転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

463 / 463
セルルトの側近たち

 セルルトの部屋には時折人が訪ねてくる。

 王都への進軍に同行しない。

 その話をして以来、こっそりと、かわるがわる人がやって来るのだ。

 

 そしてそのほとんど全員が、王都への同行を勧めてくる。

 中には数人、ここ〈リガルド〉で大人しくしていましょうと勧めてくる者もいたが、改めて、その場合はお前を雇う余裕はなくなるだろうと言うと、動揺を見せてきた。

 結局のところみな、自分なのだ。

 自分が良ければそれでいい。

 セルルトの立場や未来などどうでもいい。

 オブラ侯爵家に命じられたからとはいえ、皆十年、二十年とセルルトの傍に仕えてきたような者たちだ。その誰もが、自分の都合だけを優先していることに、セルルトは一人落胆していた。

 

 分かっていたはずだ。

 分かっていたはずなのに落胆してしまうのは、つい最近目の前で本当の信頼関係を見せつけられているからなのだろう。

 セルルトが唯一信頼関係を築けていた相手は、たった一人、ヘグニのみである。

 

 本人は酷く落ち込んでいるが、実際セルルトの環境は過酷だったのだろう。

 普通仲間を得る時、例えば、クルムがウェスカを仲間にしたときは、最初から好感度がプラスの方向に傾いていた。

 例えばファンファだって冒険者を仲間に引き入れる時、自分の良い感情を抱かせてから口説いている。

 それがセルルトにはできなかった。

 配下を、護衛を、お付きの者を自分で選ぶことができなかった。

 自分たちよりもオブラ侯爵家に対して忠誠心が厚い、二心のあるものしか側にいなかった。

 

 他のものが0からきっかけをもってプラスにしてから配下に引き入れるのに対して、セルルトの場合は本当の主はオブラ侯爵家、というマイナスの状態からのスタートである。

 しかも、オブラ侯爵家の力は年々強くなっていた。

 どんなにセルルトやヘグニが心を砕いて接したところで、それは無意味である。

 

 そんな気の落ち込むような日々が続いたある日のことだった。

 明け方の早い時間。

 規則正しく健康的な生活をしているセルルトの部屋に、ノックの音が響いた。

 現れたのはもう五十を越えた護衛騎士の一人だ。

 セルルトとは特に長い時間の付き合いがある男で、護衛についてからすでに丸々二十五年が経過しようとしていた。入れ替わった後すぐから、ずっとセルルトの護衛をしてくれているベテランである。

 気難しい男で、普段からあまり話をするタイプではない。

 セルルトはこの男の不愛想な態度が、昔からあまり得意ではなかった。

 ただ、厳めしい渋面は迫力があって、ある意味護衛には向いている。

 

「ああ、ノットン。なんだ?」

「……聞いたところによると皆が軍への同行を勧めているようですね」

 

 個室の椅子に腰かけるセルルトに対して、ノットンは入り口の扉をしっかりと閉めてから、難しい顔をしてそう言った。ノットンが自主的にこれだけ話すのは、二十年以上共にいるセルルトから見ても珍しいことである。

 それだけ、セルルトが王都へ連れて言ってもらえないという事実は、配下たちにとって衝撃的なことだったのだろう。

 

「お前もそういうのだろう」

「…………いえ、こちらに残るべきかと」

「何? ……残ったところで、クルムが勝利した場合、私にはお前を雇う余裕はないぞ」

「その時はこの街の〈要塞軍〉にでも志願してみましょう」

 

 セルルトは少し驚いた顔をして尋ねる。

 

「お前、冗談が言えたのか」

「いえ、本気です。もはやクルム王女殿下は飛ぶ鳥も落とす勢い。あれに逆らうのは得策ではありますまい。不肖ノットン、力及ばずながら護衛隊長として進言いたします。クルム王女殿下に逆らうべきではない、と。お体のことを考えれば、こちらで療養して過ごされるのも、また、一つの生き方でしょう」

「……そう思うか」

「はっ」

「そうか……、わかった……。進言感謝する」

「いえ、それだけです」

 

 ノットンは話しが終わると扉に手をかけて部屋を立ち去ろうとしたが、ふと立ち止まってセルルトに話しかける。

 

「この街で、体に良さそうな茶を出す店を見つけました。よろしければ、明日辺りにともに参りましょう。ご案内いたします」

「どういう風の吹き回しだ」

「……昔、ヘグニ様とセルルト様を連れて、気に入っていただけるよう街中を歩いたことを思い出しました。それだけです」

「そうだな……、行くか」

「では、明日の朝食後に、お迎えに上がります」

 

 ノットンが去って行ったあと、セルルトは昔のことを思い出していた。

 確かに昔、まだ若手だったノットンが馬を引いて、街のあちらこちらを巡ったことがあった。まだヘグニがふさぎ込み、セルルトがもっと攻撃的であった頃のことである。

 

「……昔を、思い出して、か」

 

 二十五年。

 ノットンは、オブラ侯爵家の騎士として脂が乗り始めた年齢から、白髪が目立つようになる五十過ぎまで、長年にわたり文句ひとつ言わずに仕えてきた護衛である。

 セルルトは、なんだか無性にヘグニに会いたくなって、深くため息を吐くのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~(作者:翠碧緑)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

気が付くと、俺は人間と魔族が争うクソみたいな世界で、赤ん坊として捨てられていた。▼孤児院で育ち、飢えと貧困に耐える日々。▼そんな中、外見の特徴を理由に貴族に拾われる。▼どうやら俺の血には「特別な何か」が混じっているらしい。▼理不尽(暴力)。▼理不尽(陰謀)。▼そして、逃れられない理不尽(因果)。▼それでも、俺は生きることを諦めない。▼「そっちがそう来るなら、…


総合評価:6692/評価:9.18/連載:136話/更新日時:2026年06月28日(日) 20:09 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【美人で最強、なのに俺の前ではうざかわポンコツな魔王様】▼女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したは…


総合評価:2437/評価:8.23/連載:366話/更新日時:2026年08月24日(月) 17:50 小説情報

【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売しました!▼皆様のおかげです。ありがとうございます!▼書影が公開されました!▼【挿絵表示】▼書籍のページはこちらになります!▼ht…


総合評価:16562/評価:8.89/連載:132話/更新日時:2026年08月20日(木) 19:21 小説情報

【書籍化】異世界転生周回プレイもの(作者:にーしち)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

主人公「なぜ俺が選ばれたんですか?」▼女神様「貴方には素養があります。私の願いを叶えるのに必要不可欠な素養が」▼主人公「それは......?」▼女神様「貴方がどんなゲームも100%達成トロコンしないと納得できず千回だろうと一万回だろうと周回して全てを遊び倒す究極クソ廃人だからです」▼主人公「なるほど!」▼※カクヨムでも連載中です▼※2026年7月20日、オー…


総合評価:30990/評価:9.18/連載:33話/更新日時:2026年08月04日(火) 19:30 小説情報

【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~(作者:不破ふわる)(オリジナル現代/ホラー)

上位存在に日替わりで性別をコロコロされる生贄系転生者が、因習村を抜け出して怪異風味の現代ダンジョンに殴り込み(強制)を仕掛ける話。


総合評価:23619/評価:9.01/連載:177話/更新日時:2026年08月24日(月) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>