「さて、王位継承に関しては異論はないようで何よりです。それではこれより本題に移ります」
そう言ってクルムが腰を下ろすと、左右の王子王女も同じように腰を下ろす。
クルムに追従して同じ動作をすることこそが、横並びの兄姉たちがクルムを王と認めた証でもあった。
ジグラ以外の主力候補だった者すべてがここに集まっているのだから、貴族たちのほとんども、この中の誰かが王になることを望んでいたはずだ。その候補たちがクルムを認めているのを見れば、ますます意見を述べることなどできない。
それにしたって貴族たちは動揺した。
ここに集められた主な理由が、当然この王位継承についての発表であると思っていたからだ。それが本題でないとするならば、これから始まる話がなんであるのかなんて想像もつかない。
「今の王都は、人が死ぬとアンデッドへ変貌してしまう状態となっております。まず当然、これはご存じですね?」
貴族たちのうちの何割かは、その事実を今この瞬間に知って、表情を引きつらせた。『当然知っているよな』と王に圧をかけられているのに、そんな馬鹿なと騒ぐわけにもいかないから、ただ黙って衝撃を受け止めるばかりだ。
昨日からの暴動のようなものを危険視して出歩かなかったり、元々他勢力に属していて外にあまり出られなかった者は情報を持っていない。
ただ黙って聞くばかりだ。
「状況としましては、オブラ侯爵及び、ジグラお兄様、そして他国の勢力が連れていた兵士たちも皆、王宮内でアンデッド化。その黒幕の魔法使いが王宮の深部でリッチと化しています。そのリッチが、生前王都全体に効果を及ぼすようにしかけた大規模な呪いが、アンデッド化の呪いです。ジグラお兄様は確保いたしましたが、そのほかの敵、王宮内にいた者は全て内部で死んでいるか、アンデッド化したと考えていただいて結構です。こうして王宮を一時的に封鎖し、外で話をしているのも、それらアンデッドが外へ漏れ出さぬようにするためです」
今の話で、現状のクルムに王国内部で主たる抵抗勢力がいないこともはっきりした。
オブラ侯爵が命を落としているのならば、内乱はそれで終わりだ。
本当は西門外にはセナト侯爵が待機しているはずだが、今や敵ではない。
「さて、アンデッド化の呪いがどの程度強力なものかも、どれだけ解きがたいものかも、私たちの方ではすでに把握しております。今連れている兵士を総動員させたとしても、一部区画、それもはっきりとしない範囲が残る形で、アンデッド化の呪いは継続されることとなるでしょう。私たちも、あなた方貴族も、富める者も貧する者も、分け隔てなく死ねばアンデッド化の呪いを受けることになります。死を嘆く暇もありません。誰かが死ねば、即座に首を切り落とさねばならなくなります」
淡々としたクルムの言葉を受けて、流石の貴族たちもざわついた。
人の安らかな死、あるいは名誉ある死は、人の尊厳である。
それを穏やかに見送ることすらできぬ、それどころか身内の死をいたずらに恐れねばならぬような環境で安らぐことができようか。
十分な困惑が伝わったであろうところで、クルムはさらに続ける。
「王都を取り戻すべく、戦いは続けましょう。ただ、今この瞬間にここにとどまり続けるのは愚策。よって、都を移します。これが今回の本題となります。何か意見のある者は?」
そうして意見を求められても、これまでクルムとの関係性のない者は、当然挙手などできようもない。クルムがどんな人間であるのか、そしてどのような勢力を背景に控えさせているかすらわからないのだ。
これまでの王であれば、かならず教育係とその背景にどこかの貴族家が見えていた。
だが今はさっぱり見えない。
ただ物理的に見えるものはある。
クルムの真後ろに堂々と立っている、妙に筋骨隆々で鬚が立派な爺。
それが堂々と、そしてにやにやと貴族である自分たちのことを見下ろしている。
クルムがそれを何も叱責しないものであるから、貴族もそれを甘んじて受け入れるしかなくなっている。
さて、手が上がったのはケルンの祖父であるヒストルからであった。
「ヒストル大臣。何かご意見が?」
「二点ございます。取り戻すべき戦いについての詳細と、都を移す先の候補をお聞かせ願いたく。今のままですと話が半分です」
クルムは目を細めて僅かに微笑んだ。
「流石はヒストル大臣。鋭いご意見です。二つ目からお答えしましょう。私はてっきり、都を移すと言えば勤勉なる王国貴族の皆さんが、それぞれ、我が領地こそ新たな王都にとこぞって手を挙げてくださるとばかり期待しておりました。その気持ちを十分に汲んだ上で選定をするつもりでしたが、どうやら私が自由に決めて構わないようです」
『機会を与えてやったのに手を上げなかったな』とか、『お前らの忠誠心はどうなっている』とか、とにかく圧を感じる言葉をクルムは振りまいていく。
若い王だ。
これまでとは違う王だ。
舐められてはならない、侮られてはならない。
まず最初に、お前らいつでも罷免するだけの理由はあるのだからなということを、クルムは貴族たちにむけて周知させていた。