転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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62話 もうすぐ誕生日

 話し合いの後、意外なほどパクス商会の品揃えを気に入ったファンファは、しばらくの間帰らずにじっくりと棚を見ていった。そうして必要のないものまで購入し、パクスの息子を大絶賛しての帰宅となった。

 流石のパクスも手放しでほめられると塩を投げる気にもならず、その日は塩を投げつけずに見送ってやる。

 

 パクスは見送りながら思う。

 先ほどのクルムの話を信じるのならば、クルムが味方にできた勢力はパクス商会一つだけだ。

 王都の商業組合一つとっても、代表は全部で十ある。

 ファンファの後押しと母親の出身である劇場関係者をあたったとしても、精々三つ。

 

 商業組合を全て味方にしたとしても、全体を見れば勢力の二割程度の支持にしかならないだろう。まだまだ先は遠い。

 まともに考えればクルムなんかには目はない。

 

 それでも世間を変えていくのは、いつだって強い意志と折れない心であることをパクスは知っていた。

 駄目なら駄目で知らん顔をして別の手を考えればいいのだ。

 クルムには、精々自分のためにもグレイのためにも頑張ってほしい。

 パクスは布の下に隠された口を僅かに歪ましながら、心の中だけでクルムへエールを送るのだった。

 

 

 パクスとの話がついておよそひと月。

 ファンファがクルムの居住区を訪ねることが随分と増えた。

 大体いつも好き勝手に話をしていくので、作業をしつつ適当に相槌を打っているのだが、ファンファはそれで満足らしくすっきりとして帰っていく。

 話を聞くに、ファンファには女友達と言うものが皆無なので、こうして本音を愚痴る相手もいないらしい。

 いつも後ろに控えている冒険者二人はともかく、他の冒険者たちや商人たちにはいい顔をしているらしく、なかなか本音で接するのは難しいそうだ。

 

 あれ以来、パクス商会からはグレイ用の茶と茶菓子が届くようになった。

 グレイも何かパクスの息子のために渡す物はないか考えているようだったが、未だに良いものを見つけられていないようである。

 

 それはともかく、グレイもファンファが来ても自室に引っ込むことはなくなった。

 のした冒険者二人に慕われているようで、鬱陶しがりながらも適当に助言をしてやっている。

 ファンファはそれがちょっと気にくわないようで、必ずかたわれはファンファの後ろで護衛をして、もう一人の方がグレイに話しかけるという構図が出来上がっている。

 そもそもグレイは他人に慕われるのが嫌いではないのであるから、距離を縮めてこられると弱いのだ。それを自分で理解しているからこその、ぶっきらぼうな態度に繋がるのだろうけれど。

 

「そういえばクルムはそろそろ誕生日でしたわね」

「はい、来週に控えています」

 

 グレイはピクリと耳をそばだてた。

 近くにある十三の誕生日から王位継承者争いに参加するという話だったが、一週間後とは聞いていない。

 もちろんなにも準備していない。

 

「当日は何かお祝い事をするのかしら?」

「いえ、忙しいので」

「あら、それ良くないわ。折角の誕生日ですもの、私が盛大にお祝いをしてあげましょう!」

 

 楽し気なファンファの表情をちらりと見て、クルムはその心情を祝いの気持ち半分、一緒に騒ぎたい気持ち半分くらいと推測する。放っておくとずっと言い続けるだろう。

 ばれない程度に小さく息を吐いて筆をおき、ファンファの方へと顔を向ける。

 

「ありがとうございます。しかし当日は申請の妨害もあるかもしれませんし、気を引き締めて臨みたいのです」

「私の時は妨害なんて来なかったけれど?」

 

 それは多分ファンファが何を考えて王位継承者争いに参加していたかが、兄姉たちに知られていたからだろう。それか、持ち前の明るさで適当に乗り切っていたか。

 

「お姉様は他のお兄様方との交流はあるのですか?」

「あまり相手にしてもらえませんわね。それでも時折顔を出しに行きますけど」

 

 できるだけ気配を消すことに終始してきたクルムと、顔を出すことで害のなさをアピールしてきたファンファの違いだろう。クルムにこそあんな態度だったが、目上には割と可愛がられるタイプだ。

 クルムの上の兄もファンファのことは、困った顔をしながらもそれなりにかわいがっていた。

 適当にあしらわれている姿は想像がつく。

 

「そんなことより! お祝いはしましょう。申請が終わってからでいいですわよ」

「……まぁ、終わってからならば」

「そうそう、姉の言うことは素直に聞くべきですわ。そうしていればかわいげもありますもの」

「はぁ……、そうですか」

 

 クルムはいぶかしげな表情をしてファンファの得意げな顔を見上げた。

 本当にこの人は傘下に納まったことを理解しているのか、少しばかり不安だった。

 

 少し離れたテーブルの方では、グレイが茶菓子を飲みながら耳をそばだてている。  

 すぐ横には冒険者の片割れである色白筋肉の方のニクスが、こっそりとグレイに話しかけた。

 

「グレイ先生は何か準備されているんですか?」

「どうでも良いじゃろう」

「きっと喜ばれますよ」

「そういうもんかのう」

「間違いなく」

 

 何を用意するかすでに考えはじめている癖にしらばっくれるグレイは、間違いなく頑固で面倒くさい老人なのだろう。

 

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