「突然の遷都には王都の民も皆戸惑うことでしょう。王都を離れがたい者だっているはずです。そのため、王都の民には選択肢を与えます。王都の中に残らせるわけにはいきませんが、この付近に新たな居住地を築くことはできますから」
死ねばアンデッドになると分かっていて王都に残る者は少ないだろう。
だが、遠くへ引っ越さなければならないと分かれば、死期が近く、身内がいない者ほど王都で死にたいと思うかもしれない。
その辺りの民のことも考えれば、近辺に街を作り直す必要はあるだろう。
王都を再び街として使えるようにするためには、まず呪いを解く方法を見つけることと、リッチ討伐の手段を手に入れることだ。
それまではアンデッドが外にあふれ出さないように監視は残す必要があるし、呪いを解く方法を探り続ける必要もある。
このまま無責任に放置し続ければ、何も知らぬ賊が住みついたりしてアンデッド化し、気付いた時には呪い谷のようになりかねない。
いずれ王都を取り戻すことができた時は、二つの近隣都市をうまく連結させて、さらに大きな都としてうまく使っていけばいいだけの話だ。
作った街が無駄になることはない。
「二つ目の選択肢は、私たちや行政機関と共に街を移ること。場帆は今回強い後ろ盾となってくださった、ラウンド辺境伯の暮らす〈リガルド〉の街とします」
貴族たちはざわついた。
〈リガルド〉と言えば、〈要塞軍〉。
〈要塞軍〉といえば、呪い谷と竜食山である。
そんな危険な地に行政機関を移すことも驚いているし、そもそも〈要塞軍〉を野蛮な金食い虫と思っていた王都貴族たちは表情を引きつらせる。
そもそも王位継承争いとは無縁と思っていたラウンドが、クルムの後ろ盾となっていたことも驚きだ。
「……ほう」
注目をされて呟いたのはラウンド。
まるで余裕があるように見えるが、実際は何も聞かされておらず、ただ受け入れただけだ。少し前にあらかじめ相談されていたリゾルデは、時間が足りなかったのでラウンドにはまだ伝えていなかった。
相談したところで任せるとしか言われないことは分かっているので、別に構わないのだ。
実際人口が大量に流入すれば、それこそめぼしい者たちを〈要塞軍〉に迎えることができるというメリットもある。呪いが解け、【人形遣い】の討伐が済めば、クルムは王都を元あったこの場所に戻すつもりであるという話も承認済みだ
それまでの間に〈リガルド〉には人、金、名誉他、様々な恩恵が与えられることを考えれば、今回クルムの味方になるという博打から得たリターンとしては、十分すぎる。
「何か言いたいことは?」
当然、手は上がらない。
クルムのことを知らなければ、立ち回り方が分からない。
一族まとめて滅ぼされるかもしれないのに、迂闊に動ける者がいるわけがなかった。
「今の時点で決まったことではありませんが、私自身は〈リガルド〉へ移ります。こちらには信頼できるお兄様かお姉様に残っていただき、現場の指揮を執っていただくことになるでしょう」
これにも貴族たちはまた驚いた。
王位継承争いというのは兄弟姉妹での敵対関係を加速させる。
王位継承直後に、兄弟を全面的に頼る様な方針を打ち出した王は、少なくともここ数百年で一人もいない。
王位継承から、方針まで、これまでとは全てが違う。
年が若く、状況は最悪。そうであるにもかかわらず、力強く、有無を言わせない。
最早その場にいるだれもが、クルムがただの少女でないことは確信していた。
新たな王と仰ぐに足るかはともかくとして、常人でないことは明らかである。
「ああ、それから一つ。私は確かにラウンド辺境伯にも、〈要塞軍〉にもお世話になりましたが、教育係をそちらから出していただいているわけではありません。先代までのオブラ侯爵家のように、強い派閥を擁しているわけでもありませんので、才のある人材は重用していくつもりです。我こそはと思う者は、積極的に意見を述べるように。王国を発展させるための、積極的で活発な議論を望みます」
クルムはじろりとまたも貴族たちを見回した。
いくつか、手が上がっていた。比較的若い者が多く、中にちらほらと古い貴族も紛れているような形だ。
クルムは不敵に笑う。
これでいい。
思わぬ意見が出れば自分の思考パターンが広がる。
クルムは自分がまだまだ若い侮られやすい王である自覚がある。
今は緊急事態であるから、こうして不意討ちのような形で場を掌握することができているが、事態が落ち着けば落ち着くほどに、舐めた態度を取る者は増えていくはずだ。
だから、成長する必要がある。
もっと良い人材を得る必要がある。
敵となり得る者を早く見つけ、的確に摘む必要がある。
「そこの左の、はい、モンデリー子爵ですね」
家名を当てたところでモンデリー子爵の表情が一瞬強張った。
これまでクルムと一度も関わったことがないのに、名前と顔を一致させられていることに驚いたのだ。
「……当家の調べによれば、王都の西門にはまだセナト侯爵の軍が布陣しているはずです。そちらへの対応はどうするおつもりでしょうか?」
「アンデッド化の効果範囲が分からない以上、安易に死者を出したくありません。早急にオブラ侯爵の首を持った使者を送り、降伏を呼びかけます。ここにいたるまで一度当たってみた感覚から察するに、セナト侯爵は命の保証さえすれば、こちらの要求に従うでしょう。応じない場合は戦いになりますが、その可能性は非常に低いでしょう」
やることが苛烈であった。
残酷だとか、恐ろしいとか、そんな印象がつけられるような、裏で心無いうわさを流されそうなやり方である。
だが、クルムはそれでいいと思っている。
それから一つ。
モンデリー子爵が、謹慎をさせられるような状況できちんと街や街の外の状況を把握していることに感心し、その名前をきちんと頭の隅に記憶させるのであった。