その会議には、集められる貴族と、商会長が全て集められた。
他国の要人は宿に缶詰めしてもらうことになったが、それもこの会議が終わるまでのことだ。ついこの間のように何カ月も閉じ込められるわけではない。
クルムは王都にいる全ての貴族家に使いを出した。
王都に残っていた貴族は、逃げ遅れた者。残ると決めた者。
その中でもオブラ侯爵家に嬉々として従った者、そうでなかった者に分かれる。
だから実際は声をかけるべきではない相手もいることは、クルムだって理解していた。
それでも一応、全てに声をかけた。
オブラ侯爵が死に、ジグラが捕らえられたことは告げず、『クルム王女からの大事な話がある』として。
聡い者なら呼び出しをかけられるほどに、クルム側の状況が良いことくらいは察するはずだ。それでも呼び出しを拒否する者は、それ以上無理に呼び出さなくていいと申し付けた。
オブラ侯爵の味方をしていた上に、愚鈍。
そしてクルムに対して忠誠心のない者は新たな治世に必要がない。
刻限は定めた。
クルムはただその時間が来るまでやってくる者たちを待ち続けた。
クルムを中心にファンファ、ハップスが両脇を固め、ルミネ、ケルンがさらに外。一番外側にヘグニとセルルトが配置される。
クルムの真後ろにはグレイ。
少し離れた椅子にはスペルティアが足を組んで座っている。
やってきた貴族たちはその正面にずらりと並ぶことになる。
貴族たちが使う椅子の数は足りないので初めから用意しない。
ただ、壇上だけ用意し、そこにクルムたちが座る用の椅子だけは並べた。
続々と貴族が集まってくる。
早い段階でやって来た者の中には顔見知りがちらほらというる。
例えばケルンの祖父であるヒストル大臣の到着は早かった。
ヒストルはやって来るとチラリとケルンの表情を見て目を細め、表情を柔らかくした。それから、壇上近くに固まっているバミに合流する。
「バミ大臣、ご無事で何よりです」
「随分と忙しい毎日でしたが、お陰様で。ヒストル大臣こそ、王都に残ったのにもかかわらずよくぞ御無事で」
「なに、屋敷に閉じ込められていただけの退屈な毎日でした。」
実際はケルンがクルム側について活動していたことで、いつどうなるのかもわからぬ身であったはずだが、ヒストルはそんな苦労は欠片も見せずに笑った。
「さて、この様子ですと無事クルム王女は成し遂げたのでしょうか」
「まだ戦いは終わっていないそうです。……これから大切な話がありますので、その覚悟だけされておくべきでしょう」
前に話を聞かされているバミは、ヒストルに忠告をしておく。
「大切な話ですか……? いやはや、クルム王女殿下から出てくる話は、いつだって私を驚かせますがね」
集まってきた多くの貴族はそんな雑談をする余裕もない。
アンデッドや薬物兵について気付いていた者などは、戦々恐々としながらもやってきて、兵士が山ほど待機している様子を見て体を小さくする。
長いこと戦が続いていた。
何もできないまま、それが終わりを告げたのだと、やってきて気付いたのだ。
貴族たちの驚きはそれだけではない。
正面に並んで座っている王子王女の顔ぶれだ。
どう考えても真ん中に座るべきはヘグニであるはずなのに、その中心にいるのはクルムである。
そして誰もそれを否定しない、声を上げない。
ただ黙って自分たちを睥睨するクルムに恐れをなし、目を伏せる者も多かった。
クルムからの面会の連絡を無視した者は、集まってきた中にもたくさんいる。その当時は確かにそれが一番無難な選択肢であったはずなのだ。
人が次々とやって来る。
口を開けているのは極わずか。
状況を理解できていない者が殆んどだ。
そんな中、定刻がやってきた。
クルムが立ち上がると、左右の王子王女も立ち上がった。
真後ろにいるグレイは腕を組んだままであり、変わらずに座っているのはスペルティアだけになった。
場が静まり返る。
周囲はクルム勢力の兵士たちが囲っている。
今この場にいない者はもう中に入れない。
「時間が来たようです。皆さん、不安を抱えながら、よくぞ私の呼び出しに応えてくださいました」
クルムはそこでぴたりと言葉を止めて全体を眺めた。
誰も文句を言う者はいなかった。言える雰囲気がなかった。
「王都に残られていた方々はご存じのことかと思いますが、オブラ侯爵家による反乱が起こり、ここ数カ月ほど王都を不当に占拠されておりました。ご不便をかけましたことを、ハルシ王家の者として反省しております」
省みる姿勢は見せるけれど謝らず、クルムは続けた。
「そして、私たちが不在の間、皆さまがどのような活動をされていたのかにつきましても、後ほど聞かせていただきましょう」
またも顔を上げられない者ばかりであった。
誇らしげにしているのは、クルムについていった者たちばかりである。
「ご存じの通り、父王、ルアーノは反乱により命を落としました。その後ジグラ兄上が王を名乗っていた事実があるやもしれませんが、それは正当なものではありません」
クルムは顎を上げ、全員を見下ろすようにして宣言する。
「今ここに、ルアーノ=ハルシ王が第十一子、クルム=ハルシが、現状生存を確認している王位継承争いの候補者全員の承諾により、ハルシ王の座を継ぐことを宣言する。異論のある者は面を上げ、挙手し、意見を述べられよ」
いつものような丁寧な言葉づかいではなかった。
逆らうなという強い意志を込めた威圧的な宣言である。
全ての貴族が目を伏せた。
誰一人としてクルムと目を合わせ、手を挙げる者はいなかった。
大きな儀式を経ることもなく、教会からの承認もなく、先王からの言葉もなかった。
想像した華々しさは一切ない、血と汗と、土のにおいのする王位継承であった。
それでもクルムは今ここに、新たな王としてはっきりと名乗りを上げることになったのである。
目的のために、今この瞬間に、それが必要であった。