グレイは堂々と真正面から歩いていく。
廊下の幅は、人が五人ほど横に並べばいっぱい。
すなわち、五人が槍衾を組んで真っすぐに走って来ただけで、大抵の敵は困ってしまうような広さである。
偽兵士たちもそれが分かっているのか、構えもせずに近づいてくるグレイに向けて槍を構えて横一列に突進した。
偽兵士らの接近に合わせて、グレイは右足を上げ、どんっと廊下を踏みしめる。
すると廊下の板が数枚跳ね上がり、勢い込んで走ってきた兵士二人の喉に突き刺さった。
槍衾は隙間ができてしまえば効果は半減。
それでも怯まずに、グレイめがけて槍を突き出してきた残り三人の気合いは大したものだが、それはすなわち、グレイに向けて斜めに槍が突き出されたという形である。
グレイは、三本の槍が丁度交差する一点を蹴り上げる。
槍は跳ね上がり、その鋭い切っ先は天井に突き刺さった。
槍を手放した者は武器を失い、槍を抜こうとした者には隙ができる。
どちらもグレイからすれば、相手にもならないような状態である。
そのまま首筋に向けて踵落とし。
続いて膝を曲げて、通常の上段蹴りで偽兵士を庭へ蹴り飛ばし、その勢いで体を一回転させ、最後の一人にバックナックル。
綺麗に三連撃が決まったところで、グレイは天井に突き刺さった槍を手に取った。
そうしてそれを、偽兵士たちの背後で魔法の呪文を唱えている者に向けて投擲。
しなりながら真っすぐに飛んでいった槍は、回避できなかった兵士を二人貫き、その先にいた魔法使いを串刺しにした。
一瞬にして三人が撲殺され、三人が串刺しのままうめき声をあげ、二人が喉元を押さえながら床に転げまわる事態となった。
気軽に動き出せるような状況ではない。
今回のグレイは、魔法を一切使わずにこれだ。
人生の大半を闘争にささげた爺の技術と身体能力は伊達ではない。
身体強化を施しながら戦うことが当たり前になっていたグレイの体は、それに耐えうるように長年かけて少しずつつくりかえられている。
柔軟性を保ちつつ、出力を上げるために、体中の筋肉が人として通常ありえない高密度へと変化していったのだ。おかげで、身体強化を使っていなくとも、常人ならざる膂力が発揮される。
本来これに身体強化、破裂の魔法、通常の魔法、独自の魔法が加わってくるのだから、スペルティアが世界最強の生物と認識するのもあながち間違いではない。
「一対一をする者は生かしてやろう。ただし、卑怯な真似をしたり、多対一でくる場合は命の保証はせん。儂以外は戦わん。さぁ、儂と拳を交える気概がある者はおるか? おらぬのならば道を開けよ。儂が一歩進むごとにそれ以上に道を下がれ。それができぬ者は敵とみなして殺す」
喋りながらもう一本槍を引き抜いたグレイは、それをいつでも投げられるように引き絞ったまま言いたいことを一方的に伝える。
「さぁ、進むぞ、死にたくない者は下がれ。臆病者は背中を向けて逃げろ。儂はそんな雑魚はあえて殺そうとも思わん!」
グレイが一歩前へ足を踏み出すたび、偽兵士たちが押し合いへし合い退却していく。
どうやらこの現場に、偽兵士たちをまとめる指揮官がいないらしいと判断したグレイは、笑いながらどんどん歩みを早める。
「ほぅれ、死が追いかけてくるぞ! さっさと逃げんか!」
わざとどっすどっすと足音を鳴らしながら進むと、ついに偽兵士たちは後ずさるのではなく、総崩れで背中を向けて逃げ出そうとした。
つまらんことだとグレイが鼻を鳴らそうとした時だった。
「逃げるな止まれ!」
偽兵士たちの背後から声が響き、その集団をかき分けるようにして何者かがやって来る。グレイはしばしその人物の登場を待って――、その登場と共に一歩踏み出して槍を投げつけた。
グレイが一歩進むごとに下がらなかったのが悪い。
約束は破っていないと、この性格のひねくれ切った老人は言うのだろう。
しかし現れた男は、偽兵士を一人巻き込み、鞘に入ったままの大ぶりの剣を振り抜き、投げつけられた槍を弾いてみせた。槍と巻き込まれた兵士、それに鞘は、王宮の庭まで飛んでいき、壁にぶつかって動きを止めた。
身体強化を使っていないとはいえ、グレイが投げつけた槍をはじくとは、なかなかの強者である。間に合わないと踏んで鞘ごと振り抜いたあたり、目も良ければ判断力もある。
偽兵士たちの中でもその男は信頼されているのだろう。
先ほどまで動揺していた彼らは、今はすっかり静かになり、固唾を飲んでその男の背中を見つめている。
「糞爺が、不意打ちか」
「ずっと槍は構えておったじゃろうが。今のを不意打ちというのならば、お主は戦場というものを知らんのじゃろうな。おうちに帰って馬鹿面さげながら聞いてみるが良い。『せんじょうってどんなとこ?』とな」
グレイが完全にあざけるように言葉を吐き散らしている最中には、男は一言「殺す」とこぼし、走りだしていた。
乗ってきた。
にんまりと笑ったグレイは、その真っすぐな逃げ場のない廊下に向けて、魔法で作った石礫の散弾を、身体強化たっぷりで投げつけてやるのであった。
「ばぁかが! この程度の挑発に乗るような愚か者、やはり戦場を知らんようじゃなぁ!」
バミやスペルティアの側にいる王宮の官吏たちから見ても、どちらが悪役かの判断は、酷く難しかった。
本作一巻、発売から二週間ほど経ちまして、売れてるのかどうかは謎です
売れていたらいいなと思いつつ、ご購入いただいた皆様に感謝感謝
まだの方は騙されたと思って買ってみてね