クルムは軍事的な行動に関する経験が不足している。
知識はあっても現場の判断に自信があるわけではない。
ならばと、クルムは手早く主要メンバーを集めて相談をする。
「これよりホワイト騎士団長との合流を試みるつもりです。外に展開する軍の確認に向かったのであれば、ホワイト団長はある程度騎士たちをまとめているはず。ここの守りを保ったまま合流すべきか、あるいは、少人数で合流すべきか。皆さんの意見を聞かせていただけますか?」
「まず前提の共有をしましょうか? クルムはなぜこの場所を放棄することも視野に入れているのですか?」
ルミネからの質問に、確かに説明が不足していたと、クルムは理由を説明する。
「まず一つ。現在の場所は王都北西方面。元は貧民街であるため入り組んだ道が多く、軍事的な行動は難しいでしょう。守りがたく攻めがたい位置です。ここを維持することの利点は、王都内に拠点を維持し続けられることですが、逆に、戦力を分けている状態で、ばらばらと攻撃に移された場合、結局守り切れるかは微妙なところです」
「防衛線をきずければとどまっていても良かったが、既に王宮の制圧が済んでいることを考えると、いつ敵が来てもおかしくない、だろ」
長くなった説明で、クルムがひと息ついた隙に、ケルンがその続きを請け負う。
それはクルムの想定とまったく同じであったことから、クルムは黙って頷いた。
「戦えぬ者も多いですからね……」
それぞれの陣営の使用人や部下を連れてきてしまっているため、今この場にいる者の半数以上は戦いに慣れていない者となってしまっている。そもそもそういった者を抱えた上での耐久戦は、あまり上策とは言えない。
「全員でホワイト団長との合流を目指した場合の問題は、王都から締め出される可能性と……、もしホワイト団長が戦闘に突入している場合は、挟み撃ちにされる可能性ですか」
バミが眉をひそめて言ったことは、これもまた正鵠を射ていた。
「その通りです。そしてその場合、援軍が足りなければ、場合によってはホワイト団長との合流をめざしにいった者が犠牲に、となる可能性もあります」
「その間にこっちが襲撃されたら、戦力不足になるかもしれないし?」
ファンファが合いの手をいれる。
「つまりそれは、全員でホワイトの奴のところへ向かって、近づいてくる奴を全員ぶち伸すのが一番安心ってことじゃろ?」
「……全てを最悪の想定で進めるのならば、そうです」
「あれもダメ、これもダメで辛気臭いのう!」
グレイが身もふたもないことを言って、やれやれと天を仰ぐ。
それをじろりと睨みつけたのはバミだった。
「策を巡らすとはそういうことだ。俺が最悪を想定できなかったから、当時はナックスが犠牲になった。あまり混ぜっ返すようなことを言うな。お前は昔からそうだ。大体」
「あー、わかったわかった、やかましい、儂は黙っておればいいんじゃろ! ほれ、話を進めよ!」
バミが至極真っ当な説教を始めようとしたところで、グレイは両手を上げて降参した。最初から口を出さなければいいだけの話なのだが、何か話に混ざりたかったらしい。
ある意味年をとっても少年らしい心を失わない、迷惑な老人である。
こんな時にグレイに同調して突っ込めば何とかなる、みたいなことを言い出さないあたり、ラウンドはキッチリと分をわきまえている。普段からリゾルデに散々文句を言われてきたのが、この作戦会議でも生きていた。
「この場所を維持する。ホワイト団長も救出する。両方を狙うには、あまりに今の状況は不安定か」
メナスがぽつりとつぶやくと、貧民街四天王のゾエも呟く。
「パクスの奴は、俺たちが王都を離れることを想定してやがった」
呟きに注目が与ると、ゾエは気まずそうに続ける。
「俺みてぇな目先の利益に飛びつきたい奴からいわせりゃ、断然ここを維持しつつ騎士団長様を呼び戻す、なんだが……。これだけの大騒ぎ起こすような奴が、それを許すのかって考えると、そりゃあ悪手なんじゃねぇかって気もする」
「ビビってんだな」
ブルトンが笑うと、ゾエはブルトンを鋭く睨みつけて答える。
「ああ、ビビってんだよ。だけどな、貧民街じゃ勇者はほとんど死んだだろうが。てめぇだって餓鬼の時分、散々逃げ回ってたはずだろうがよ。ま、一部の例外はいるけどな」
そう言ってゾエはちらりと不機嫌そうに黙り込んでいるグレイの方を見た。
「よりにもよって、現れた軍勢は西か……」
王国の南東方面を守り続けてきたベゼルフッド辺境伯は、苦り切った顔で呟いた。
議論に長く時間はかけられない。
クルムはこれを最後にしようと、黙り込んでいるハップスに問いかける。
「ハップスお兄様は、どう思われますか」
「……もし、セルルト兄上の仰る通りオブラ侯爵家が裏切っており、内々に軍を王都の周りに忍ばせているのだとすれば……、戦いはかなり不利になるだろう。そして、ホワイトが確認しに行った軍の方面は西。西は……、オブラ侯爵家の領土だ。半端な判断はすべきではない、と考える」
「……分かりました。全員でこの場を離れ、郊外の騎士団との合流を目指します。それぞれの手の者に、すぐに伝達をしてください。反対する者と議論する時間はありません。すぐに出発の準備を」
クルムの号令にそれぞれが返事をして、各所に散らばっていく。
そんな中、クルムは人がまとまっている一角に歩み寄り、その中心人物に声をかける。
「私たちは騎士団との合流を目指しますが、セルルトお兄様はどうなさいますか?」
はたしてセルルト相手に恩を売る行為が、この先どれだけ有効であるかわからないけれど、クルムは一応はっきりさせておくつもりでそう声をかけた。
現状セルルトの勢力は心もとない。
身内の誰が裏切り者かもわからず、戦えるものの人数だってさほど多くない。
その上、本人は病弱だ。
「同行させてもらう」
セルルトとて不本意なのだろうが、迷いはなかった。
今は生き残らなければならない。状況を把握しなければならない。
意地を張ってクルムと行動を別にしたところで、手に入るものは何もない。
「わかりました。では間もなく出発します。お兄様の周囲の方々のことは、お兄様にお任せしますので」
くれぐれも足を引っ張ってくれるな。
そこまでは口に出さないのは、クルムの恩情であった。