転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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扇動

「しかしまったく……アルティメット糞婆が、調子に乗りおって……」

「あるてぃめっと……?」

「先生はたまによく分からない言葉を使うので、気にしても仕方ありません。聞いても知っている悪口の種類が増えるだけです」

 

 困惑しているヘグニに、クルムが分かりやすい解説を入れてやる。

 グレイもただ一人で毒づいているだけなので、特に説明もしない。

 

 一応街の中をこっそりと移動しているが、誰かが追いかけてくるわけでもない。

 クルムにはそれが少しばかり不気味であった。

 少なくとも【人形遣い】は、侵入者がクルムたちだと分かっているはずだ。

 告げ口をすれば、大量の追っ手がやって来てもおかしくない。

 

 ジグザグに街を進んでいくと、大通りの方から何やら大きな声が聞こえてくる。

 今晩騒ぎが起こっているとすればそれは、冒険者たちによるものであるはずだ。

 

「先生、大通りを見に行きましょう」

「ま、よかろう」

 

 路地をグネグネと曲がりながら、大通りへ近づいていくと、そこでは冒険者たちが武器を片手に、そして空いた手にはジョッキをもって、兵士たちとにらみ合っていた。

 なぜだか、兵士たちよりも冒険者側の数の方がずっと多い。

 よく目を凝らして見てみれば、後方に街の人たちの一部や、外国からやって来た要人の一部までもが混ざっているようだ。

 いい加減王都に缶詰めにされるのが我慢ならなくなって、騒ぎに乗じて宿から抜け出してきたのだろう。

 誰もかれもが不敵な表情でジョッキを片手に持っている。

 街の人たちも大通りでの騒ぎが気になっているのか、こっそりと扉を開けて外を覗いているようであった。

 真夜中の、すっかり眠っていなければいけない時間であるはずなのに、昼間と変わらぬような大騒ぎである。

 

「あれは……なんだ……?」

 

 クルムたちからすれば随分と派手にやってくれたという光景だが、ヘグニからするとまるで理解できない動きである。

 

「さて、クルムよ、どうする? こ奴を連れだしたことを伝えねばならぬが」

「そうですね……」

 

 これからの動きを、そしてこの騒ぎに参加している者たちの安全を考えれば、密かに伝えるべきなのだろう。

 しかしクルムはこの騒ぎに一つの案を思いついてしまった。

 皆を巻き込む、無茶苦茶な案である。

 犠牲者だって出るかもしれない。

 もちろん、やってもやらなくても犠牲者が出る可能性はあるのだが、自分の言葉によって、本来死ななかった者が死ぬ恐れがあるという話だ。

 

 クルムはほんの数秒だけ黙り込んでから、グレイを真似するように不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「先生、肩車をしてください」

「ほう、何をする」

「王都の民に、私たちが帰ってきたことを伝えます。今の政府が反逆者であると知らしめます。そのまま門を抜け……先生、壊せますよね?」

「当たり前じゃろう」

「では、門を抜け、本軍と合流します」

「無茶な……」

 

 ヘグニが呟き、グレイはその本意を探るようにじっとクルムの目を見つめた。

 クルムは黙ってグレイの目を見つめ返す。

 引くつもりはなかった。

 何と言われようと、どうなろうと、全ての結果を受け入れるつもりでいた。

 

「……四方八方から狙われるゆえ、儂がいくら気を付けていようとも危険はあるぞ」

「承知の上です。王都へ入ってわかりました。今のままこの戦いに勝利した場合、民衆のハルシ王家への不信が残るでしょう。これまでより大きな不安を抱えるでしょう。諸外国も、ハルシ王国の弱体化を感じ、外交上不利になることでしょう。ただ勝つだけではなく、これからの結果を求めるのであれば、ここはやるべきです」

「強欲は身を滅ぼすぞ?」

「しかし先生……ワクワクしませんか? こういう方が、私らしく……私たちらしくありませんか? 敵の思惑を完膚なきまでに叩き潰して、お前らのやったことなどすべて無駄だったのだと、叩きつけてやりたくはありませんか?」

 

 わざわざ厳めしい顔をして忠告をしていたグレイが、クルムの言葉を聞いて、我慢しきれずににやぁっと笑った。

 

「……愚か者め」

 

 それは今クルムが浮かべているのと同じ、不敵な笑みであった。

 

「分かっておるではないか! 早く乗れ、行くぞ」

「はい!」

「小僧、お主もついてこい! 遅れるでないぞ!」

 

 ふはははと笑いながら走りだしたグレイに怒鳴りつけられたヘグニは、ぽかんと開けていた口を閉じて、慌ててその姿を追いかけた。

 路地から飛び出すと、冒険者たちがその姿に気が付きわっと歓声を上げる。

 グレイは大きく息を吸い込んだ。

 声帯までを強化し、その鍛え上げられた肺活量をもって、ひと息に声を吐き出す。

 

「クルム=ハルシここにあり! 王都の民よ、続け!!」

 

 それはまさに音響兵器のような大喝であった。

 びりびりと空気が震え、歓声が一瞬静まり、睨み合っていた兵士ですらぽかんと口を開けて黙り込んだほどだ。

 街が目覚めた。

 

 クルムが続く。

 

「反逆者から王都を取り返します! 志のある者よ! クルム=ハルシに続きなさい! 王都の外に軍を引き連れて帰ってきました! 志のある街の民たちよ! 私たちに続きなさい!」

 

 一瞬静かになった隙にクルムが伝えるべきことを伝える。

 グレイが冒険者たちの隙間を駆け抜け、そして門へ向けてゆっくりと移動を開始した。

 

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