敵を蹴散らしながら先へ進んでいく。
目的は東の騎士団訓練場へたどり着くことだ。
戦力的には十分に割いてきたつもりであるが、別れてから連絡を取ったわけではないので、今どういった状況になっているかはいまだ不明だ。
東門から入ってきた王国東部連合軍と共に、王宮内の薬物兵やアンデッドを殲滅できているのが理想である。
長い廊下を抜け、クルムに与えられた区画を通り過ぎてなお進んでいくと、人々の声が聞こえてくる。
それらは悲鳴ではなく、自らを奮起させるための気合いの雄たけびであり、指揮官たちの号令でもあった。
戦いはまだ終わっていないが、不利な状況でもなさそうだ。
足を速めた一行は、騎士団の訓練場で薬物兵たちが次々と斬り伏せられていく光景を目にする。
どうやら壁を壊したりせずに、わざわざ東側の狭い門から侵入してきているらしく、増援は続々とあとから入ってきており、今最前線にいるのはその中でも特に選ばれた精鋭たちであるようだった。
先頭に拳を振り回しているラウンドと、大剣を振り回しているホワイトの姿が見えたことで、王国東部連合軍と要塞軍が合流出来ていることも分かった。
怪我をする者があればすぐに後ろに下げる。
そうでない者は前に進み続ける。
犠牲者を出さない。
その意志の元に統一された戦線は強固で、確実に敵の数を減らしている。
薬物兵らが怪我をした者を積極的に狙うのではなく、とにかく目の前に現れた者を殺す目的で動いていることから、その動きも取りやすいようであった。
「背後から襲い掛かっても、連携を乱すだけじゃな」
グレイが冷静に呟く。
それでこちらに敵が殺到してきても、クルムとスペルティア、ついでにジグラの身も守らねばならないことを考えれば、今は大人しくしているのが賢明だ。
薬物兵たちが圧倒されていくのを眺めながら、フィデスが拳を握った。
「……よもやこんなやり方で使い捨てられようとは思いませんでした。あの中には私が指南した者たちもいるはずです。自分の意思さえ残っていれば、いくら相手が強くとも、こうは一方的にやられなかったはず……」
知った顔がただただ切り倒されていく様を見るのが耐えられなかったのだろう。
思わず悔恨の声も漏れるが、だからと言って薬物兵らに味方するつもりはないようであった。
「……これが【人形遣い】を仲間に引き入れた結果なのでしょう。オブラ侯爵閣下は、そのことについてあまりご存じなかったようですが」
「あの老婆は、気付けばジグラ王子殿下の周囲をうろついていた。玉座の辺りをうろついたり、時折街へ出て何か工作をしているようだったが……。詳細の報告を受けていた閣下は殺してしまったのでしょう?」
「……そうですね」
なるほど、オブラ侯爵を生かしておくことができれば、今後の対応が少し変わってきていたのかもしれない。
オブラ侯爵はオブラ侯爵で、常に流動し続ける王都の状況を何とか自身の手中に収めようと情報収集を怠らなかったのだろう。それでも、他国の公爵に、何を考えているかわからない王子。さらにはそこに人の数倍は生きてきた【人形遣い】がいて、外からはクルムたちがやってきてヘグニを奪い去っていく。
もしかしたらオブラ侯爵は十分に優秀で、やり方さえ間違えなければ能臣となり得る存在だったのかもしれない。
だが、あまりに色々なことを自分一人でやろうとし過ぎた。
大事を成すには信頼できる味方というか、協力者が足りなかったのだろう。
そもそもグレイが現れたことによって急いでたてられた杜撰な計画であったことこそが、最たる敗因なのだろうけれど。
薬物兵たちは次々と鎮圧されていく。
フィデスの表情はどんどん曇っていく。
薬物兵と一言で語られているが、彼らは皆、オブラ侯爵家の領兵たちである。
故郷にはきっと家族や大事な人を残してきているはずだ。
戦いに参加するところまでは、ある程度自分の意思であったのかもしれないが、フィデスの言う通り、こんな風に命を落とすことは想定外だろう。
クルムは黙って戦いの経過を見守った。
途中からラウンドたちはクルムの存在に気付いたようである。
というよりも、腕を組んで見守っているグレイの存在に気付いたとでも言うのが正しい。
ホワイトとラウンドが最後の二人を仕留めたのはほぼ同時であった。
それと共に、騎士団の訓練場が制圧される。
「俺たちの勝ちだ!」
「勝鬨を上げろ!」
ラウンドが拳を、ホワイトが剣を天に向けてかざすと、それぞれの部下たちから喜びの声が上がる。
そしてその拳と剣が、そのままクルムのいる方へ向けられると、兵士たちの視線もクルムの方へと向かう。
「……オブラ侯爵は倒しました! 協力していた首謀者もすでに亡く、ジグラお兄様は捕縛しています! 残るはこの珍妙な術を解くばかり! 皆さん、もう少し力を貸してください!」
クルムの掛け声に、前の方から順番に同意の声が上がり、やがて訓練場は先ほどと同じように、ただ兵士たちが喜びの声を上げるだけの場へと変わっていく。
これでいいのだ。
まだすべてが終わったわけではないからこそ、士気を高いままに保っておく必要がある。
クルムたちは外廊下から下りて、凄惨な騎士団訓練場へと歩き出すのであった。