夜になった。
モーリスの手の者が先行し、ロブスとクルムが並んで歩く。
グレイは屋根の上を飛んで移動し、残りは後ろからついてきている。
通りにはあまりに人が少なく、歩いているだけで目立ってしまっている。
しかし呼び止められた時に、ロブスとクルムの二人だけならば、冒険者ギルドに行く予定があるとでも言えば見逃してもらえる可能性はある。
この組み合わせならば、ぎりぎり親子でも通るくらいの年齢差である。
「人が少ないですね……」
「そっすねぇ。まぁ最初からそんな感じだって話は聞いてたっすけど、こりゃあ想像以上に人がいないっすねぇ」
「戦時中と考えればわからなくもないですが……。ギルドは繁華街の通りにありますし、あちらに行けば少しは賑やかになるかもしれません」
ぽつりぽつりと喋りながら元々貧民街とされていた区画を抜ける。
普段は騎士が巡回しているようなルートにも、あまり警備の姿は見えず、できるだけ見つからないようなルートを選んで歩いているのが段々と馬鹿らしくなってくるくらいだ。
時折大通りをのぞいても、やはり人通りはほとんどなく、王都というにはあまりにも寂しい有様であった。
「早く、王都に戻りたいですね」
「まー俺はいつも魔物との最前線にいるんで、これくらい静かな方が慣れてんすけどね」
「街の外だと、あまりに静かすぎても怖そうですけどね」
「あ、そーなんすよ。ピタッと何も音が聞こえなくなる時って、大抵やばい魔物が近くに潜んでいるっすからねぇ」
一応魔物がうようよといる旧アルムガルド領の森を歩いたことのあるクルムは、その光景を想像して嫌な顔をする。
「その話からいくと、今のこの状況は強い敵が周りに潜んでいそうなものですけれど」
「いやぁ、そうだとしたら誰かが知らせてくれると思うんすけどねぇ」
そんな話をしながら暫く仲良く横並びで歩いていく二人。
細い路地をいくつか抜け、ドキドキしながら本通りも通り過ぎ、ようやく繁華街のあたりまでやって来ると、少しばかり辺りが賑やかになり始めた。
裏社会で生きているような奴らだとか、遠慮のない冒険者であるとかが、妙に暗い王都の雰囲気を吹き飛ばすかのように大きな声を上げながら酒を飲んでいたのだ。
クルムは思わずふっと口元を緩ませた。
普段であればしょうもない光景であるが、こういう時ばかりは彼らのバカ騒ぎも面白いものである。
しばらくその賑やかな通りを歩いていると、やがて突然後方が騒がしくなり、人がわらわらと走って来る。
「おーい皆隠れろ! お役人様がいらっしゃったぞ、帰れ帰れ」
先頭を走る者が先ぶれのようにそういって騒ぎながら通り過ぎていくと、外で飲んでいたような奴らが慌てて近くの店に飛び込み、店は店でぱたんぱたんと店じまいをしていく。
「おい、あんたらものんびりしてないで、ほれ、逃げるぜ!」
気が良さそうなおっさんが赤ら顔でクルムたちを急がせる。
クルムたちがそれにつられて走りだすと、おっさんはゲラゲラと笑いながら話しかけてくる。
「行くところはあるか? 俺はこのまま冒険者ギルドへ行くぜ!」
「では私たちもそちらへ」
振り返って見ると、ぱたんぱたんと窓やら扉が閉まって、通りが暗くなっていく。
そして暗闇に追いかけられるように、冒険者らしきものたちが逃げてくる。
その中には当然のように貧民街四天王も混ざっていた。
妙な光景であるが、なんだか馬鹿らしく愉快でもあった。
おそらく裏社会の住民や冒険者たちは、王都の今のあり方に馴染む気がないのだ。
これが本当なのか、かりそめの状態なのかを見極めているような状況なのだろう。
それはきっと彼らが、街で普通に暮らす人々よりも腕っぷしに自信があり、ぎりぎりまで様子見をすることができるからである。
更に言うならば、冒険者に関しては、この街以外でも活動できるという強みも持っていた。
「急げ急げ、ほれ、早く入れー!」
冒険者ギルドへたどり着くと、赤ら顔のおっさんはその扉を大きく開いたまま、後から後からやって来る者を中へと引き込んでいる。
クルムも目を凝らしてみるが、皆が次々とやってくるので、後ろからどれくらいの速度で『お役人』とやらが迫ってきているのかが分からない。
途中でどこからか現れたグレイがにやにやとしながら、するりとギルド内に体を滑りこませ、後から来る者を眺めている。
「いやぁ、愉快じゃのう」
妙にご機嫌なグレイが呟く。
「後ろから役人が来ているというのは……?」
「おお、どこかの領兵じゃろうな。夜に騒いだり贅沢をしたりするなと言ってるのに、冒険者共が言うことを聞かないから、こうして毎晩蹴散らしに来てるんじゃろう。とはいえ、本気で逆らわれたら冒険者共の方が強いかもしれんから、本気で追い立ててはいないようじゃが」
しばらくして通りがすっかり真っ暗になった頃には、冒険者ギルドにも人が収容されてぱたんと扉が閉じられる。
「くっくっく、さぁて、偉い人の仰る通り、皆で大人しく過ごそうぜ、なぁ」
赤ら顔のおっさんはそういうと、椅子に座ってうなだれたようなふりをした。
駆けこんできた者たちも、ロビーの隅に座ったり、つまらなそうに胡桃をはじいたりと、それぞれ好き勝手に演技を始めるのであった。