「しかし、その……人のバラバラになった遺体を見つけることなど、そう簡単にできるのだろうか?」
真っ当な疑問を抱いたのはハップスであった。
全員が黙り込む。
誰もそれに関する答えは持っていない。
「そして……どれだけの破片を取り除けば、呪いは正確に解除されるのだろうか」
これもまた純粋な疑問であった。
そしてその純粋な疑問に答えられる者はやはりいない。
「おい、フィデス」
声を発したのはグレイだ。
律義にスペルティアの護衛を務めているフィデスは静かにその後ろに立っている。
「なんでしょう」
「こ奴らの父王は殺されて葬儀がなされたのか?」
「火葬されたと聞いてます」
「残った骨の管理は?」
「戦いが終わるまで王宮内に安置されていたはずです」
「となると、見つけるべきは骨か」
今となってはクルムたちが不在の間の王宮で起こったことを知るのは、このフィデスとジグラだけになっている。そういった意味でもフィデスを生かして連れてくることができたのは、非常に良い判断であったといえよう。
ジグラが情報を吐くわけがない。
「スペルティア、呪いが王都全体に課されているとしたら、骨がある箇所は?」
「外周全体。内側か外側かもわからない。埋めてあるとしてその深さも分からない」
王都は広い。
十万人以上が悠々と暮らすこの敷地の外周を回るだけでも丸一日かかる。
しかも【人形遣い】の性格を考えれば、きっとその骨は等間隔でも無く、深さが同じでも無く配置されているであろう。
それをすべて見つけて、破棄する。
もしかするとただ埋められているだけでなく、骨を探そうとすると何らかの別の呪いが発動する、なんて仕掛けがあってもおかしくない。
なにせジグラが【人形遣い】を引き込んでから今日までには、随分と時間があったはずなのだ。
「……とても、容易に見つけられるとは思えません」
「うぅむ、そうじゃのう……。……のう、ルミネだったか?」
クルムは思わず弱気な言葉を吐いたが、それには流石のグレイも同意であった。
それから思い出したかのように、ルミネに向かって話しかける。
「はい、なんでしょう?」
ルミネもこのグレイという老人がとんでもないアンタッチャブルであることはすでに重々承知である。少しだけ緊張して返事をする。
「リッチ……霊体へ有効な攻撃方法は知らぬか? 教皇とかは使えたりするのではないか? ほれ、なんかあの青い炎の」
「ああ、確かにあれはアンデッドには有効かと……。神への祈りと長い修行の末に手にする魔法……という名目で、術の秘伝があります。ただ、実際神への強い信心を持っていないと使えないので、なんというか、そうですね」
「先生では絶対に使えないということですね」
「はい」
言いづらい言葉をクルムが代弁してくれたところでルミネが頷いた。
そうなるとやはりリッチと化した【人形遣い】の退治もなかなか難しい。
呪いより先にそっちを片付けてはと思っていたグレイであるが、あっちもこっちも、なんともうまくいかないことである。
「どうしたもんかのう……」
大体のことは殴れば解決するグレイも、これにはなかなか良い回答が思いつかず、渋い顔で空を見上げる。
誰も良案を出すことができずにいた。
ただそのまま時間が流れていき、やがてクルムは深いため息を吐いて口を開いた。
「……先生、呪いの根本を見つけるような魔道具に心当たりは?」
「ない。新たに工夫して作らせるしかなかろう」
「そうですか……。わかりました」
クルムは目を閉じてしばし考える。
今の王都は死の都になりかけている。
死ねばアンデッドとなり、アンデッドは人を襲い、その人が死ねばさらにアンデッドが増える。パンデミックはいつ起こってもおかしくない。
流行病でも起こった日には、それで王都の民は全滅だ。
「……王都を移しましょう」
「都を移す……? 突然、準備もなく……?」
セルルトがクルムの言葉を疑うように呟く。
この王都は、数百年の歴史を持つ都である。
この街に生きる者は、王都の民としての誇りを持ち生まれ、死んでいく。
ハルシ王家の力の源のような土地である。
「ほかに手段が思いつきません。都を移す前提で話し合いをします。他の首脳陣を集めましょう」
「遷都ねぇ。ま、それも丁度いいのかもしれないわね。クルムを中心にして新しいハルシ王国になるのなら、心機一転も悪くないんじゃないかしら?」
気軽に同意をしたのはファンファだった。
ハップスも頷いていたし、ルミネも特別反対の意思は示さなかった。
ぽかんとした表情を見せているのは、セルルトとヘグニだけである。
「王都に残っているはずの貴族たちにも声をかけます。できるだけ早く、王都から人を出さねばなりません。さぁ、はじめましょう! これ以上アンデッドの犠牲を出すわけにはいきませんから!」
クルムとしても苦渋の決断である。
これが正しいと思っているわけではない。
しかし解決法が見つからないのだ。
まるで【人形遣い】に背を向けて逃げるようであるが、立ち向かって滅びるくらいならば逃げて生き残るのが正解であると信じたい。
きっと貴族たちからも反発を貰うだろう。
王都の民がどこまでついて来てくれるかもわからない。
計画は白紙で、何も説得の材料はない。
それでも動かなければならない。
動かなければ人がどんどん犠牲になる。
足を止めるわけにはいかなかった。
疑問があっても、反対されることが分かっていても、クルムは前に進むことを躊躇わない。進みながら考えればいい。
それはどこかグレイの生き方に似た、やけっぱちのようでいて、生きるという意思を強く感じる選択であった。