転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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空から降ってくる老人

 グレイは廊下を走らずに、その外の地面を蹴って走る。

 廊下には時折使用人たちが歩いていることがあって、いちいちよけなければならないからだ。

 ぶつかれば交通事故さながら、ただでは済まない。

 もちろん相手がだが。

 

 グレイは途中で大岩に飛び乗ると、その勢いのまま植えられている木を蹴り、三角飛びで屋根の上に登り、また走り始める。

 わざわざ地面を走って、偽兵士たちを蹴散らす必要などない。

 倒すことも殺すことも簡単だが、時間は確実にロスする。

 ならば初めから戦わないルートを取って、真っすぐに王宮の西側まで駆け抜けてしまうのが正解だ。

 

 一切の時間を無駄にせずに屋根の上を駆け抜けたグレイは、ものの数分でスペルティアの治癒室があるあたりまでやって来る。全力疾走したせいで、屋根が一部壊れているが、緊急事態なので知ったことではない。

 スペルティアの治癒室があるのは、比較的王宮の西端の方。

 幾人かの偽兵士がやってきているようであったが、治癒室前にバミが作らせた門のところでその進行を止められているようであった。

 争っているというよりは、交渉中といった具合なのは、彼らがスペルティアを殺すつもりがないからだろう。とはいえバミは明らかな異常事態を察しているようで、門の内側ですでに部下たちとスペルティアを一か所に集め、外のやり取りに耳を澄ませているようであった。

 

 グレイは躊躇なく屋根の上から飛び降りると、五人の偽兵士の真後ろに着地。

 音で振り返る前に容赦なく後頭部を殴りつけて二人沈め、振り返った直後の兵士の頬を殴りつけて地面に転がした。

 最後の二人が「なんだ……」と言葉を発しながら攻撃動作に移ろうとした時には、二人の側頭部にグレイの手が片方ずつ添えられていた。

 そして二人の表情が引きつった瞬間、抵抗むなしく頭がごつんとぶつけられていた。

 卵のように中身が出なかったことが幸いである。

 ものの一秒もかからずに偽兵士を始末したグレイは、直前まで彼らと喋っていた門番に命令する。

 

「スペルティアとバミを迎えに来てやった。門を開けよ」

 

 門番は慌てて門の内側にいるバミたちに向けて「グレイ殿です!」と悲鳴のような声を上げる。

 もともとこの門は内側からかんぬきを下ろすタイプのものである。

 門番がいくら開けようとしたって、中にそれが伝わらない限りは開いたりしない。

 

 がこっとかんぬきが避けられる音がして門が開くと、バミたちが姿を現す。

 

「そっちを先に襲ったか。内乱だな。ジグラ王子か?」

「分からん。だがクルムについている者たちと、不本意ながら第二王子の身は確保した。あとはお前らを連れて王宮を脱出するだけじゃ」

「ヘグニ王子殿下は?」

「ジグラに会いに行ったらしい。よく分からんが、もう死んどるのではないか?」

「陛下は?」

「それこそ知ったことか」

 

 何も情報を知らなきゃそんな回答が返ってくるだろうことが分かっていたバミは、その返答をさっぱり気にしていなかったが、真面目なバミの部下たちはざわついていた。

 バミの部下といっても、皆が優秀なわけでもないし、破天荒なわけでもない。

 バミが直接選んで引き抜いてきた者以外では、むしろ真面目一辺倒な者が多く、その中に、コネでやってきたしょうもない奴らが数人混ざっている形だ。

 

「だろうな。こっちは戦えるものがいないが、何とかなるか?」

「初めから期待しとらん。ついてこい、遅れた者は置いていく」

 

 そう言いながらも、グレイは走りだしたりせずに、大股の早歩きで歩きだす。

 それでも高身長で健脚のグレイであるから、小走りしなければ追いつけないような者もいるのだけれど。

 

「セルルト王子はなぜ助けた」

「丁度クルムと話している所だったんじゃ。どうやらあ奴、第一王子が今日、ジグラと面会することを聞かされていなかったらしい。普段は小姑のように兄の予定を管理しているらしいのだが、うまくごまかされたのだと」

「関係がよく分からんな。親密であることは知っていたが」

 

 グレイと並走するバミは小走りだ。

 そのすぐ後ろをスペルティアが追いかけてきている。

 その事実にはっとしたグレイは、バミをまじまじと見て言った。

 

「お主、足は治ったのか」

「お陰様でな」

「私様が毎日診てやった。足が悪いと雑魚人間は寿命が短くなるという統計がある。まずは足。食欲も出てきた。肌のつやも良くなったはず」

「やるではないか、ケチエルフ」

「当然。グレイにも特別な薬を処方してやってもいい」

「いらん、病も怪我もないわ」

「天にも昇れるかもしれないのに」

「それ毒薬じゃろう? 物理的に喋れなくしてやろうか」

「そんなことより、前に敵」

 

 楽しく言い争いをしていると、前方の部屋の前に偽兵士たちが立っているのが見える。この辺りにはいくつかの仕事場が用意されているので、そこに詰めていた官吏や貴族たちを入り口で見張っているのだろう。

 グレイたちが集団でやって来るのを確認すると、それぞれ槍を腰だめに構えて待ち受ける。部屋の中やさらに廊下の奥へ声をかけているところを見ると、味方を呼んでいるのだろう。

 まだ王宮の出入り口は遠い。

 全員を戦闘不能にしながら進むのではきりがないが、こちらに注目を集めておけば、クルム側はその分安全になる。

 ならばそこそこ大騒ぎをしてやるかと、グレイはにやりと笑うのであった。

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