クルムたちは街を歩き西門へと向かう。
貧民街の住人の一部、と言っても相当な数がついてきてしまったのは、誤算である。クルムの評判が良かったと言えば喜ぶべきことなのであろうが、吉と出るか凶と出るかはわからない。
街の住人たちは、何やら不穏なことが起きているようだと分かっていても、実際に何が起きているかまではわかっていない。
できるだけ顔を出さないように。
しかし、家の中からこっそりと、クルムたちが歩いていくのを眺めていた。
クルムはその前方の方で、横に並んでいるセルルトに尋ねる。
「結局、ヘグニお兄様は何がしたかったのですか。あとは詰めるだけという局面で、ジグラお兄様の罠にはまって……」
「……最後の最後に戦えば、その後の政治のことを考えれば命を奪わざるを得ない流れになる可能性が高い。そうしなければ示しがつかないこともある。あれは、それを避けたかったのだろう。仮にも王位継承争いを、この段階まで生き抜いた優秀な王族だ。取り込んで生きていたほうが良いと思ったのだろう」
「本当ですか? そんな気持ちで、私やジグラお兄様に接触したのであれば、本当に迂闊であると言わざるをえませんが」
「そんなことは分かっている。だから私は行くなと言った」
セルルトはそれきり不愉快そうに口をへの字に曲げて黙り込んだ。
ヘグニは真っすぐでいかにも育ちが良い雰囲気を醸し出していたが、セルルトのほうはなんだか少し擦れている印象を受ける。
外にあまり出ていないのはセルルトのはずであるのに、妙なことだと思いながら、クルムは歩き続ける。
西門へたどり着くと、門の守衛たちは狼狽していた。
しかし、正面にハップスがいることに気付くとほっとして近づいてくる。
「ホワイト団長がここを通ったか?」
「はい! 何やら外に軍らしきものが展開していると、他の騎士と百人ほどの兵を連れて出て行きました」
情報に間違いはないらしい。
それからハップスはいくつか情報を聞き出し、堂々と門を開いて街の外へと歩き出した。
守衛によれば、ホワイトがこの門を通り過ぎたのは随分前だ。
普段であれば十分な戦力を連れているとはいえ、相手が本当にどこかの領軍である場合、戦力があまりに心もとない。
「クルム、急ぐべきだ」
「分かりました」
ハップスの提案にクルムは即座に頷き後ろに続く者たちに伝令を放つ。
「街の者の目もなくなりましたので、ここからは急ぎます。できるだけついて来てください。転んだものを踏みつけたり、怪我をした者を置いて行くことがないように」
多少遅れたとしても、どこかで合流するための時間は作るつもりだ。
しかし、まずは急いでホワイトに合流しなければならない。
地面を見れば、馬に乗って移動したであろうホワイトのあとを追いかけることはそう難しいことではない。
すぐにその痕跡を発見したハップスと騎士たちは、小走りでそれを追いかけ始めた。
「クルム、私とジグは最後尾につきます。……できればファンファも一緒に来てほしいのだけど?」
「……あまり気が進まないですけれど……、仕方ありませんわね!」
提案をしてきたのはルミネだ。
丁度クルムも誰に任せるべきかと悩んでいる所だった。
ルミネとジグならば何としても生き残りそうであるし、ファンファの周りにいるのは腕の立つ冒険者達だ。
時間稼ぎやら、いざという時の逃亡やらは彼らの得意とするところである。
「では、私もそちらに力を貸すとしよう。冒険者らしくな」
名乗り出たのはメナスだ。
長く冒険者をしてきた彼女ならば、きっとファンファ以上に冒険者をうまくまとめて、効率的に動かしてくれることだろう。
「お願いします!」
クルムは移動しながら一言、はっきりと言うと、四人は大きく頷いて列から外れた。ファンファに続いて冒険者達もぞろぞろと道の脇に逸れていく。
「さ! 後ろは私たちが守ってあげますわ。心配せずあなたたちは後からついて行きなさい!」
ニクスに肩車されたファンファが偉そうに、そして華やかに笑いながら言えば、不安に駆られながらついてきていた者たちも、それならばと少し明るい気分にもなる。
こういった場面でのファンファは中々に有能である。
行軍することしばらく。
ついてきている一般人たちが息切れを始めた頃だった。
突然ハップスが足を止める。
もう少し進めば森が途切れ、その先は開けた平原になる。
軍が展開しているとすればそこになるので、クルムはそのために足を止めたのかとハップスを見上げて意見を待つ。
すると、少し先の森の中からがさがさと数人の騎士が姿を現した。
「ハップス様。この集団は……?」
「ホワイト団長はいるか? 詳しくはそちらで話す」
「……聞こう」
遅れて茂みから姿を現したのは、フルアーマーの重みを感じさせずに動く男、ホワイトであった。
ホワイトは一行の中にグレイの姿があるのを見つけると、一瞬視線を止めたが、すぐに見ないふりをすることにしたのか、ハップスの方に視線を戻したようだった。
その表情はヘルムに阻まれていて見えないが、おそらくむすっとしていることだろう。