また数日が過ぎた。
北東、南東地域からは続々と使いの者が送られてきており、連携は順調だ。
北東地域はすっかり色々と諦めたらしいファルボド子爵が根回しをしてくれたらしく、クルムが助けた侯爵伯爵といった、身分の高い貴族たちを中心に兵が集まっているらしい。
手紙が届く頃には行軍を始めるそうなので、こちらはアハーバ王国をけん制してくれている南東方面のベゼルフッド辺境伯らと、王都のオブラ侯爵家勢力との間に入ってもらう。
クルムたち北西軍は、同じく、南西勢力と王都との間の壁になるようにして展開して、王都を挟み込むような形にするつもりだ。
クルムの元々の予定としては、ぐるりと南西地域を攻略してからじわじわと追い詰めていこうと思っていたのだが、重要人物の救出や、できるだけ早い奪還を考えると、王都を取り戻すことを優先すべきだということになった。
結局のところ玉座を奪われたままでは、いつか自分たちの方が反乱軍だと主張され、それが広がれば国内で泥沼の内戦になりかねない。
時間をかければかけるほど、地方の貴族の裏切りも懸念しなければいけなくなるため、一気呵成に勝負を決めるべきだというのが、リゾルデやバミら頭が切れる者たちからの強い意見であった。
〈リガルド〉から軍が出る。
最低限防衛のための人員は残してあるが、もし南西の貴族が一斉に攻め寄せれば、北西方面の土地を守り切ることは難しい。
結局とってとられてでは消耗していくばかりなので、軍で囲んですぐに突入が難しい場合は、グレイを中心とした潜入部隊の出番となるわけである。
相手方もクルムたちが準備している間、軍備を整えているはずだ。
おそらくどこかで一当てくらいしてくるだろうというのが、参謀陣共通の見解である。
問題はその一当てにどれだけの力を入れてくるかだ。
時間稼ぎなのか、壊滅をさせるためなのか。
そういった情報を抜き取るためにも、先に先にモーリス家の者を走らせて、様子を探らせていく。
王都へ向かって進むこと十五日。
ついに、行く先に軍が展開されているという情報が知らされた。
場所は川を挟んだ向こう岸。
敵は通り過ぎようと思えば横っ腹をつくことのできる山に陣取り、反対側には伏兵をいくらでも隠せそうな森がある。
王都を守るためならば、絶対にここを使うべきという、教科書通りの陣構えであった。
もう一日歩けば、そこへたどり着いてしまう。
その日北西方面軍は早めに歩みを止め、首脳陣が集まって話し合いをすることになった。
「まともに進めば被害は甚大。何か良い案はないものか……」
ため息を吐きながら暗い顔をしているのは、駆り出されてきた貴族領主たちである。
彼らは大義名分があることは分かっているが、別に戦がしたいわけではない。
どこまで行っても勝ち馬に乗って、損耗は避けたいという気持ちはある。
それは当たり前のことであり、責めるべきことではなかった。
「まともにぶつかるべきではない。弓矢だけでなく、相手方に魔法使いが潜伏している可能性もある。別動隊に山を奪わせて、指揮官を倒すことができればそれが一番いいだろう」
理想的な意見を述べたのはケルンだ。
クルムに指揮官を任せると言われて幾分か張り切っているのだろう。
その主張に対してリゾルデが少し考えてから答える。
「確かにその通りです。問題は、私たちが別動隊を出す可能性を、あちら側も想定しているであろうことでしょう」
「どこを通ったとしても、ある程度待ち伏せがされていることだろう。私たちはこの辺りの土地に明るいわけでもない。地元の貴族は……、王都に取り残されているな」
この辺りの貴族の領土を脳内で検索したらしいバミは、しっかりとその答えを出した。どうやらクルムが王都から連れてきていない者が、この地域を治めているらしい。
「するってぇと……、むしろこちらが不意打ちを警戒するべきなんじゃないです?」
「……そうだな」
貧民街四天王のゾエが眉をひそめて意見を述べると、ケルンがちらりとクルムの様子を窺ってから頷く。
黙り込んでいるのでどうしたのかと気になっているのだが、見てみると案の定何かを考えこんでいるようである。
「クルムはどう思うんだ」
「……より良い戦果を求めるのならば、ケルンお兄様の仰る通りだなと。そうなると川を渡るにはどうしたらいいのか。編成はどうするべきか、と考えていました。それから、私たちを迎え打とうと布陣している軍の指揮官が誰か、とか、士気はどのくらいかとか。どちらにせよついてから判断すべきことはあると思います。明日は警戒しつつ急いで進軍。明るい時間に川の手前に陣を敷いて、改めて作戦を立てましょう。あ、冒険者の方々と、先生や私が先行して、罠がないか、待ち伏せがないか確認した方がいいかと。日が昇ってすぐに出発したいと思うのですが、先生はいかがですか?」
「構わん。確かに危険な場所を歩くのは冒険者が得意とするところじゃからな」
「ありがとうございます」
突然次々と喋り出したクルムにケルンは気圧される。
まだ話していないことはあるようだが、黙っているのには意味があったということだ。こうして近くで真面目な話をすると、ケルンは改めてクルムの年齢と中身のギャップに驚かされる。
「指揮官や士気に関しては、ついてから探ってみるしかないですからな。場合によっては一度戦の前に話し合いの時間を設けてみるという手もあるでしょう。もちろんあちらが応じればの話ですが」
クルムの意見を受けたバミは、頷いてその意見を通すための方策を考える。
話し合いは夜遅くまで続いた。
戦いはもう目の前まで迫ってきている。