転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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手早く作戦会議

「おお、王女様か。なんだか今日は、見たことのない兵士がうろついていてな。外にも妙な軍勢が現れたらしく、騎士たちはそちらへ向かっている。先ほどまでぶらついて、怪しい奴をぶん殴って回るつもりでいたんだが、こいつらがやってきて待機しておけというものだから、仕方なく言うことを聞いてやっていた」

「いやぁ、来てくださって助かりましたぜ、王女様」

「その通り……。これで何か不利益があったら、その時は殺すと言われていたからなぁ……」

 

 ラウンドが指差したのは、〈要塞軍〉の兵士たちに囲まれている、ゾエとグンナイだった。

 

「まだ殺さぬと言ってないが?」

「そうだ。どうせてめぇらなんて、碌でもないことばっか考えてんだからよぉ」

 

 すっかりラウンドの部下となっているブルトンは、二人の怪しい奴らを睨みつける。

 

「てめぇブルトン! それでも貧民街四天王か!? もうちょっと俺たちのことを庇うとかなんとかしたらどうだ!」

 

 ゾエはギャーギャーと文句を言っているが、少し奥の方にぽつねんと佇むロンヌスとメロディエもいて、実は今ここには貧民街四天王揃い踏みである。

 話が進まないのも困るので、クルムがゾエに尋ねる。

 

「ゾエさんたちはなぜここへ?」

「今朝がた見たことねぇ奴らがぞろぞろと王宮に向かうのを見ましてね。だからって俺たちじゃあ先に王宮に駆け込むわけにもいかねぇでしょう。しかし、何かありゃあ一番戦力が整ってる、ラウンドの旦那のところに来るんじゃねぇかと思ってこっちへ来たってわけです。途中で同じこと考えたグンナイと会ってな。つーかロンヌス! てめぇらだってちょっと遅れてやって来たじゃねぇか。同じ目的の癖にだんまりしやがって」

 

 ゾエがそう言って睨みつけると、ロンヌスとメロディエが同じ方向をプイッと向いて返事を拒否した。ゾエとグンナイの様子を見て、メロディエがだんまりの方針を決めたのだろう。

 元々ロンヌスは無口で何を考えているかわからないと思われているので、黙っていたってなにも不思議ではない。

 それにしても揃って同じ判断をする辺り、貧民街四天王の危機管理能力は大したものだ。生き残ることに関する嗅覚が群を抜いている。

 

「実際何が起きているのだ」

「内乱じゃ。敵も、その規模もまだ分からぬが、王宮は占拠されていた。特に国王や政務の中枢を中心に兵が割かれていたようじゃったな」

 

 ラウンドの疑問に、グレイが端的に答える。

 

「取り戻すか?」

「さぁて、どうするかはこ奴らが決めるじゃろう」

 

 ラウンドとグレイが王宮に行って暴れれば、もしかすると奪還は可能なのだろう。

 ただし相手が卑劣な輩である場合は、人質とされたものが山ほど死ぬことは間違いないけれど。

 グレイにとって重要なことは、クルムがどう判断をするかだ。

 

「まずは私たちに手を貸してくださっている方々の安全確保をします。まだ王都全体は制圧できていないようですから……。まだなのか、それとも、戦力が足りないのかはわかりませんが」

「貴族街への連絡は私が直接行きましょう」

「俺も貴族街を回る。一人で回るより早く済むはずだ」

 

 ぬっと顔を出したのはそれまで静かにしていたケルンであった。

 確かに貴族街は回るべき場所が多いので、手分けして回ることができるのならばその方が助かる。

 

「誰が敵か分かりませんよ?」

「ジグラ兄上が黒幕にいる可能性が高いんだろう? だったら私もやる。最初にデモンズ伯爵のところへ寄ってくれ。私はグロウバウゼンを護衛に、元々私と関わりが深かった貴族家に、避難を呼びかける。……お前の、代理としてだ」

 

 最後に詰まったのは、多少の悔しさがまだ残っているからだろう。

 しかしこの状況で混乱を起こさないためにも、そこははっきりしておかなければならないところだ。

 

「わかりました。……ロンヌスさん、メロディエさん、お二人もケルンお兄様の護衛をお願いできませんか?」

 

 貴族がもし避難してくるようであれば、護衛すべき対象は増える。

 グロウバウゼンは強いが、一人で多くを護衛するには不向きだ。

 もう一手、無口だが信用できる護衛としてクルムは二人に声をかける。

 

 メロディエと一瞬アイコンタクトをしたロンヌスは、「ぬ」みたいな短い言葉を発して深く頷いた。

 

「そんじゃあ俺はパクス商店へ行きますぜ。護衛は、まぁ、グンナイだけ連れてきゃあ十分でさぁね」

「お願いします」

 

 パクスの元へ行くことを名乗り出たのは貧民街四天王のゾエだ。

 ロンヌスが働くのならば、と思ったのだろう。

 パクスが元々貧民街出身であり、今もそちらから人を採用することが多かったことから、裏ではコッソリ縁があるのだ。

 本来表ざたにしたくない関係であっても、こういった場合には損得をキッチリとかぎ分けて名乗り出るのは流石である。

 

「では、ラウンド様は冒険者ギルドへ行って、メナス様とウィクト様に状況を知らせてください。それからハップスお兄様と騎士の方々、〈要塞軍〉の方々、それからジグ殿とルミネお姉様は、ここの安全確保をお願いします。外へ出る組は、街に出ているはずのホワイト様と、騎士たちの動向も探って下さい。できることならば合流したいところです。何か異論はありますか? なければすぐに出発します」

 

 次々と指示を出すクルムの言葉に、それぞれが頷いて同意を示す。

 置いて行かれているのは、セルルト一行と、一部の王宮から逃げ出してきた使用人たちだ。

 

「……悪いが、私の付き人に関しては信用しないでくれ。私を刺したのは、二十年来の付き合いがある従者だった。お前たちも、悪いが一か所にまとまって大人しくしておけ、いいな」

 

 セルルトに指示を出された者は悔しそうな表情で俯きながらも返事をした。

 中には心の底からセルルトに従う者もいるのだろう。

 そんな様子を見たグレイが一言。

 

「安心せい。お主も含めて最初からほんの少しも信用しておらんからのう」

 

 セルルトの従者たちは、グレイの戦力を目の当たりにしたばかりだ。

 それでいてなお、グレイのあまりに不遜な発言に、『なんだこの爺は』と眉を顰めるのであった。

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