転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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臭気

「最終的には建物ごと壊すのも検討すべきじゃろうな……」

「多分無駄。供給を断つ必要がある。時間か、呪術者か」

「めんどくさいのう。そもそものろいとか使う奴らって、大体面倒くさい性格しとるんじゃ。ひねくれているというか、後ろ向きというか」

「性格合わなそうっすねぇ」

 

 グレイが八つ当たりのように、玉座の裏にある部屋の扉を蹴り破る。

 この部屋は王宮の主たる国王のための部屋だ。

 整然とした部屋にはいくつかの家具が置かれており、時間まで待機するためには十分な設備が整っている。

 

「ふぅむ、控室のような使い方がされた部屋か。偉そうに。どっか遠くから歩いてこんかい……」

 

 中々【人形遣い】が見つからないからか、なんにでもケチをつけるグレイ。

 一見何もないように見えるのだが、グレイとスペルティアが首をかしげながらしばし部屋の中をうろつき、最終的に何もない壁の辺りに辿り着いた。

 

 グレイはぺたぺたと壁を触り呟く。

 

「隠し通路じゃな」

「まぁ、あるでしょうね。普通に向こうにも扉がありますけど、こっちが気になりますか? どこかに、多分そこを開けるための仕掛けが……」

 

 クルムが壁に寄っていき、その隠し通路を開けるための仕掛けを探す。

 しかしグレイはその場で腕を振りかぶると、「ふんっ」と言ってその拳槌を壁に振り下ろした。破壊音と共に立って歩けるほどの通路が出現し、壊れた壁を乗り越えてグレイはその先へ進んでいく。

 

 いざってときに逃げるための隠し通路であるが、手間をかけて隠していても、こういった乱暴な追っ手にかかってはあまり意味がない。

 一般人の工夫や労力をすべて無に帰す暴力を目の当たりにしたクルムは、目を細くしながらそのあとに続く。

 

「なぜお二人ともこちらが気になったんです?」

「血の臭いがした」

「魔力の残滓のようなものを感じた」

 

 前者がグレイ、後者がスペルティアである。

 それぞれがそれぞれの理由で辿り着いたのならば、よりこの先に何かがある可能性は高いだろう。

 おそらく通路の壁の裏側を通っているのだろう。

 それなりに長く続く隠し通路であったが、突き当りからは僅かに光が漏れている。

 

 突き当りの扉は蹴破る必要もなく、押すだけで普通に開いた。

 どうやら中庭のような場所にやってきたらしい。

 中庭はあまり手入れをされていないらしく、壁には蔓が張っている。

 

 グレイはそこに足を踏み入れて、一行全員が降り立ち、向こう側に見える扉を目指して中ほどまで進んだ時のことだった。

 周囲の植物が一斉に動き出す。

 蔓や根が四肢を引きちぎろうと、花が牙をはらわたを噛み千切ろうと、一行に襲い掛かって来る。

 

 スペルティアが気にも留めず凛と立っており、クルムも邪魔にならぬようその近くに寄って身を縮める。

 

 鉄の棍が蔓のとげを削り飛ばし、斬撃が根を切り飛ばす。

 そんな中地面を蹴って飛び上がったグレイ。

 それを隙と見たのか、植物たちが一斉にグレイの下へ殺到した。

 

 グレイは腰を起点に体を捻る。

 腕には、体には、足には、全てが絡みついていた。

 だが、その捻りを解放してグレイが勢いよく回転した瞬間、ぶちぶちとそれがちぎれて、周囲の壁に弾き飛ばされていく。

 そうしてグレイが地面に着地した時には、植物たちはすっかり沈黙をしていた。

 まとめて撃退するために、あえて自分の身を囮に全てを破壊したのだ。

 

「ふんっ、行くぞ。これで間違いなく、この辺りを【人形遣い】が通ったことが分かった」

「……今の魔物は?」

「呪い谷に生息する、死体を栄養に成長する草じゃ。これほど大きくなるには、随分とこの中庭で死体を食らったんじゃろうな。どれだけの数を生贄に捧げたか知らんが、気に喰わん」

 

 改めて周囲を見回すと、半ば引き抜かれた根の一部に、白骨化しかけた死体がたくさん絡まっているのが見えて、クルムは思わず眉を顰めた。

 おそらく、王宮を守っていた兵士や、使用人の一部だろう。

 

 グレイはそのまま中庭を突っ切ると、奥の扉を開ける。

 その先にあったのは、鍵がかけられた扉と、上に続く螺旋階段だった。

 当然、上へ向かうのが通常のルートなのだろうが、流石のクルムも今回は気が付いた。

 螺旋階段の下。

 その奥の壁から、妙な臭気が漂ってきている。

 グレイが迷うことなくそちらの石壁をけ破ると、当然短い通路が姿を現す。

 そしてその先には、大釜が安置されていた。

 枠組みの上に固定されているその下には、魔法陣から生み出された小さな炎が燃え続けており、大釜からは水蒸気が上がっている。

 

 グレイは目を細めながらつかつかと歩いていき、そのすぐ後ろをスペルティアとメナスがついていく。

 クルムは異様な臭いと雰囲気に、思わず一瞬足を止めてしまった。

 

「こっちで待ってるっすか?」

 

 その背中に声をかけてきたのはロブスだ。

 気を遣えない正直なこの男が、クルムに気を遣っている。

 

「……いえ、行きます」

「でも、この先多分死体だらけっすよ?」

「……分かっています」

 

 その一言ではっきりとした。

 臭いは、血の臭い。

 そして腐った肉の臭い。

 クルムはごくりとつばを飲み込んで、グレイたちの後を追いかける。

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