転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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騒ぎは起こる。だからうまく使う。

 グレイが腕を振った瞬間、何かを察したのか、大剣を持った男は横っ飛びして部屋の扉を破り、その直線状から逃げ出した。

 グレイの手から散弾のように放たれた礫が、無防備な兵士たちの体や顔を打ちのめす。

 

「おお、お前らの大将が逃げたせいで、被害が出てしまったのう。不本意じゃのう! さぁ、今のうちに逃げ出すんじゃ! そこにいたって誰も守ってくれんぞ!」

「逃げた奴はっ」

 

 再び廊下に飛び出してきた男の鼻先を切り裂き、二本目の槍が飛んでいく。

 当たり前のように偽兵士に犠牲が出たところで、グレイは最後の槍を手に取った。

 

「ほうれ、お前らの大将は守ってくれんと言うたじゃろうが!」

 

 男は大剣を、天井を破壊しながら振り抜き、三度投擲された槍を叩き落とす。

 

「逃げた奴は殺——」

 

 偽兵士たちに指令を出そうとした瞬間、槍を追いかけて走り出していたグレイが、男の頬に向けて拳を繰り出していた。

 

「馬鹿が、避けておったので正解じゃ」

 

 一度目の槍で敵たちに何が起こるかを見せ、二度目に偽兵士を動揺させ、三度目は投擲と同時に走りだしていたのだ。すべては、男が槍を叩き落とさざるを得ない状況を作り上げる布石である。

 グレイは拳で男の頬を捉えると、そのまま床まで叩きつけて、魔法を破裂させる。

 頭部がぐちゃぐちゃになっていないのは、グレイが手加減をしてやったからである。

 

「ほうれ、一人でかかって来たから殺さんでやったぞ。次の者はいないか? おらぬか? ほうれ、あと四十秒だけ待ってやろう」

 

 グレイが一歩進むたびに、偽兵士たちが傷ついた仲間を置いて逃げて行こうとする。

 

「四十、三十九……、まさかお主ら、傷ついた仲間を見捨てて逃げたりはしないじゃろうな? そんな愚か者は生きる価値などないものなぁ」

 

 偽兵士らは恐慌状態で、傷ついた仲間たちを拾って逃げていく。

 

「三十一、三十。おお、そうじゃ、こ奴も返してやろう。ほぅれ」

 

 グレイは足元に倒れている男を拾って、ぶんっと偽兵士たちに向けて投げつける。

 ぶつかった数人の偽兵士が転げたが、慌てて立ち上がると、男を担いで逃げていく。

 

「二十、十九、十八」

 

 グレイが数えているうちに偽兵士たちは角を曲がり見えなくなった。

 

「さぁて、行くとするかのう」

 

 グレイが振り返って言うと、既に近くまでスペルティアとバミ、そしてホープとクリネアだけがやってきていた。他のあらゆる人たちがドン引きで、とんでもない化け物じみた悪人を見つけてしまったと顔を真っ青にしている。

 グレイが始末した相手は、パッと見る限り王宮の兵士であるし、とんでもない蛮行を働いているのはグレイのように見える。

 

「相変わらず容赦のない」

「容赦はあったじゃろうが」

 

 殺していない者もいる。

 それだけで十分な容赦だ。

 もちろん、足手まといにさせるためであるが。

 

 血塗れの廊下をのんびりと歩いて進む。

 

「ば、バミ様! これは、どういう状況なのですか!」

 

 悲鳴を上げる様に一人の若者が声を上げた。

 バミの部下の一人だ。

 同じ思いを抱えているほとんどの部下たちが、足を止めていた。

 バミは振り返って、今はついてもいない杖の先で、床をとんと叩いた。

 

「説明している時間はない。おそらく、王宮が乗っ取られている。今のは偽物の兵士だ。私は友人の言葉を信じる。信じられるものはついてくれば良い、そうでない者は残れば良い。無理強いはしない」

 

 それだけ言ってバミはまたグレイを追って歩き出した。

 

「容赦ないですねー」

「ホントホント」

 

 バミの言葉にそう言ったのは、ホープとクリネアだ。

 自力で王宮の情報を集めておらず、王位継承争いを、どこか他人事のように思っていた彼らは、今の状況を正確に理解していないだろう。

 そんな状況で、盲目的にバミを信じることができるものは良し。

 博打に出る勇気のある者も良し。

 冷静に判断を下すことができる者も良し。

 

 ただ、保留の判断をする者は、連れていく必要がないとバミは判断したのだ。

 この王宮の内乱により、この先の状況は一変する。

 もっと切羽詰まっている時にごちゃごちゃ言われては足手まといにしかならない。

 

「優しさだ。覚悟のないものは、覚悟が必要な場所へ来ないほうが良い」

「きっと心細く思っていますよー」

「よよよ、かわいそうに」

 

 バミが正論を述べると、ホープとクリネアが演技がかった喋り方で同情を誘ってくる。わざとらしくて、バミは二人の顔を見る気にもならなかった。

 どうやらグレイが一緒にいるお陰で、いつもより余計に調子に乗っているらしい。

 

「ではお前たちが残って導いてやるといい」

「流石バミ様、お優しい」

「偽兵士め、どんどんかかってこぉい」

 

 バミは手のひらを返した二人の相手をすることをやめた。

 別にこの二人だって、こんな緊迫した状況には慣れていないはずだ。

 それでもこうして明るくふざけた振る舞いをするのは、その緊張をほぐすためなのかもしれないと思いつつ、グレイを追って早歩きする。

 

 角をいくつか曲がるうちに、数人の若者がバタバタと走って追いついてきた。

 バミはその都度僅かに振り返り、自分の予想した通りの人物たちだけがついてきていることを確認した。

 

 今でこそグレイの相棒はクルムであり、最もグレイを制御できているのもクルムなのであろう。

 しかし、元々はその位置にいたのはバミである。

 グレイの無茶苦茶をした後の状況を、最もうまく回すことができるのは自分であるという自負があった。

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