転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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71話 ロブスの交換条件

「グレイは何しに来た」

 

 相手をしているときりがないと考えたのか、スペルティアはロブスのことを無視してグレイに話しかける。

 

「ちょっとばかり知りたいことがあったんじゃが……、今なくなった」

 

 ちらりとロブスの方を見る。

 この男が〈要塞軍〉でそれなりの地位にあるというのならば、スペルティアにわざわざ借りを作る必要はない。

 

「冷やかしか。いつもなら帰れと言うところだが、今日は金貨一枚で話し相手になってやってもいい」

「もう用はないと言っておろうが」

 

 グレイを引き留めたいのならばせめてもう少し下手に出ればいいのに、スペルティアはいつも通りに偉そうな態度をやめない。よほど自信があるか、こんなコミュニケーションしかできないのかのどちらかだろう。

 おそらく後者だ。

 

「ロブスよ。〈要塞軍〉について聞きたいことがあるんじゃ。この高慢ちきは抜きにして他所へいかんか」

「良いぞグレイ。珍しく役にたっている」

「やかましい」

 

 横から飛んでくるヤジはグレイのことを応援しているようだ。

 とにかくロブスをどこかへやって欲しいらしい。

 ロブスはにっかりと笑って頷いた。

 

「俺、スペルティア様を〈要塞軍〉に勧誘するように言われてるんす。話ならここでお願いします」

「そうか、ではここで良い」

「良くない。出て行け。二人とも出て行け」

 

 スペルティアは文句こそ言うが、腕力には自信がない。

 二人を力ずくで何とか出来ると思っていないし、なんなら人を呼んだところでけが人が続出するだけだと知っている。

 医学薬学の頂点を自認するスペルティアとしては、流石にけが人を新たに作り出すことに加担をするわけにはいかない。いっぱい来ていっぱい儲かることは良いことだが、別に人が傷つくところが見たいわけではない。

 

 一方でグレイも片方の眉を上げて呆れた顔をした。

 そういえばこのロブスと言う男はこうなのだ。

 口では先生と言う割に、やっぱり頑固で一切主張を変えようとしない。

 

 義理堅いので支払いやら礼はしっかりとしたのだが、かわいげは昔からあまりなかった。いちいち反抗したり不満そうにしていたパクスの方がまだかわいらしい。

 

「それで、先生の御用件はなんすか?」

「〈要塞軍〉の備品にあるだろう加工用の材料が欲しい。これなんじゃが……」

「相当高位の素材を加工するための材料っすね。無理っす」

 

 あっさりと断られてグレイは眉間にしわを寄せる。

 こんな材料、グレイの感覚では出し渋る様な大したものではない。

 ただ、あちこちへ行って集めるのが面倒なくらいだ。

 

「なんじゃと?」

「いい気味だ」

「黙れ、今すぐロブスと二人きりにしてやろうか」

「前言一時的に撤回」

 

 とにかくロブスをグレイに引き取って欲しいスペルティアは、一時的に言葉を撤回した。ほとぼりが冷めた頃にはまたからかうつもりだ。

 

「しょぼいのならともかく、こんなの勝手に持ってってばれた日には、うちの大将にぼこぼこにされるっすよ」

 

 どうも王国の魔物素材関係の価値観は、グレイが持っているものとはだいぶずれがあるようだ。

 

「なんとかならんのか」

「そうすねぇ……」

 

 ロブスはしばらく真面目な顔をして考えてから、急に思いついたように手を打った。

 

「こんなのはどうすか! 先生が俺と手合わせをして勝ったら材料を譲る。ただしその代金として、後で俺と一緒に要塞まで足を延ばして、〈要塞軍〉の指導をしに来てもらうっすけど」

「良いのか?」

「もちろんす。実は一度先生とは本気で手合わせしてみたかったんすよ。昔身体強化の魔法を教えてもらったじゃないすか。その時から強い人だとは思ってたんすよ。これなら俺も怒られないす」

「ま、良かろう。材料を手に入れる必要はあるしのう」

 

 ロブスはまたにっかりと、今度は挑戦的に笑った。

 

「もう貰える気でいるっすね? 昔のままの俺と思ったら痛い目見るっすよ」

「……ほう?」

 

 グレイの目が細くなる。

 ロブスは教え子だ。

 グレイなりに気を遣って話をしてきたつもりだし、手心の一つくらい加えてやるつもりだったが、ロブスの言葉はプライドに響いた。

 

「ふむ。もしグレイが負ければ私様も〈要塞軍〉へ行っても良い」

「ホントすか!?」

「ただし、君が負けたらもうしつこい勧誘は一切なしだ」

「いいすね、燃えてきたっすよ」

 

 ロブスは腕まくりをして気合いを入れる。

 その腕はグレイにも勝る程に太く、良く鍛えられていた。

 

「おい、ただ乗りするな」

「ただじゃない。君が負ければ大変なことになる」

「大変なことってなんじゃ」

「私様が面倒くさい」

「ちょっと負けたくなってきたのう」

 

 グレイがふざけたことを言うと、スペルティアは「ふふん」と鼻で笑った。

 

「負けず嫌いが何か言っている。純粋な一対一で君が負けるわけがないだろう。私様は君ほど強い男を見たことがない」

 

 珍しく褒められてグレイが黙っていると、言葉はさらに続けられる。

 

「君は昔から野蛮で考えの浅いろくでなしだが、それだけはゆるぎない真実だ」

 

 なんで余計なことを言うんだとイラっとしたところでさらに追撃。

 

「私様に褒められたからと言って照れるな」

「腹なら立っておるが?」

「褒められて怒るとは妙な」

「途中で明らかに罵っておったじゃろうが」

 

 二人が気の合うような会わないような会話をしているうちに、ロブスは腕をぐるぐると回して準備をする。

 かつての師との戦いは、現役バリバリのロブスにとっても、酷く心躍るものであるようだった。

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