転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

465 / 465
これくらいでちょうどいい

 老人が気絶したやつを引きずって街を歩いてても何も言われないのは、この街にいる全ての警備が〈要塞軍〉によって成り立っているからだ。

 グレイの行動に対してちょっとちょっとと言える者など誰もいない。

 屋敷へ戻ると、グレイはセルルトに「部屋にでも戻っておれ」と言って、そのままノットンたちを引きずっていく。

 

 護衛たちがセルルトの方に向かっている間に、こちらの屋敷の方でもセルルト一派の怪しい者たちは皆捕縛して、尋問をすることに決まっているのだ。グレイが合流すれば開始の予定である。

 その尋問にセルルトを加える意味はない。

 敵に回ったとはいえ、長い付き合いのある者たちが苦しむところを見せようというのは、趣味の悪い話だ。

 

 セルルトは引きずって行かれるノットンを眺めてから、ため息をついて自室へ戻った。

 昨晩、ノットンから出かけの誘いをうけたことについて、クルムに相談した時点でこうなることは覚悟していた。多くの者、少なくともセルルトは全ての付き人を疑っていたので、ノットンがいざ裏切った時にもやはりそうかとは思ったのだ。

 ただ、そうだろうと思っていても、切ない気持ちにはなるものだ。

 

 部屋へ戻ってソファに体を沈め、ただただ己の不甲斐なさを噛みしめていると、控えめに部屋の扉がノックされた。

 億劫であったが、セルルトはソファから体を起こして、扉を開けてやる。

 するとそこには、見知った顔が二つあった。

 目を泳がせてガタガタと震えている者が一人、それに服をぎゅっと握られて迷惑そうにしている者が一人。掴んでいる方は十代半ばの少年、掴まれている方も同じ年ごろの少女である。

 

「セ、セ、ッセルルト様、あ、あのあ、のあの、み、皆さんが、と、突然、へいしにかこま、囲まれて……、ぐっ、ううっ」

 

 震えている少年の名はノウム。

 一応オブラ侯爵家の派閥の子爵家の息子である。

 とにかく怖がりで、緊張しがちな要領の悪い少年で、セルルトのお付きの中でも、他の者にはさっぱり相手にされていなかった。

 セルルトは仲間外れにされてその場にポツンと残されているノウムに、たまに話しかけてやっていた。しょうがない奴だなと思いつつ、どこか小さかった頃ヘグニに姿を重ねていたからだ。

 そしてそのノウムにぎゅっと服を掴まれているのは、どこかの貴族家に借金のかたに売られてきて、今はヘグニの毒見役をしているメーレという少女だ。よくよく教育されてきたようで、ほぼ何も言葉を発したことがない。

 死んだらすぐに代わりがいますので、と言われていた少女は、セルルトの下へやってきてから、既に二度ほど死にかけている。セルルトがスペルティアから買っている薬を勝手に飲ませて治療していなければ、もう生きていないはずの子だ。

 

 どちらも、派閥というにはあまりにも頼りない、ただの子供たちである。

 

「中へ入るといい」

「は、はいぃ」

 

 泣きながら部屋に入ってきたノウムをソファに座らせたセルルトは、一人分開けて同じソファに腰を下ろす。

 ノウムはびくりと体を跳ねさせた。

 同じソファに座ること自体が恐れ多いことだからと、思わず腰を浮かしたノウムに、セルルトは言った。

 

「いいから座れ、メーレもだ」

 

 メーレは黙って立っていたが、もう一度セルルトが「座れ」と言うと、ちょこんとノウムの隣に腰を下ろした。

 セルルトはしばらく黙り込んで、ノウムの要領を得ない話を聞いた。

 突然兵士がやってきて、みんな連れて行かれて、怖くて震えていて、廊下を盗み見ていた。セルルトが帰ってきたので、慌てて一緒にいたメーレを連れてやってきた。

 そんな感じのことをたっぷり十分ほどかけて、同じような場面を繰り返し話しながら教えてくれた。

 普段であれば無視して別のことを始めているところである。

 しかし今日のセルルトはその全部を黙って聞いて、最後に「どうしたらいいのでしょう」と泣きながら言ったノウムの質問にも答えてやることにした。

 

「どうもこうもない、これからも今まで通りにしていればいい」

「し、しかし、み、皆さんがその、連れて……、せ、セルルト様! クルム様と、な、仲直りされた方が良いのではないでしょうか!」

「仲直りな……」

 

 ノウムは何も知らないのだろう。

 改めてその泣き顔を見ると、何やら顔に内出血のようなものができている。

 先ほどまで目立っていなかったのは、おそらく化粧をして誤魔化していたのだろう。

 

「……その頬はどうした」

「え、こ、これは……」

「言え」

 

 目を右往左往させて困っているノウムに、セルルトは命令する。

 

「そ、その! セルルト様のことを悪く言う者がいたので、それはと抗議をしたら、殴られまして……、その……、それ以降怖くて悪口を止められず、そ、その、も、申し訳ございません……。あ、しかしメーレは初めから仲間外れにされていたので、何も聞いておりません! メーレは僕のこの怪我も、心配してくれて……!」

 

 馬鹿な子供だった。

 きっと親に『セルルトによく忠義を尽くせ』とでも言われて、家のお荷物を捨てるように側近に寄越されたのだろう。

 そして泣いていたかと思えば今度は、身分もない毒見役のメーレを庇っている。

 要領が悪くて、どうしようもない正直者だった。

 

「そうか……、不甲斐ない主ですまぬな。心配をかけた」

 

 セルルトは二人に謝罪する。

 ノウムはぽかんと口を開けてセルルトを見て、メーレもまた、瞳が零れ落ちそうなほどに目を見開いていた。

 

「クルムとはもう仲直りを済ませてある。大丈夫だ」

 

 セルルトは二人を見ながら、珍しく柔らかな表情で笑ってそう言ったのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~(作者:翠碧緑)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

気が付くと、俺は人間と魔族が争うクソみたいな世界で、赤ん坊として捨てられていた。▼孤児院で育ち、飢えと貧困に耐える日々。▼そんな中、外見の特徴を理由に貴族に拾われる。▼どうやら俺の血には「特別な何か」が混じっているらしい。▼理不尽(暴力)。▼理不尽(陰謀)。▼そして、逃れられない理不尽(因果)。▼それでも、俺は生きることを諦めない。▼「そっちがそう来るなら、…


総合評価:6695/評価:9.18/連載:136話/更新日時:2026年06月28日(日) 20:09 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【美人で最強、なのに俺の前ではうざかわポンコツな魔王様】▼女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したは…


総合評価:2479/評価:8.26/連載:372話/更新日時:2026年08月26日(水) 17:50 小説情報

【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~(作者:不破ふわる)(オリジナル現代/ホラー)

上位存在に日替わりで性別をコロコロされる生贄系転生者が、因習村を抜け出して怪異風味の現代ダンジョンに殴り込み(強制)を仕掛ける話。


総合評価:23667/評価:9.01/連載:178話/更新日時:2026年08月26日(水) 20:00 小説情報

【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売しました!▼皆様のおかげです。ありがとうございます!▼書影が公開されました!▼【挿絵表示】▼書籍のページはこちらになります!▼ht…


総合評価:16578/評価:8.89/連載:132話/更新日時:2026年08月20日(木) 19:21 小説情報

【書籍化】異世界転生周回プレイもの(作者:にーしち)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

主人公「なぜ俺が選ばれたんですか?」▼女神様「貴方には素養があります。私の願いを叶えるのに必要不可欠な素養が」▼主人公「それは......?」▼女神様「貴方がどんなゲームも100%達成トロコンしないと納得できず千回だろうと一万回だろうと周回して全てを遊び倒す究極クソ廃人だからです」▼主人公「なるほど!」▼※カクヨムでも連載中です▼※2026年7月20日、オー…


総合評価:31002/評価:9.18/連載:33話/更新日時:2026年08月04日(火) 19:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>