「では我らもやろうか……」
不敵な笑みを浮かべ前に出たのは、コテツという男であった。
すらりと抜いたのは幅広の刀で、怪しくぎらぎらと太陽の光を反射している。
細かな粒が並んだような刃文は、見た目にも美しい。
「お主、名を何と言うたかのう?」
「コテツ」
「ほー……」
グレイは鬚をさすりながらその男の姿かたちをしっかりと観察した。
長いこと冒険者をしているが、刀を使う相手と戦う経験は殆んどなかった。
グレイはこの世界にも、こんな感じの民族がいるらしいことは知っていたが、この年まで触れ合うことがないほどに遠くの島国に暮らす民族である。
「随分と遠くまで旅をしてきた者じゃのう」
「何と、我が故郷を知っていらっしゃるか」
「まぁのう」
実際はよく知らないが、それらしく嘯いてみせれば、周りは驚き、コテツも何やら感動しているようであった。
「これは是非、我が実力を見せねばなるまい」
グレイが前に一歩出ると、コテツは刀を中段、正眼に構える。
目は細められ、その視線はぴたりと止まっているが、それ故にどこを見ているのか、どこを狙っているのかさっぱりわからなかった。
「武器はなくてよろしいか」
「いらぬ、かかってこい」
グレイは肩の力を抜いて手を僅かに広げたまま待機する。
自然体。
コテツの実力を見てやるつもりでいた。
正眼からの斬りかかりには振り上げが必要だ。
その動作がなければそのままついてくる可能性が高い。
距離を詰めねばとどかないから、ついてくるのならば踏み込みがある。
さて、と考えていると、コテツの刀の握りに僅かに力が入ったのが見えた。
前腕が膨れ、そして右手が弾けるように外れ、後ろにあったはずの左足が前に、左半身と、左腕が前に突き出される。
一連の動作によってグレイとコテツの間にあったはずの間合いが消し飛んだ。
肩口に向かってまっすぐ伸びていく最速の突き。
それは間違いなくコテツのできうる限り、最速の攻撃だったのだろう。
グレイはそれを、ふっと後ろに倒れることで躱した。
そして刀がひかれる前に、右手の親指と人差し指、中指で刀をつまんだ。
次の攻撃に移るために刀を引いたコテツは、その重さに驚きながらも、腕に力を込める。
その勢いを利用したグレイが、前に一歩踏み込むと同時に左手の拳を握ると、それをびたっとコテツの顎の手前で止めて見せた。
ぴたり。
二人の動きが止まったところで、遅れて風が巻き起こりコテツの髪をびゅおっと揺らす。
「……参った。なんという……武神の如く無駄のない……流麗とでも言うべきか。ラウンド殿の力強さとはまた違う、無駄なき動き……。この短い間に二度も負けを認めることになるとは、不覚……! しかし、何と面白い!」
コテツが降参したところから、段々とヒートアップして燃え滾っている所へ、ロブスが後ろから歩いてきて、ポンと肩に手を乗せる。
「先生は魔法使いっすよ」
コテツはロブスの実力を認めていたが、その言葉は信用しなかった。
ははっと笑い「皆が見ている前で下らぬ冗談を……」と流そうとしたが、周りを見回すと、数人の実力者たちがそれを肯定するかのように深く頷いている。
「俺昔、強くなるために魔法教えてもらおうと思ったのに、素手でボコボコにされて、夢かと思ったっすもん」
「魔法使い……」
「うむ、魔法使いじゃ。お主もぼちぼちじゃな。メナスには勝てなそうなぐらいじゃのう」
コテツが驚きショックを受けている所へ、グレイがさらに追い打ちをかける。
「ま、メナス殿? その方も我より強いとおっしゃるのか!?」
「ま、そうじゃろうな。ロブスもお主より強いのでは?」
「なんと? むむ、ロブス殿、ここは決着をつけたく……」
「お、いっすよー」
そうして今度はロブスとコテツが向き合って戦うことになった。
二人が火花を散らして怪我を量産し始めた頃、怪我の治療が終わったブルトンが目を覚ました。
「くそ……、もっと強くなりてぇ……。あ、あの野郎、また戦ってやがる!」
立ち上がって戦いを見ようとしたところ、目の前にスペルティアが立ちはだかった。
「支払い」
「今それどころじゃねぇんだよ」
「支払い」
「うるせぇなぁ! わかったよ、いくらだよ!」
「金貨一枚、金貨一枚と銅貨一枚、銅貨二枚、銅貨三枚」
「だからいくらだよ!!」
「態度が悪くて払うのが遅いから増えてる。金貨一枚と銅貨五枚」
「待て待て待て待て、今持ってくる!!」
顔を青くしたブルトンがどたどたと走りだす。
スペルティアがどんなポジションのどんな人物かは知っているから、流石にこの借金から逃れられるとは思っていない。
ブルトンが消えて行ったのを確認すると、スペルティアは振り返って、ややコテツが不利な状況の腕比べを眺める。
「どっちも頑張れ、どっちも頑張れ」
とても応援しているとは思えぬ平坦な言い方であるが、スペルティアは確かに応援していた。どちらもほどほどに怪我をしてくれれば、いっぱい治療費がもらえて嬉しいな、と。