ケルンやラウンド、リゾルデ、バミといった首脳陣たちが集まっている辺りに到着したクルムはさっそく進みながら今見てきたことを伝えていく。
「敵方の数が、こちらと変わらないほどいるように見えました。こちらは森を抜けきらずに、相手から全体が見えないようにして睨み合うようにしましょう」
「都へ向かうのならば、力押しでも急ぎ突破しなければならないのではないか?」
ケルンの意見はもっともであった。
出がけの予定では、できるだけ早い王都への到着を目指すという話になっていたはずだ。
「本来はそうです。そこでセルルトお兄様に質問があります。オブラ侯爵家は、この短期間であれほどの兵力を集めるほどの力がありましたか? 騎士団が機能していない王都で、です」
本来王都の防衛は騎士が担っている。
軍を編成する際にも、騎士団長を頭として、それぞれの騎士たちが兵士十人ほどを統率する形で動かしていくことになっている。
騎士団長のホワイトや、副団長のジグ、そして何かと手を貸していたハップスがいない状態で、まともにこれを機能させることは難しいはずだ。
「いや、難しいはずだ。もしこの軍と同じ数がいるのだとすれば、他方面ががら空きになっている可能性が高い」
「そうでしょう。そう考えると敵軍の多くは、統率の取れていない王都の兵士、あるいは普通の民を連れてきている可能性すらあると思います」
ダミーの兵士。
相手方としては主な敵となるクルムたちの時間を奪って、他方面を先に潰すつもりなのだろう。
「ならば、なおさら突破を試みても良いのではないか?」
「川向こうに弓兵が並べられていて、川を渡るには多くの犠牲が出ます。森には魔法使いも隠されているでしょう」
このような形で時間を稼がれると、アハーバ王国とオブラ侯爵家勢力に挟まれているベゼルフッド辺境伯率いる南東方面軍は、本来かなり苦しい立場に追いやられるはずだ。
ただし今回の場合は、北東方面軍が間に入り込む形で南東方面軍をカバーしている。それがクルムにも少しばかりの判断までの猶予を与えた。
「それに……、敵が王都の兵士や、民を取り込んでいるのだとすれば、彼らと無駄に殺し合うよりも、敵の主力だけを潰して取り込むことを優先したいと考えています。今、モーリス殿の手の者に、川の上流の様子を調べてもらっています」
「……なるほど。せき止め、解放し、敵の兵士だけを押し流すのですね?」
リゾルデがにやりと笑って顎を撫でた。
「はい。ですから本隊には時間稼ぎとして、敵の弓兵が引かぬように、時折川を渡るようなふりだけしてほしいのです。ただし犠牲は出したくありません。しっかりとした大楯を用意して、矢を受け止めましょう。ついでにそれを貰って、備蓄に追加してしまいましょうね」
「いい考えですが、敵方もそれは警戒しているのでは?」
クルムが我が意を得たりとばかりに頷いて、ついでに矢の泥棒まで計画しているところに、バミが疑問を呈した。
「それというのは、川の上流の警戒ですか?」
「はい。精鋭を配置していると思いますので、向かう方も精鋭を向かわせるべきでしょうな。私としては、クルム様はこちらに残った方がいいとは思いますが……」
バミはちらっとグレイを見る。
精鋭となるとグレイが出る。
グレイが出るとなると、クルムはついて行ってしまう。
困ったものである。
「いえ、行きます。そのために、ケルンお兄様に色々とお任せしているのです」
バミだけでなく、リゾルデ、モーリス、セルルトあたりまで、一斉にため息を吐いた。どうして一番偉いはずのクルムが、毎度毎度そうやって危険に身をさらすのかと言いたいのだ。
言っても聞かないので諦めているけれど。
「川をせき止めて向こう岸に渡ります。十分な水量がたまったら解放し、そのまま裏手から丘を登り、のろしを上げます。その頃には川下は水浸しになって、弓兵たちは引いていることでしょう。整然と軍を進めてください。その隙に私たちは丘の上にあるだろう敵の本隊を叩きます。それが終わり次第、降伏を呼び掛けていきますので、逃げる者は追わなくて結構です。もちろん抵抗する者は倒して構いません」
すらすらと言葉を吐き出しきったクルムは、ぐるりと仲間たちを見回してもう一度口を開く。
「……どうでしょうか?」
皆それぞれ呆れていたが、しかし、うまくいけばよい作戦である。
戦というのは本来博打をするものではない。
十分な準備をした上で、詰将棋のように一手一手慎重に進めるものなのだ。
なのにこの王女と来たら、全ての場面で最良の成果を得ようと動いている。
どう考えたって良くない。
良くないのだが、ギラギラと目を輝かせているクルムのあり方に、既にここに居る者たちは皆やられた後であった。
それぞれがそれぞれ、うまくいかなければこの時止めなかった自分のせいかと思い、自分を納得させながら、反対意見をごくりと飲み込んだ。
「俺も行く」
「その精鋭、もちろん俺も数に入ってるっすよね?」
もちろん、ラウンドやロブスのように、面白そうだと笑って身を乗り出す者もいるのだけれど。