転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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67話 注文の多い加工店

「一つ、見ての通り俺の体はこんなだ。まともに作業なんかできやしねぇ。だが知識はある。腕もある。逆に誰に似たのかわからねぇこの孫娘は、腕はまだまだだが体は丈夫だ。あんたの依頼は俺がつきっきりでこいつにやらせる。上手くいくかどうかは二分一(にぶいち)だ」

 

 仕方のない条件であった。

 この老人の言う通り、もし他にまともな職人がいないのだとすれば、せめて腕のある職人である老人の監視の下、娘に作業をさせるのが一番だろう。

 

「他には?」

「おう、あんた王都に戻って今何してんだ。こんだけの物をぽいっと預けようとすんだから、相変わらず羽振りはいいんだろう?」

 

 実際は死蔵させていた物を持ってきただけであって、ついこの間まではそれほど豊かな生活はしていなかった。ただ、クルムの教育係となってからは、それなりの給金を貰っている。

 前払い金だけ持ち逃げしてもある程度生きていけそうな程度には、経済的に潤っていた。なんせ衣食住は整っている上、長年質素な暮らしをしてきたおかげで使うあてもない。

 

「あんたの要求するものを作ることができりゃあ、一人前の職人だろう。しばらくは俺が指導についてやるから、うちの孫娘をあんたのところで専属の職人として雇ってくれ。俺がこのまま朽ち果てるならばともかく、このままじゃあこいつに好きな道を歩ませてやることすらできねぇ」

「爺ちゃん!? 私は街の加工屋に……!」

「そんな半端な腕じゃくってけねぇって言ってんだろうが! だがな、こいつについて行きゃあ加工屋としての腕は磨けるかもしれねぇ。お前のために頭下げてやってんだから黙ってろ!」

 

 ものすごい剣幕に女性は驚いて口を閉ざす。

 老人の心の内を知ったこともあって、それ以上文句を言えなくなったのだろう。

 

「頭は下げとらんじゃろうが」

「うるせぇ、最後まで黙って聞いてろ!」

「まだ何かあるのか。注文の多い爺じゃのう」

「あんたの方が年上じゃろうが、若作り爺が」

「よぼよぼの癖に口だけは達者じゃ」

「三つ目!」

 

 悪口の応酬を無理やりぶった切って、老人はさらに条件を語る。

 

「最近は加工に必要な物すらろくに用意できねぇ。例えばバジリスクの目玉を潤すための、大ぬめりマイマイの粘液なんかだ。伝手があるから用意できるが、そっちの金もいただかなけりゃあ作れねぇぞ。ただし、条件を全部飲むなら、加工代はロハでいい。全部の材料費だけで作ってやる」

「ま、よかろう」

 

 昔から素材ばかり持ち込んできたので、材料費がどれだけかかるのか知らないが、最終的な値段が大きく変わることはないだろう。深く考えずに適当に返事をしたグレイである。

 

「そして」

「まだあるんかい。普通要求するにしても一つか二つじゃぞ」

「じゃあ作らねぇ」

「糞爺」

「あんたの方が爺だってさっきから言ってんだろ。その口の悪さ、昔から変わらねぇな」

 

 老人はグレイを暫し睨みつけて、帰ると言い出さないことを確認してから更なる条件を提示する。

 

「腕のいい職人は大体要塞の方に引っ張られてった。いまじゃああっちも中々でかい街になってるらしい。俺の息子は金が必要だって言って、俺の反対も聞かずに軍の専属で働いていたが、八年ほど前に命を落としたらしい。金とその事実が書かれた手紙だけが送られてきて、なにがあったか真相は闇の中だ。時間がかかってもいいから、何があったか確認してほしい」

「要求が多すぎるな」

「あんた、これからも街にいるんだろう? 俺たちを抱え込んどきゃあ、次は楽だぞ。何度でも言うがな、今時新しい職人なんて見つからねぇからな」

 

 正直グレイ一人の問題であれば、時間さえあれば隣国に伝手がある。

 ただ、確かにクルムの下にいる限りは、また加工職人が必要になることは十分に考えられた。

 

「……加工職人は商家にも雇われているんじゃったな。例えば、パクス商会なんかも職人を抱えておるのか?」

 

 グレイの質問を受けて、老人はその意図を探るようにじっと見つめてくる。

 しかしその辺りのやり取りはお手の物。グレイは表情を変えずに返事を待つ。

 

「……こまけぇことは知らねぇが、あそこは新興の商会だろ。職人が不足し始めた頃には、影も形もなかったはずだぜ。実際俺のところにも専属にならねぇかって話が来たことがあるくらいだ」

「そこで断ったのに、なぜ今になって儂に娘の仕事先を探させる」

「…………そりゃあ、その時にはまだ息子が存命だったからだ。孫娘が何を言い出したって、何とでもなると思ってたんだよ」

「パクス商会に頼ることは考えなかったのか?」

「ばっか野郎! 頭下げたら足元見られるだろうが!」

 

 そういえばさっき自分で頭を下げて頼んでると言っていたが、あれは言葉のあやであって、この老人一度も頭を下げていない。グレイにも匹敵するような頑固爺である。

 何なら自分の手元に置いておけば、この職人をパクスに紹介することこそ、息子の誕生祝いになりそうなものである。

 

「ま、良かろう。とりあえずじゃ」

 

 グレイはずだ袋に手を突っ込んで、先ほどテーブルに乗せたものと同じものをいくつもいくつもテーブルに並べて見せた。

 必要とされるところへ持っていけば、数個で立派な家が建つような数である。

 ただし、光竜の鱗から作り出された、グレイが要求するような能力を備えたアクセサリーならば、一つで屋敷が立つような値段になるけれど。

 

「これだけあれば失敗はないな」

「流石はアルムガルド。これだけありゃあ間違いねぇよ」

 

 老人は褒めるつもりでアルムガルドの名を出したのだろうけれど、グレイは口をへの字に曲げて返事をしなかった。

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