戻った場所で待っていたのは、エルフの冒険者であるメナスと、パクスの息子であるヒューレと、そのお付きにパクスが〈リガルド〉と王都の交易の一切を任せているガントという、隻腕の男であった。
すなわち、ウィクトとパクスがいない。
「パクスの奴は、王都のパクス商会をまとめるために行かない、そうですぜ。代わりに、もし王都を離れるような事態になるならば、息子は連れて行ってくれと。まったく、俺たちが来るのが分かってたような準備の良さでね、腹の立つことに碌に反論もさせてもらえませんでしたよ、ええ」
ゾエは思い出して腹を立てたのか、けっ、と喉を鳴らした。
「ゾエさんの仰る通りです。父は、この騒動が王都内では治まらないだろう、と読んでいるようです。王都の外におけるパクス商会の全権限を、僕に移譲し、補佐にガントを付けたようです」
「悪く思わないでください。パクスの旦那も勝負に出てるからこその判断と、思ってもらえれば」
ヒューレの報告をガントがフォローする。
クルムとしても、場合によっては王都を抜け出すことも考えていたので、パクスの判断を非難することはできない。もしここでパクスが王都外へ逃げ出してしまうことになれば、パクス商会は地盤を失うことになるし、王都におけるパクスの信頼も失墜することだろう。
「悪くなど思いません。パクス様がこれが最良と思うのならば、私はそれを信じます。……ところで、ウィクト殿は……?」
「うん、すまないが、ウィクトも冒険者ギルド総長として対応に追われている。どうやら一部の冒険者たちが今回の内乱に加わっているらしく、責任者として持ち場を離れる訳にはいかないようだ」
心情的にはクルムの、というよりグレイの味方をしたいのだろうけれど、ウィクトはまともな人間だ。役職を放棄してまで駆けつけるわけにはいかないのだろう。
それに立場を保ってくれれば、それはそれで、後で何かしらの助けになる可能性もある。
先々のことを考えれば、立場を維持し続けることこそ、クルムの助けになる可能性だってあった。
これにもクルムは納得である。
「……そうですか。メナス様は〈飛剣〉のシエスタという冒険者はご存じですか?」
「ふむ。確か……アハーバ王国では有名な剣士だったはずだが」
「そうですか……。先ほど敵方にいて、先生が殺しました」
「流石グレイ。腕は鈍ってないようだな!」
流石冒険者だけあって、敵対した者を殺したことに関して、メナスは一切の動揺を見せずにグレイを褒めちぎった。
グレイもまんざらではなさそうに鼻の穴を膨らませている。
殺伐とした話題で微笑ましいやり取りをしている老人たちは放っておいて、クルムは近くにいるセルルトに声をかける。
「セルルトお兄様は何か考えがありますか?」
「ずっとここで見張られていて、考えも何もあるか。それよりお前、ヘグニ兄上のことは探したのか?」
「探していませんが?」
「この……!」
「そんな余裕がなかったのですから仕方ないでしょう」
セルルトからすれば大事な兄弟かもしれないけれど、クルムからすれば数回話したことがあるだけの半ば他人である。内乱の邪魔をするのであれば救出したほうが良いに決まっているのだが、どこにいるのかもわからなければ助けようもない。
「セルルトお兄様は、ヘグニお兄様がどこにいるか心当たりがあるのですか?」
「……こいつらに聞いたところ、貴族街ではないらしいが」
「それは知らないと同義でしょう……」
セルルトもクルムと同じ感想を抱いているらしく、まったく同じタイミングで頭を押さえながらため息を吐いた。
王都のうち、貴族街が占める割合はどう広く見積もっても一割程度。
残り九割から探し出せなんて、どだい無理な話である。
王都に何も問題が起こっていなかったとしても、見つけ出すのは困難だ。
「クルム様、少しよろしいですか?」
後ろから控えめに声をかけてきたのはモーリスだ。
「はい、なんでしょうか」
最側近候補の話を、クルムが無視するはずもない。
振り返って耳を貸すと、小声で情報が伝えられる。
「うちの者の情報によりますと、ホワイト騎士団長は少し前に東門郊外へ向かったそうです。目的は不明ですが、また別の者によれば、東門方面に正体不明の軍が展開していると」
「軍が……? ホワイト殿はその確認のために外へ……」
モーリスの配下には、父が育てた暗殺者たちが山ほどいる。
彼らは今、主に諜報員として王都中に散らばって情報を集めていた。
これはおそらく間違いない情報だ。
「合流、すべきでしょうね」
「別にいらんじゃろ。あの糞ガキなら勝手に生き残るのではないか?」
横から余計な役に立たないしょうもないアドバイスをくれるのは、クルムの先生であるところのグレイだった。
ホワイトに対しては相変わらず辛辣なところがある。
「単純に他の騎士たちも心配ですし、こちらとしても戦力を確保すべきです」
「やれやれ、仕方のない騎士団長様じゃのう……」
どうしてこう、まともに働いたかと思うとすぐに株を下げるようなことを言うのか。自分でバランスの調整でもしているのだろうかと思いつつ、クルムは次の一手を定めるのであった。