら前に出てきた。
「あら、そんなに急いでどこに……」
そこまで言ったところで背後から息切れしたセルルトとルミネまで現れて、ファンファはまた口を閉ざした。
なんにしても平和なことである。
どうやらセルルトの区画から先には、まだ偽兵士はやってきていないようだ。
逆に考えると、未だに騎士団の元へ内乱の報告が届いていない可能性も高い。
「ファンファお姉様、王宮に集団の乱入者がいます。一度騎士団の訓練場まで行って状況を確認しますので、ついて来てください?」
「乱入者ぁ? 兵士たちは? 警備は?」
「捕まったか殺されたか、ではないかと。行きますよ」
クルムがさらりと答えると、ファンファは顔を青くした。
王位継承者争いでどう生き残るかに焦点を当てて生きてきたファンファには、内乱なんて想像の外のことである。
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫です。ファンファお姉様は私が守りますから。区画の皆を連れてついて来てください」
そう言い残してクルムが走り出す。
ファンファは目を丸くして一瞬固まったが、緩く笑って護衛二人の背中を叩く。
「ニクス、私を背に乗せてクルムを追いかけて。ドーンズは皆を連れてこの集団の背中を守って」
二人の返事を聞いたファンファは、すぐにニクスの背中に乗って振り返りながら更に指示を出す。ファンファは自分が何ができて何ができないか、よく理解している。
「怪我もなし、もちろん死ぬのも駄目よ? 危なくなったらさっさと撤退。あなたたちにとって一番大事なことは、私を守りながら一緒に生きること。それじゃ、あとはよろしくね?」
「はっ!」
ドーンズが区画の中へ消えていくと同時に、ニクスはクルムを追って走り出す。
横並びのセルルトが酷く息を切らしているのを見て、申し訳ないような気分になったファンファは、少しだけ屈強な冒険者を一人貸してあげようかと思ったが、結局口には出さなかった。
男のプライドについてはよく理解しているファンファである。
クルムは自分の区画へたどり着くと、まず門番をしている兵士二人に声をかける。
「王宮に乱入者です、共に行動してください。中のウェスカとビアットにも声をかけてきます」
歩きながら告げて区画内へ入ったクルムは、そのままウェスカとビアットが使っている部屋の扉をノックせずに、ばっと開け放つ。
「二人とも、王宮に乱入者です。一時避難しますので、すぐついて来てください」
「え? な、なんですって?」
ビアットが動揺している間に、ウェスカはすぐさま立ち上がってクルムへと駆け寄った。
「ビアット、行きましょう」
「え、ええ? は、はい!」
全然何も飲み込めていないけれど、とにかく直属の上司であるウェスカの言うことは絶対で生きているのがビアットである。クルムからの指令よりも、ウェスカからの言葉の方がビビッと来たのか、反射的に立ち上がってついてきた。
勢力が小さいからこそ、まとめて避難するのも簡単だ。
クルムはすぐに外へ出て、そのまま騎士団の訓練場へ向けて走りだす。
ハップスまで回収したところで、ようやく折り返し地点だ。
その間に偽兵士たちが何をしているかが気になって仕方がないクルムであるが、急いてバラバラに行動したって良いことはない。
ハップスの区画までたどり着いたクルムは、入り口に立っている兵士に声をかける。
「ハップスお兄様は?」
「訓練場の方にお出かけされております」
「ありがとうございます。王宮に乱入者がいます。私は一度ハップスお兄様と合流して、今後の動きを決めます。皆さんも一度訓練場まで避難することを勧めます」
対応した兵士が戸惑っている間にクルムは再び走りだす。
説得している時間はもったいない。
ついてきている面々を見れば、兵士も嫌でもクルムの言葉を理解することになるはずだ。
クルムはそのまま騎士たちの訓練場まで駆け抜ける。
ちょうど訓練場には非番の騎士たちが集まっており、その中にはハップスの姿もあった。
騎士たちはやってきた集団に驚いて色めき立ったが、先頭にいるのがクルムであることで、辛うじて戦う姿勢はとらなかった。
ハップスが前に出たところで、クルムはようやく足を止める。
追いついてきたセルルトは、もはや息も絶え絶えだ。
とてもじゃないが、この後一緒に行動することはできないだろう。
ハップスはセルルトをじろりと見ながら、クルムに話しかける。
「どうした」
「内乱です。王宮に偽兵士が侵入しています。セルルトお兄様や、ルミネお姉様が狙われました。こちらへやってきていた兵士は撃退しましたが、おそらく王族全員を狙っての行動です。ケルンお兄様の区画まで確認しましたが、その先がどうなっているかはわかりません。ケルンお兄様本人は、ラウンド様の元へ出かけているようです」
ひと息に情報を叩きこまれたハップスは、盛大に眉を顰めて、どう対応すべきなのかすぐに頭を巡らせ始めた。