転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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60話 新商品

 パクス商会に着くと、今日も従業員が出てきて案内をしてくれようとする。

 礼を述べて中へ上がろうとすると、当たり前のようにファンファがついてこようとしたので、クルムは足を止めて振り返った。

 

「お姉様、ちょっと商品でも見て待っていていただけませんか?」

「あら、私も一緒に行くわ。あの方ちょっと意地悪なのはクルムも知っているでしょう。いざとなったら私が助けてあげますの」

 

 絶対に話がややこしくなるだけだ。

 真面目な話をしている時に口を挟まれたくない。

 

「お気持ちだけありがたく。できるだけ早く話をつけてきますのでこちらで。お姉様、パクス商会の商品をじっくりと見たことはありますか? 他にはない面白いものもたくさんありますよ」

「そんなこと言って、のけ者にするつもりじゃないの」

 

 ぷくっと頬を膨らませるファンファに、思わず天を仰ぎそうになるのをこらえ、クルムは手近にあった商品を見せる。

 

「これなんか面白いですよ。さっと擦るだけで簡単に火がつく棒です。見たことがありますか?」

「擦ると、火がつく……?」

 

 街には結構浸透しているのだが、王宮で家事などをすることがないファンファは知らないはずだ。

 

「はい。そんな不思議な商品がたくさんあるのです」

 

 ファンファがそちらに目を取られているうちに、クルムは待っている従業員にこっそりと耳打ちする。

 

「すみません、店内の案内に人をつけていただけませんか? お姉様は売れ筋の商品のこともあまり知らないと思いますので、それで時間が稼げると思います。場合によってはいい客になるかと」

「……承知いたしました。おしゃべりが上手なのをつけますので、少々お待ちを」

 

 クルムが今説明した商品に関する説明をしているうちに、奥から細目の少年がやってきて「僕の方からご説明いたしますね!」と元気に挨拶をした。

 少年がなかなか整った容姿であったこともあって、ファンファは説明を真面目に聞き始める。

 

 少年のはきはきとした受け答えと、ユーモアにあふれている様子を見て、グレイは思わず目を細めた。なんとなく、その姿をかつてのパクスに重ねて昔を思い出していたのだ。

 もうちょっと糞生意気であったけれど、その聡明そうな喋り方はパクスによく似ていた。

 

 先ほどクルムがファンファに紹介していた商品も、おそらく元々はグレイがパクスに何の気なしに教えたものの一つだ。こんなものがあったら一般人は便利だろうな、程度に伝えたものを形にしたのだろう。

 グレイは魔法でちょいっとすれば火がつけられるが、魔法を使えぬ人々はそうはいかない。彼らは常に火を絶やさぬように気を付けているが、万が一の場合は簡単に着火できることが分かっていれば気苦労が一つ減る。

 

 グレイは吸わないが、最近ではタバコを吸っている者も増えてきた。

 これもパクス商会の主力商品である。

 パクス商会のお陰で社会の娯楽が一つ増えたのだ。

 

 のちの世には色々と問題も起こるのかもしれないが、グレイにはそんなことは知ったことじゃない。

 

 部屋に案内されると、今日もパクスはまだ来ていないようだった。

 生意気なと思いつつ、外でファンファと待つのもだるいので、グレイは椅子に座ってパクスがやってくるのを待つのであった。

 

 

 さて、グレイも一緒にやってくるだろうからと、パクスが時間に遅れずに約束の商会までやってくると、あの鬱陶しい王女が冒険者を二人連れて店をまわっていた。塩をぶつけてやったのに意味がなかったらしい。

 なぜか店に待機させておいた自分の息子が案内をしており、王女の方も目を輝かせて商品の説明を聞いて頷いている。

 クルムとは違って、これまで一度たりとも商品に興味を持つことがなかったくせにいまさら何をしているだろうかと、パクスは首を傾げた。

 

 まさかクルムがはた迷惑な王女に負けたのかと考えたが、あの王女の相手をするのは面倒なので、棚に隠れつつ奥に向かう。

 一瞬息子と目があったが、アイコンタクトで『そのまま』というメッセージを送ってこそこそと進んでいく。何が悲しくて自分の家で忍び歩かねばならないのかと、パクスは心の中でため息をついた。

 

「クルム様が奥のお部屋でお待ちです」

「先生は」

「ご一緒に」

「分かった、すぐに向かう」

 

 少しばかり足取りも軽くなって部屋の扉を開ける。

 普通立場が上の者や護衛されるものが部屋の奥に座るものなのだが、当然のようにグレイが奥に座ってバリバリと菓子を食べているのをおかしく思い、笑いをこらえて椅子に座る。

 

「しばらくぶりですね、クルム王女」

「お久しぶりです、パクス様。お約束通り、お預かりしていた災禍の指輪をお返しに参りました」

 

 クルムはピンピンとしている。

 落ち込んだ様子も、怒っているような雰囲気もなかった。

 ある程度面倒ごとを仕掛けてみたつもりだが、特に問題なく乗り切ったということなのだろう。

 

「まずは指輪をお返しいたします」

「いえ、それはそのままで。あなたに差し上げます」

「……では、ありがたく」

 

 クルムは一瞬だけパクスの目を覗き込んでその真意を探ろうとしたのだが、考えるだけ変な方向に誘導されそうな気がして、すぐに礼を言って指輪を取り出すのをやめた。

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