先頭をグレイ、遊撃にロブスを置いて、後方にはメナスがいる。
ほぼ盤石の布陣であった。
グレイは数人の薬物兵を片手間に片づけると、そのまま適当な扉を開けて部屋へと入っていった。
「どちらへ?」
「通常の道を進むと、敵が多いからのう。時間の無駄じゃから、直接偉い奴らがいそうな奥へ入る道を作る」
「つまり……?」
「こういうことじゃな」
グレイは部屋の突き当りに無造作に前蹴りを放ち、魔法を破裂させ、人が通り抜けられる程度の穴を開け、平気な顔をして潜り抜けていく。
一応戦いが終わった後は直さなければならないのだが、そんなことは知ったことではないとばかりに、あちらでどかん、こちらでどかんと次々と穴を開けて、見事王宮の奥に繋がる廊下に辿り着いた。
音を聞きつけてやってきたらしい敵を、これまたさっくりと始末したグレイは、十字路の前後左右を見回してから、目を細めて進行方向を一旦、王宮の奥側に定めて歩きだした。
歩きながら、グレイは今回の呪いについて考えを巡らせる。
大規模な呪いというのは、基本的に作用の強いものではない。
意志を強く持っているものには効きにくいものであるし、それを乗り越えるような強力な呪いであったとしても、弾くための魔道具を持っていれば避けられるものだ。
そして普通の魔法と同じように、効果を広くするほど、そして強力にするほど、魔力を消費するものだ。
魔力の消耗を抑えるためには、詠唱をし続けること、なんらかの媒体を使うことである。今回の場合は、間違いなく街のあちらこちらに、媒介となる何かが用意されているはずなのだが、その仕組みがグレイにはわかっていない。
そこまでの発展形の魔法となると、オリジナル要素が強すぎて、使っている者にしか理解できない要素が山ほど含まれてくるのだ。
だからやるべきことは、魔法を発動している本人を叩くことである。
今、【人形遣い】はこの大魔法を展開するために、間違いなく護衛をつけて、魔法を発動し続けている。見つけてぶち殺せば、無事に呪いは収束する、はずだ。
グレイは後ろについてきているスペルティアをちらりと見る。
「何」
相変わらず偉そうに一言問われて、グレイは舌打ちを一つ返してから口を開く。
「儂の知っているこれ程大規模な呪いはたった一つ。お主の故郷、エルフの森にかけられた、魔物誘引の呪いじゃ。【人形遣い】は、エルフの婆中の婆。あれにも何か関わっているのではないか?」
「そうかもしれない」
「魔女、か……」
メナスがぽつりとつぶやく。
エルフの国には、数百年前に追放された魔女の逸話が残っている。
たくさんの人を救い、禁書を閲覧する権利を得たエルフが、人体実験をするようになり、呪い谷へ追放された話だ。
「次こそ逃がすつもりはない。もし逃げるようであれば、確実に仕留める。……もしお主が、エルフの森の呪いについて知りたいのであれば、その前に何としてでも話を聞きだすのだな」
スペルティアは小さく頷いた。
前を向いているグレイには見えなかったが、グレイは返事がなくともスペルティアがそういう性格をしていることを知っているから、それ以上何も言わずに黙って歩き続ける。
そのまま数分が過ぎ、グレイが分かれ道の左右に目を走らせたところで、後ろから小さく声が聞こえてくる。
「グレイ」
「なんじゃ」
「君は約束を……」
「む、ちょっと静かにせい」
君はエルフの森を取り返すという約束を、忘れていなかったんだね、と。
長い沈黙の末に、そのことに関する礼を言おうとしたスペルティアの言葉を、グレイは遮った。
メナスが『あっ』という顔をして口を押さえ、クルムもちょっと気まずくなって目を泳がせる。おそらくスペルティアが、相応の勇気をもって何かを口にしようとしたのが、二人にもわかったのだ。
呑気な顔で一緒に廊下の奥を覗き込み、口を開いたのはロブスである。
「何かいるっすね」
「向かうぞ」
グレイは廊下を左に折れて歩き出す。
部屋の扉の前に、いくつかの骸。
そして、大量のアンデッドがたむろしているのを見つけたのだ。
おそらくその部屋に閉じこもっている何かがいる。
本命でなかったとしても情報を探ることができる可能性があるので、蹴散らして中を確認してやろうという腹積もりである。
今は緊張しなければならぬ最終決戦の最中だ。
のんびり話している暇ではないことは、スペルティアだってある程度わかっている。分かっているからこそ黙り込んでいるが、その目を細くなって天井を睨んでいたし、唇は心なしか不満そうに尖っていた。
「すぐ片付けますので……」
そんなスペルティアの背中をポンと叩いて、メナスは前に数歩出て、グレイと肩を並べた。
二人くらいならば並んでも戦えそうなほどに、廊下は広い。
「ふむ、ロブス、護衛を頼む」
「了解っす」
チラリと振り返ったり、周囲を確認したりしながら、ロブスは素直に返事をした。
本当は自分も前に出て戦いたいところだが、今この瞬間に駄々をこねて時間を無駄にするのも違う。
それに、音を立てれば別方向からも敵が集まってくる可能性はある。
護衛とはいえ、油断ができる状況ではない。
こと命懸けの戦いに関してのロブスの判断能力は、非常に鋭利であった。