転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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ヒューレの提案

 朝一番。

 折角だからと、グレイとクルムは広い訓練場へ出て、朝の特訓を開始した。

 部屋の中でやるよりよっぽど気持ちがいい。

 今日出立するのならばと、いつもより早めに訓練を切り上げたクルムは、端に置いてあるテーブルセットの椅子に腰かけて、準備運動と言って訓練場内を爆走するグレイをだらけた姿勢で見守る。

 やがてグレイが虚空に拳を叩き込み始めた頃、小さな足音がして「クルム様、おはようございます」と声がかかった。

 クルムは今の自分の姿勢を思い出すと、カッと顔を赤くして、それが引くのに合わせてゆっくりと姿勢を正し、何事もなかったかのように声の主を確認する。

 

「おはようございます、ヒューレ」

 

 やってきたのはパクス商会の一人息子、ヒューレである。

 先ほどのクルムの姿勢は見なかったことにするつもりなのか、首は横を向いてグレイの方を眺めている。

 もちろん、気遣いだ。

 

「どうぞ、座ってください」

「失礼します」

 

 まだ朝の早い時間。

 わざわざここまでヒューレがやって来る理由はないから、クルムを探してやってきたと考えるのが自然だろう。

 

「昨日のお話なんですが」

 

 クルムの予想通り、ヒューレは時間を無駄にすることなくすぐに口を開いた。

 

「冒険者を集めるのに、後払いと仰っていましたね? あれなんですが、着手金は、パクス商会から先払いで支払わせていただこうかと。冒険者は後払いだけでは動きません」

「……その場合〈要塞軍〉に借りるつもりでいましたが」

「〈要塞軍〉は軍備を整える必要があります。そこから借りるよりも、留まっているうちの金を使うべきでしょう。父上曰く、金は水のようなものです。とどまらせておくだけではいずれ毒になります。どちらにせよ暫くは、〈リガルド〉と王都間での交易は難しくなります。その分と、〈リガルド〉の支店に預けられている資金を使って下さい」

「……パクス様に無断で、大丈夫ですか?」

「クルム様。僕、この辺りの権限をすべて移譲されているんです。それを僕がどうしようと自由ですから。むしろ、父上は喜ぶと思います。次代のハルシ王に貸しが作れるのですから」

 

 できるだけクルムに重荷を背負わせないような言葉を先回りして選んでいることが分かる。その気遣いを、もし計算してやっているのだとすれば、きっと将来的にヒューレはとんでもない大人物になるのだろうとクルムは思った。

 

「……ヒューレは、リゾルデ様と一緒に動いてその手配をお願いします」

 

 そして、ヒューレの提案を受け入れる。

 本当はクルムの方から提案すべきだったのだ。

 自分のための財布になれと。

 いずれ返すと大きな顔をして、借りを作るべきだったのだ。

 負担になりすぎるのではないか、難しいのではないかと、ヒューレのことを信じ切れていなかったことをクルムは反省した。

 

 クルムはグレイが訓練を終えたのを横目で確認して立ち上がると、同じく立ち上がったヒューレの元まで歩いていき、その片手を取って両手で包み、ぎゅっと握った。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「……い、いえ」

 

 戻ってきたグレイは目を細めてそれを見ていたが、がりがりと頭をかいて、横を素通りしていく。

 朝食を食べて、少しばかりリゾルデと話をしたらもう出発の時間だ。

 クルムもパッと手を離すと、グレイのあとを追って歩き出す。

 

「ヒューレも、朝食にしましょう」

 

 ヒューレは、クルムの言葉に頷いたが、しばしその場にとどまってその後ろ姿を目で追いかける。

 ぼーっと立っていたヒューレだが、訓練場に入ってきた兵士たちの話し声に、びくりと体を跳ねさせると、慌てて二人の後を追いかけて建物の中へと入るのであった。

 

 朝食をとりながら、今後の動きについて再確認したクルムは、そのまま旅の準備をしながら、地図を広げてグレイに目指すべき場所を伝えていく。

 王都から出て北東方面へ向かう主な道の途中には、他の道と交差して一本になるようなポイントがいくつか存在する。これは調べればわかることで、グレイたちを待ち構えていた兵士たちがいたのも、そんな場所だ。

 ならば、何も難しいことはない。

 そこを重点的に狙って仕掛けていけばいいのだ。

 グレイならばあのくらいの規模の敵は蹴散らすことができる。

 

「いよいよお主も、儂の力を頼るようになってきたのう」

 

 街の門に向かって歩きながらグレイが言う。

 別にそれが嫌なわけでもなければ、不満があるわけでもない。

 ただ、思ったことをそのまま口に出しているだけだ。

 ヒューレとは違って、この老人にその辺りの気遣いはない。

 

「必要な時にまで、遠慮はしていられませんので。はっきり言って、もう玉座は見えています。この状況さえ打開できれば、私はハルシ王となることができます」

 

 しかしクルムも度胸がついた。

 グレイの性格もほぼ把握しているし、信頼関係も築いてきた。

 だからこそはっきりと、力を貸してくれとグレイに頼むことができる。

 出会ったばかりの頃の関係であれば、グレイがへそを曲げるかもしれないような発言である。

 

「頼りにしてます、先生」

 

 クルムが真面目な顔でチラリとグレイを見上げる。

 グレイはそれに応えるように不敵に笑った。




なんか別作品しばらく更新してなかったら連載中外せって怒られた。
まだ書くもん。
今忙しくて休んでるだけだもん。


あ、あと宣伝です。
拙作『不死たる異端者と災いの竜姫』って作品のコミカライズ(原作嶋野、漫画藤本キシノ先生)が8/10に発売します。
良かったらお手に取っていただけるととっても嬉しいです。

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