転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

439 / 439
怪蝶の羽ばたき

「そうだ。オブラ侯爵は、生意気で反抗的な私、ヘグニを毒で弱らせ……、いや、あれは死んでも良かったのだろうな。セルルトに酷い暴力に対する忌避感を植え付けた。そうして、第一子の座をセルルト、今のヘグニ兄上に。体の弱った私を、第二子として生かしてやった。大きくなって気が付いたことだが、父上はその条件を、私の命を守るために飲まされたのだと思う。オブラ侯爵は、自分たちにとって扱いやすい後継者を作り上げたわけだ」

 

 オブラ侯爵家はその時点で、クルムの父であるハルシ王が不穏な行動を起こせば、いつだって本人でも息子でも殺すことができるという証拠を見せつけたわけだ。

 今すぐ首を挿げ替えてもいい。

 だがそれをするとオブラ侯爵家にとっても不安材料はあった。

 その専横ぶりが周囲にばれて、地方貴族からの強い反感を買い、反乱を招くかもしれなかったからだ。

 団結させないためには、ぎりぎりまで専横がばれないほうが良い。

 力を蓄えつつも、外にそれがばれないように工作し続けてきたのだろう。

 

「私たち兄弟は幼い頃、父上とよく話をしていた。だがそれ以来、ほとんど会話をする機会はなくなった。周囲で仕えていた者たちも変わり、私たちは監視されるようになった。父上が、次々と女性を王宮に迎えるようになったと聞いたのもその頃だ」

「何もかんも嫌になって女に走ったか」

 

 グレイが当然の推測を口にすると、セルルトはあっさりとそれに頷いた。

 

「そうなのかもしれないと、私たちも思った。だが、いつからかそうではないのかもしれないとも思い始めた。父上は、優秀な王族を増やそうとしていたのではないかと。自らが動けぬ代わりに、子供たちが動くことにかけたのではないかと」

「前向きに考えすぎじゃろ」

「そうだとすれば……、随分とお粗末なやり方です。それによって多くの人が不幸になりました」

 

 クルムの母も、兄たちも。

 そして王位継承争いの中で命を落としていった他の候補たちもだ。

 

「幾人かの王子の派閥に、オブラ侯爵家の息がかかっていたのだと思う。そういった者たちが、ライバルとなる王子や王女たちを蹴落とした。私たち自身も、優秀な他候補者に接触を図ったことが、これまでも幾度かあった。だが、どんなに慎重を期しても、私たちが直接接触した候補は命を落とすことになった。彼ら自身に、身を守る力がまだ足りなかったのだ」

「……結局、何もできなかった、と言う話ですね」

「そうだ。お前の言う通り、私は無力だった。この話は、お前がこれから何かをするにあたって、知っておけば何らかの指標になるかもしれないと思って話している。言い訳と思うのならば、そのつもりで聞いても構わない」

 

 開き直った、というよりも、あくまで淡々とセルルトは語り続ける。

 

「そうこうしているうちに……、こんな状況になってしまった。ヘグニ兄上……、ややこしいから今後もこう呼ぶが、ヘグニ兄上も、私も、ほとんど諦めていたのだ。そしてヘグニ兄上は、これ以上弟や妹を失わなくて済むよう、お前やジグラの下へ、直接話をしに行ったのだと思う。今の段階で対立している勢力の首魁であるお前やジグラは、ヘグニ兄上が王位に就いた時点で、オブラ侯爵家から何らかの方法で殺されるであろうからな」

「聞くわけがないじゃないですか」

「……私もそう思った。だから行くなと言った。だが、ヘグニ兄上は僅かな可能性にかけたのだろう。……これは推測でしかないが……」

 

 セルルトは目を伏せ、少し泳がせてから、ため息を吐いて言葉を吐き出す。

 

「ヘグニ兄上は、無勢で他勢力の下へ顔を出し、自分が拘束され、利用されることを狙っていたのかもしれない。あるいは、殺されることを。そうして、オブラ侯爵家とつながりのない候補が、王位に就く可能性にかけたのかもしれない」

「結果が、この様か」

 

 グレイの容赦ないツッコミに、セルルトは悔しそうな表情を見せる。

 

「はっきり言ってジグラがオブラ侯爵家と手を組んでいることは計算外だった。アハーバ王国は敵だ。もしオブラ侯爵家がハルシ王国を乗っ取ったとすれば、最も警戒すべき敵であるはずなのだ。その二つが手を組んだことが、私は信じられない。だが、いざクルムと共に一日動いてみて気付いたことがある。もしやオブラ侯爵家は、そうせざるを得ないほどにクルムの勢力を……、いや、グレイ=フォン=アルムガルドを恐れていたのではないかと」

「ああ……、なるほど……。……私が思っている以上に、私の勢力がオブラ侯爵家に評価されていた、ということですね。ヘグニ兄上から、王位を奪い取るのではないかと思うほどに。そしてその理由は、私の働きというより、私の教育係になった先生だった、ということですか」

「弱虫共が勝手に恐れて暴走したと?」

 

 相変わらず態度のでかい老人である。

 しかし、グレイの言葉にセルルトはやっぱり頷いた。

 

「はい。王国の歴史に残されていない闇。王宮の殺戮事件。王子一人、貴族数人が命を落とし、国有数の達人たちが、アルムガルド家の殺し合いに巻き込まれて命を落とし、アルムガルド家はお取り潰し。王位継承者候補の多くが継承権を放棄した事件です」

「継承権を放棄? なぜじゃ」

「…………その事件では、グレイ=フォン=アルムガルドが、『卑怯な手を使った王族を皆殺しにする』と宣言した上で、その場にいた特に恨みの深い王子を殺し、実の兄を殺し、護衛を殺し、あるいは再起不能にし、血の繋がった父を殺して、いざ他の王族も殺そうとしたところを、バミ大臣に止められたから、と聞いています」

「言葉の綾じゃろ。国外追放された時にちゃんと、やっぱ殺さんでおいてやるって、誓書も書いたんじゃがな」

 

 実際に殺しておいて言葉の綾もない。

 発端は王位継承争いによる醜い騙し合い、殺し合いであったが、その後こうなった原因は、どうやらグレイにもあるようだ。

 バタフライエフェクトと言えばそれまでであるが、この蝶が起こした風は、どうやらそよ風では済まなかったようであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~(作者:翠碧緑)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

気が付くと、俺は人間と魔族が争うクソみたいな世界で、赤ん坊として捨てられていた。▼孤児院で育ち、飢えと貧困に耐える日々。▼そんな中、外見の特徴を理由に貴族に拾われる。▼どうやら俺の血には「特別な何か」が混じっているらしい。▼理不尽(暴力)。▼理不尽(陰謀)。▼そして、逃れられない理不尽(因果)。▼それでも、俺は生きることを諦めない。▼「そっちがそう来るなら、…


総合評価:6462/評価:9.18/連載:136話/更新日時:2026年06月28日(日) 20:09 小説情報

【一巻8月20日発売予定】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売予定です!▼皆様のおかげです。ありがとうございます!▼書影が公開されました!▼【挿絵表示】▼書籍のページはこちらになります!▼ht…


総合評価:16280/評価:8.89/連載:127話/更新日時:2026年07月30日(木) 17:19 小説情報

バスタード・ソードマン(作者:ジェームズ・リッチマン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

それなりに強力なギフトを持って異世界に転生したものの、モングレルには大きな野望も志もなかった。▼やろうと思えば強い魔物も倒せるし、世界を揺るがす先進的な知識もなくはない。▼だが、そうして活躍することによって生まれる軋轢やトラブルを考えると、保身に走ってしまうのが彼の性格だった。▼ギルドで適当に働いて、適当に飲み食いして、時々思いつきで何かをする。▼これは中途…


総合評価:128201/評価:9.18/連載:432話/更新日時:2026年07月30日(木) 01:15 小説情報

【書籍化決定】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~(作者:不破ふわる)(オリジナル現代/ホラー)

上位存在に日替わりで性別をコロコロされる生贄系転生者が、因習村を抜け出して怪異風味の現代ダンジョンに殴り込み(強制)を仕掛ける話。


総合評価:23399/評価:9.01/連載:165話/更新日時:2026年07月31日(金) 20:00 小説情報

転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)(作者:ニテーロン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

2026/2/23「次にくるライトノベル大賞2025」文庫部門三位を獲得しました!▼2025/11/25「このライトノベルがすごい!2026」新作文庫部門第二位を獲得しました!▼電撃文庫様より1〜4巻発売中▼5巻、発売決定しました!▼2026/6コミカライズ連載開始しました。▼https://comic-walker.com/detail/KC_017970…


総合評価:42119/評価:9.34/連載:223話/更新日時:2026年07月31日(金) 18:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>