転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

469 / 469
ブルトンVSロブス

 〈要塞軍〉の訓練場は盛り上がっていた。

 ハルシ王国北西地域各地から集まった、というか、ラウンドによって集められた強者たちが、腕比べをしているからだ。

 周りに配置された長テーブルで、頭脳労働をする者たちが集まって、真面目に話し合いをしているのとは対照的である。

 クルムは頭脳労働側に。

 グレイは腕比べに。

 当然の分担であった。

 

 腕比べはいつのまにやら終盤に差し掛かっているようで、その場に残っているのは五人。

 貧民街出身のブルトン。

 王都の冒険者グロウバウゼン。

 〈要塞軍〉の代表、ちょうど昨日前線から帰って来たばかりの大隊長【頭蓋割】ロブス。

 〈リガルド〉の冒険者から、【五月雨】リンドバウム。

 北西地域から選出された流れの武人コテツだ。

 

 どれもこれも癖が強い。

 本気でやり合えば大怪我は必至だろう。

 そこでぬーっと集団から出てきたのはグレイである。

 

「そろそろ儂の出番じゃろう」

「俺が出ないんだからお前も出るな、ずるい!」

 

 ラウンドが大人げなく前に出たグレイに文句を言った。

 そもそもラウンドが一線を画した強さを持っているのが明らかであるからこそ出ていないのに、こんな争いにグレイが参加していいわけがない。

 

「ほう、ラウンド殿がそこまでおっしゃるほどの方か」

「……グレイ殿の話は聞いてますよ、アンさんから。私はグレイ殿とやる気はありません」

 

 早々に白旗を上げたのはリンドバウムであった。

 続いてグロウバウゼンも、神妙な顔つきのまま後ろへ下がっていく。

 

「俺も今はまだまだ敵わないって分かってるんで遠慮するっす」

「おい、逃げるのか?」

 

 同じく降参宣言をしたロブスに突っかかったのはブルトンだ。

 昔々にロブスと同じ地域に住んでいたことがあるらしく、ライバル意識があるようだ。

 

「別にいいんすよ、俺は。ブルトンさんとやり合う分には」

 

 ロブスはちらりとブルトンを見上げ、挑発的に笑った。

 グレイとやって怪我をしたくないが、お前になら負けないという、戦闘力に対する圧倒的な自信である。

 

「言ったな……、俺はこいつとやるぞ!」

 

 ブルトンが宣言すると、その場はワーッと盛り上がった。

 話し合いをしていたクルムたちも思わずびくりとして、訓練場の方を向いたくらいである。

 怪我をされては困るとリゾルデが立ち上がると、そこに兵士たちの間を割って一人のエルフが姿を現す。

 

「治癒は私様が完璧にやる。有償で」

 

 内輪もめで金を稼ごうとする、人族の始祖と呼ばれるエルフの王族がそこにいた。

 この調子なら争いも止むだろうかと、リゾルデが腰を下ろしかけたところで、ブルトンの声が響く。

 

「やってやろうじゃねぇか! 負けたほうが全部支払いだ」

「いいっすよ、お金あるんすか?」

 

 そのやり取りにまた兵士たちが盛り上がる。

 完全に馬鹿たちのノリであった。

 

「多分止めても無駄ですよ」

「……そうでしょうね」

 

 このノリがなんとなく理解できてしまっているクルムが言うと、長年〈要塞軍〉でやってきたリゾルデも、ため息を吐いて椅子に座り直した。

 これを何とかしようと挑戦するのは、ただただ無駄な労力である。

 

「馬鹿な奴らだぜ、まったく」

 

 呟いたのは頭脳労働の方に参戦している貧民街出身のゾエであり、他の多くの者も同意して頷いた。

 

「でも、頼りになりますよ」

 

 それに反論したわけではないのだろうが、別の意見を述べたのはパクスの息子、ヒューレであった。子供であっても物おじしない姿勢は、商会長のパクスの性質を受け継いでいる。

 ここに居る者は皆頭が回る。

 戦を前にしてもあれくらい元気で、そして恐れ知らずの方が頼りになることはよく分かっていた。

 

「それもそうさね……、いいことを言うじゃないか」

 

 アンが顔に皺を作って微笑み、ヒューレを褒めると、皆もそれに頷いた。

 そんな和やかな雰囲気の頭脳労働組に対して、脳筋たちのボルテージはさらに上がっていた。

 

 とにかく縦にも横にも大きなブルトンが拳を握って構えると、ロブスも使い慣れたトンファーを両手に構えた。

 両者はにらみ合い、じりじりと様子を窺う。

 ロブスからすればブルトンくらいの魔物はいつも相手にしているが、それでもすぐに飛び込むにはやや躊躇するくらいの威圧感はある。

 

 先にしびれを切らしたのはブルトンであった。

 両手を無防備に肩口まで上げたまま、真っすぐに突貫していく。

 そうしてロブスに覆いかぶさるように拳を振り下ろしたところで、あばらを砕くような強烈なトンファーの一撃が突き刺さった。

 

 ロブスには確実な手ごたえがあったが、ブルトンはそれでも止まることはなかった。振り下ろされた拳の威力は変わらず、ロブスはそれをもう片方のトンファーで受け止める。

 鉄の塊と拳である。

 拳の方が痛むはずが、ブルトンはギラギラと目を輝かしたまま止まらなかった。

 拳を開き、ロブスのトンファーを握っている手ごと握りつぶそうと試みた。

 ロブスはばっと飛びすさる。

 ブルトンがさらにそれに追いすがったところで、ロブスがトンファーの先端を素早く幾度もブルトンの腹に叩き込んだが、それでもブルトンは止まらなかった。分厚い脂肪と筋肉が、ダメージの大半を防御しているのだ。

 ブルトンが手を伸ばし、ロブスの肩を掴もうとしたところで、ロブスは地面を蹴って前方宙返りし、そのままブルトンの頭部に踵落としを叩き込んだ。

 

 ずしん、と音を立ててブルトンが地面に沈んだ。

 

「くそ、やるっすね……」

 

 悔しそうな顔をしたのはロブスであった。

 本来ならばトンファーを叩き込むところだが、流石に頭部に本気の一撃を入れては死んでしまう。一応手加減はしたが、胴体への攻撃だけで沈められなかった時点で、ロブスからすれば悔しい結果である。

 

 目を覚ました時のブルトンは、それよりもずっと悔しがるのだろうが、過程を見るのであれば、周りが思っていたよりもずっと良い勝負であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~(作者:翠碧緑)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

気が付くと、俺は人間と魔族が争うクソみたいな世界で、赤ん坊として捨てられていた。▼孤児院で育ち、飢えと貧困に耐える日々。▼そんな中、外見の特徴を理由に貴族に拾われる。▼どうやら俺の血には「特別な何か」が混じっているらしい。▼理不尽(暴力)。▼理不尽(陰謀)。▼そして、逃れられない理不尽(因果)。▼それでも、俺は生きることを諦めない。▼「そっちがそう来るなら、…


総合評価:6755/評価:9.19/連載:136話/更新日時:2026年06月28日(日) 20:09 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【美人で最強、なのに俺の前ではうざかわポンコツな魔王様】▼女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したは…


総合評価:2548/評価:8.26/連載:384話/更新日時:2026年08月30日(日) 17:50 小説情報

【8/24 1巻発売!】因習村出身でも現代ダンジョンでなろう系をやれますか?~俺の後ろの上位存在があまりにもラスボスすぎる~(作者:不破ふわる)(オリジナル現代/ホラー)

上位存在に日替わりで性別をコロコロされる生贄系転生者が、因習村を抜け出して怪異風味の現代ダンジョンに殴り込み(強制)を仕掛ける話。


総合評価:23704/評価:9.01/連載:180話/更新日時:2026年08月30日(日) 20:00 小説情報

【書籍化】異世界転生周回プレイもの(作者:にーしち)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

主人公「なぜ俺が選ばれたんですか?」▼女神様「貴方には素養があります。私の願いを叶えるのに必要不可欠な素養が」▼主人公「それは......?」▼女神様「貴方がどんなゲームも100%達成トロコンしないと納得できず千回だろうと一万回だろうと周回して全てを遊び倒す究極クソ廃人だからです」▼主人公「なるほど!」▼※カクヨムでも連載中です▼※2026年7月20日、オー…


総合評価:31107/評価:9.18/連載:34話/更新日時:2026年08月27日(木) 18:15 小説情報

【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売しました!▼皆様のおかげです。ありがとうございます!▼書影が公開されました!▼【挿絵表示】▼書籍のページはこちらになります!▼ht…


総合評価:16660/評価:8.89/連載:133話/更新日時:2026年08月28日(金) 22:21 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>