〈要塞軍〉と共に、クルムたちが王宮までやって来ると、その門は閉じられていた。そして、門の奥には明らかに何者かが蠢く気配がする。
「こりゃあ、中に溜まっておるな」
何がとは言わなくても分かる。
薬物兵かアンデッドが溜まっているのだ。
どのような指示系統で、どのような過程を経てそれらが生み出されたのかが分からないので、規模は分からないけれど、間違いなく相当な数が門の内部にいるようである。
「突破するか?」
でかい拳をぐっと握りながらラウンドが問いかけたが、クルムは首を横に振ってそれを否定した。
「侵入口を変えます。騎士団の訓練場があるあたりの外壁を壊して中へ入りましょう。狭い場所であれらと戦うのは厄介です。どうせならばこちらの数も活かせるよう、広い場所から攻め込みたい」
「良い選択です。では場所を移動しましょう」
騎士団の訓練場があるのは東方向。
そちらへ進めば、王国東部方面軍と合流できる可能性もある。
道を曲がって移動し始めたところで、グレイはクルムに問いかける。
「儂だけでも先に入って、あの糞害悪婆を探して殺してきても良いが」
「敵の気配が薄いところから一緒に行きます。先生なら分かるでしょう? 途中で外壁を越えて侵入し、オブラ侯爵、ジグラお兄様、それから【人形遣い】を探しましょう」
あまりの無謀さにグレイは呆れた顔をする。
流石にここまでの軍勢を率いて、最後の最後までまだそんなことをするのかと思ったのだ。
「軍勢を東側から侵入させれば、それに気づいて敵方は西へ逃げていくかもしれません。王宮には普段使っていないような出入り口もいくつかありますから、そこから逃げられてしまう恐れがあります。敵が劣勢を感じる前に捕まえねば意味がありません」
言われてみればもっともな話である。
リゾルデなどもすぐ横で聞いていたが、もはやクルムが単独行動するのにはすっかり慣れてしまったのだろう。
グレイ同様少しばかり呆れた顔をしていたが、止めるつもりはないようであった。
「ロブスを連れて行ってください」
「スペルティア、お主もついてこい。呪いについては儂より詳しいじゃろ」
「【人形遣い】……。……確かに、私様も行くべき」
グレイの言葉には何か含みがあったが、その詳細までもはクルムにはわからない。
ただわかっていることは、スペルティアも【人形遣い】もエルフであるということだ。
「では、スペルティア様の護衛は引き続き私だな」
スペルティアが行くのならばと、今回の行軍中常にその護衛にあたっていたメナスも名乗りを上げる。
冒険者たちは北門に置いてきてしまっているので、この場にウィクトは不在だ。
そうなると、先に乗り込むことが決まった、グレイ、ロブス、メナスは、ラウンドを除いた今選べる中の最高戦力である。
足手まといが二人ほどいるが、侵入して目的の人物を探すのには十分だろう。
「俺も行きたいが?」
「ラウンド様は駄目です。当たり前でしょう」
「しかしな」
「駄目です」
ロブスは頼りになるが、ラウンドが先頭にいる時のような安心感はまだ少しばかり不足している。それだけの戦力を持っていくのであれば、〈要塞軍〉の心の支えのためにも、ラウンドだけは手放せないというのがリゾルデの判断であった。
先日壁を壊して脱出したあたりまでやってきたところで、グレイが「行くぞ」と言ってするりと列を抜ける。
「ご武運を」
リゾルデはそれだけ言って先へ進む。
その直後、ラウンドが周囲を震わすような声を上げた。
「〈要塞軍〉! 俺に続け! 東の騎士団訓練場から壁をぶっ壊して侵入する! アンデッド退治なんぞ慣れたものだろう! 暴れるぞ!」
それはもしかすると、自分だけがついていけないことへの八つ当たりだったのかもしれないが、〈要塞軍〉は久々の自分たちの大将からの檄に対して気合いの入った返事をする。
クルムの言葉を聞いた時には少しばかりお上品な雰囲気を纏っていた〈要塞軍〉の兵士たちから、突如粗野な殺気が溢れ、その熱量がぐんと上がったように見えた。
クルムは思わず目を瞬かせて呟く。
「……〈要塞軍〉はやはり、ラウンド様の軍なのですね」
「そりゃそっすよ。俺らはいつだって、大将について働いてるんすもん」
「あれほどの者たちが王女殿下に従って働いていたのだ。落ち込む必要はない。むしろ誇るべきだ」
無神経なロブスの返答に対して、優しい言葉をかけたのはメナスである。
この中ではとてもとても常識的な、冒険者のエルフの言葉に、クルムはちょっとだけ感動してしまった。
ちなみに本来一緒にいて励ましたりするはずである教育係のグレイは、「どりゃ」とか言いながら、修繕された壁を蹴破っている。気合いの入ったばかりの〈要塞軍〉の兵士たちよりも、常々暴力的なのは一体どういうことなのだろうか。
ただ、それこそがグレイであることもよく理解しているクルムは、堂々と侵入していくグレイに続いて、王宮の中庭へと足を踏み入れる。
穴を潜り抜けた先では、既にグレイが腕を振り終えた姿があり、投擲された石つぶてが、廊下付近をうろうろしていたアンデッドの頭を吹き飛ばしたところであった。
暴力を振るうことに対して躊躇をする時間が全くない。
「さて、どこから調べるかのう。やはり偉そうな奴らは奥におるか」
のっしのっしと歩き始めたグレイに、隠密しながら進むという考えはないようであった。