転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

534 / 534
大事な決断

「しかし、その……人のバラバラになった遺体を見つけることなど、そう簡単にできるのだろうか?」

 

 真っ当な疑問を抱いたのはハップスであった。

 全員が黙り込む。

 誰もそれに関する答えは持っていない。

 

「そして……どれだけの破片を取り除けば、呪いは正確に解除されるのだろうか」

 

 これもまた純粋な疑問であった。

 そしてその純粋な疑問に答えられる者はやはりいない。

 

「おい、フィデス」

 

 声を発したのはグレイだ。

 律義にスペルティアの護衛を務めているフィデスは静かにその後ろに立っている。

 

「なんでしょう」

「こ奴らの父王は殺されて葬儀がなされたのか?」

「火葬されたと聞いてます」

「残った骨の管理は?」

「戦いが終わるまで王宮内に安置されていたはずです」

「となると、見つけるべきは骨か」

 

 今となってはクルムたちが不在の間の王宮で起こったことを知るのは、このフィデスとジグラだけになっている。そういった意味でもフィデスを生かして連れてくることができたのは、非常に良い判断であったといえよう。

 ジグラが情報を吐くわけがない。

 

「スペルティア、呪いが王都全体に課されているとしたら、骨がある箇所は?」

「外周全体。内側か外側かもわからない。埋めてあるとしてその深さも分からない」

 

 王都は広い。

 十万人以上が悠々と暮らすこの敷地の外周を回るだけでも丸一日かかる。

 しかも【人形遣い】の性格を考えれば、きっとその骨は等間隔でも無く、深さが同じでも無く配置されているであろう。

 それをすべて見つけて、破棄する。

 もしかするとただ埋められているだけでなく、骨を探そうとすると何らかの別の呪いが発動する、なんて仕掛けがあってもおかしくない。

 なにせジグラが【人形遣い】を引き込んでから今日までには、随分と時間があったはずなのだ。

 

「……とても、容易に見つけられるとは思えません」

「うぅむ、そうじゃのう……。……のう、ルミネだったか?」

 

 クルムは思わず弱気な言葉を吐いたが、それには流石のグレイも同意であった。

 それから思い出したかのように、ルミネに向かって話しかける。

 

「はい、なんでしょう?」

 

 ルミネもこのグレイという老人がとんでもないアンタッチャブルであることはすでに重々承知である。少しだけ緊張して返事をする。

 

「リッチ……霊体へ有効な攻撃方法は知らぬか? 教皇とかは使えたりするのではないか? ほれ、なんかあの青い炎の」

「ああ、確かにあれはアンデッドには有効かと……。神への祈りと長い修行の末に手にする魔法……という名目で、術の秘伝があります。ただ、実際神への強い信心を持っていないと使えないので、なんというか、そうですね」

「先生では絶対に使えないということですね」

「はい」

 

 言いづらい言葉をクルムが代弁してくれたところでルミネが頷いた。

 そうなるとやはりリッチと化した【人形遣い】の退治もなかなか難しい。

 呪いより先にそっちを片付けてはと思っていたグレイであるが、あっちもこっちも、なんともうまくいかないことである。

 

「どうしたもんかのう……」

 

 大体のことは殴れば解決するグレイも、これにはなかなか良い回答が思いつかず、渋い顔で空を見上げる。

 誰も良案を出すことができずにいた。

 ただそのまま時間が流れていき、やがてクルムは深いため息を吐いて口を開いた。

 

「……先生、呪いの根本を見つけるような魔道具に心当たりは?」

「ない。新たに工夫して作らせるしかなかろう」

「そうですか……。わかりました」

 

 クルムは目を閉じてしばし考える。

 今の王都は死の都になりかけている。

 死ねばアンデッドとなり、アンデッドは人を襲い、その人が死ねばさらにアンデッドが増える。パンデミックはいつ起こってもおかしくない。

 流行病でも起こった日には、それで王都の民は全滅だ。

 

「……王都を移しましょう」

「都を移す……? 突然、準備もなく……?」

 

 セルルトがクルムの言葉を疑うように呟く。

 この王都は、数百年の歴史を持つ都である。

 この街に生きる者は、王都の民としての誇りを持ち生まれ、死んでいく。

 ハルシ王家の力の源のような土地である。

 

「ほかに手段が思いつきません。都を移す前提で話し合いをします。他の首脳陣を集めましょう」

「遷都ねぇ。ま、それも丁度いいのかもしれないわね。クルムを中心にして新しいハルシ王国になるのなら、心機一転も悪くないんじゃないかしら?」

 

 気軽に同意をしたのはファンファだった。

 ハップスも頷いていたし、ルミネも特別反対の意思は示さなかった。

 ぽかんとした表情を見せているのは、セルルトとヘグニだけである。

 

「王都に残っているはずの貴族たちにも声をかけます。できるだけ早く、王都から人を出さねばなりません。さぁ、はじめましょう! これ以上アンデッドの犠牲を出すわけにはいきませんから!」

 

 クルムとしても苦渋の決断である。

 これが正しいと思っているわけではない。

 しかし解決法が見つからないのだ。

 まるで【人形遣い】に背を向けて逃げるようであるが、立ち向かって滅びるくらいならば逃げて生き残るのが正解であると信じたい。

 きっと貴族たちからも反発を貰うだろう。

 王都の民がどこまでついて来てくれるかもわからない。

 計画は白紙で、何も説得の材料はない。

 それでも動かなければならない。

 動かなければ人がどんどん犠牲になる。

 

 足を止めるわけにはいかなかった。

 疑問があっても、反対されることが分かっていても、クルムは前に進むことを躊躇わない。進みながら考えればいい。

 それはどこかグレイの生き方に似た、やけっぱちのようでいて、生きるという意思を強く感じる選択であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化】異世界転生周回プレイもの(作者:にーしち)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

主人公「なぜ俺が選ばれたんですか?」▼女神様「貴方には素養があります。私の願いを叶えるのに必要不可欠な素養が」▼主人公「それは......?」▼女神様「貴方がどんなゲームも100%達成トロコンしないと納得できず千回だろうと一万回だろうと周回して全てを遊び倒す究極クソ廃人だからです」▼主人公「なるほど!」▼※カクヨムでも連載中です▼※2026年7月20日、オー…


総合評価:32104/評価:9.19/連載:36話/更新日時:2026年09月10日(木) 19:00 小説情報

ロマン職は異世界から帰りたい(作者:庶民ザウルス三世)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

これが絶対浪漫の力だ!▼人は夢を見る。▼そして、効率よりも自分の“好き”を信じて、浪漫を追いかける者たちがいる。▼ソロ専、人見知り。▼だけど、クリティカルが決まった時の一撃だけは誰よりも重い。▼そんな趣味全開のロマン職キャラを愛した男は、課金帰りの事故をきっかけに、ゲームで使っていた女性キャラ――ラシア・ラ・シーラとして異世界で目を覚ます。▼しかも、レベルも…


総合評価:7339/評価:8.46/連載:249話/更新日時:2026年11月04日(水) 07:08 小説情報

面倒なので黙っていたら天才参謀と誤解されました(作者:濃厚とんこつ豚無双)(オリジナル:ファンタジー/戦記)

後年、ノルトマルクの軍史家たちは、クラウス・フォン・ライフェンベルクを「沈黙の天才参謀」と記した。▼諸邦の利害を束ね、敵国の思惑を見抜き、ただ一言で戦役の方向を定めた男。と。▼だが、その大半は誤解である。▼確かにクラウスは名門ライフェンベルク家の嫡孫にして、陸軍高等軍学院首席、若くして統帥府(参謀本部)に配属されたエリートだった。▼とはいえ本人に言わせれば、…


総合評価:14862/評価:8.93/連載:91話/更新日時:2026年10月24日(土) 23:51 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

【美人で最強、なのに俺の前ではうざかわポンコツな魔王様】▼女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したは…


総合評価:3632/評価:8.54/連載:582話/更新日時:2026年11月04日(水) 17:50 小説情報

おつかれ勇者とつるぎの魔女(作者:調味のみりん)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼『伝説の調律者となり、世界の英雄と共に魔王を討て!』▼
——そんなキャッチコピーで人気を集めたソシャゲ『ハールドファンタジア』。▼ガチャからは星6レアが排出され、プレイヤーは英雄たちと絆を結び、壮大な物語を描いていく……はずだった。▼だが、星5キャラ『王国の勇者ルーク』は違った。
性能は平凡、メインストーリーにはほとんど登場せず、誰からも忘れられた存在。▼…


総合評価:29417/評価:9.5/連載:136話/更新日時:2026年11月03日(火) 09:31 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>