転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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74話 〈要塞軍〉の役割

「じゃ、また明日支払いにくるっす」

「うん、そうして」

 

 しつこい勧誘がなくなることになったスペルティアはすっきりとした顔で返事をして、さっさと治癒室の中に引っ込んだ。

 自分の都合を最優先にする彼女が、負けたロブスに気を遣うことなどありえない。

 

「……さて、それじゃあ倉庫に行くっすかね。ついてきてほしいっす」

 

 グレイは廊下を歩きだしたロブスの横に並ぶ。

 無事に必要な物を手に入れられそうで何よりだ。

 これから街へ行っても遅くなるだろうから、加工屋へ行くのはまた明日とする。

 加工屋の二人が上手くやってくれれば、誕生日プレゼントは間に合いそうだ。

 

 これで面目が保てるというものである。

 

「ところでロブスよ。お主何をして騎士団を追い出されたんじゃ?」

「いや、なんか先輩たちにあれやれこれやれって言われて、真面目にやってたんすけど……。生意気だって殴られたんすよね。自己防衛のために制圧したら、なんか俺が暴れてるって話にされちゃって」

 

 歯に衣着せぬ物言いをするロブスのことだから、どうせ先輩のことも無意識に煽り散らして嫌がらせをされたのだろう。それでも全く堪えた様子がないから、業を煮やした先輩に制裁をされそうになって返り討ちにした。

 

 なんとなく想像のつく話だ。

 

「それで、〈要塞軍〉というのはなんなんじゃ?」

「先生って結構物知りでしたよね? 知らないんすか?」

「まぁ、三十年ほど王都を離れておったからな」

「あ、じゃあ知らないかもしれないっすね。〈要塞軍〉ができたのは今から五十年ちょっと前のことっす。王国の北にある〈旧アルムガルド領〉の魔物頻出地域に対応するための軍らしいっす。なんか色々あってアルムガルド家がなくなって、そこに住んでた領民の多くも、どっか他の国にいっちゃったらしいっす。そしたら数年で魔物が次々とあふれ出してきて、それを何とかしなければ、って設立されたのが〈要塞軍〉っすね」

 

 やはりこの男、なかなか博識である。

 人に気を遣うことはできないが、強く賢い。

 

「魔物って人が集まるところへ向かって襲ってくる習性があるじゃないすか。だから〈旧アルムガルド領〉から王国の領土へ向かう道に、でっかい街を作ったんすよ。もともとは兵士ばっかり駐在してたんすけど、ちょっと戦えば済むって話じゃないじゃないすか。だから気付いたらでかい街に、って感じっすね。全部国の金で賄われてて大変らしいっすよ」

「よくもまぁ、どけちで自分たち以外どうでも良さそうな王族共が予算を割いたもんじゃな」

「はは、ホントっすよね」

 

 その王宮の真ん中で悪態をつくグレイも、けらけらと笑って同意するロブスもだいぶずれている。

 

「でも必要なんすよ。だって、あの要塞がなきゃ、王国の貴族のいくつかは領土を飲み込まれててもおかしくないっすからね」

「そんな不甲斐なさでよくもまぁ、貴族なんぞ名乗れたものじゃ」

「大した協力もしないで魔物の素材を要求してきたりするんで、いっそつぶれてしまえばいいんすけどね!」

「そうなれば国の信用もがた落ちで、王国存亡の危機じゃのう」

 

 二人してわははと笑う。

 笑い事ではない。

 

「ま、王国ががたつくと、普通に暮らしてる人たちも苦しむことになるっすから。俺たち軍属のものはいいっすけど、無駄に人が死んでもなんもいいことないっす」

「それはまぁ、そうじゃな」

 

 なんもかんもどうでもいいからみんな死ね、と思ったことのあるグレイとしては耳の痛い正論である。

 ロブスは確かに人として欠けている部分が多くあるが、その辺りの価値観は今でも変わらず、王都の守護者たる騎士を目指した若者の頃のままであった。

 

「でもあれっすね。スペルティア様は連れていけないっすけど、先生が指導に来てくれるってのはいいっすよね。俺あまりもの教えるの得意じゃないんすよ。皆がもうちょっと強くなってくれれば、色々と楽なんすけどね」

「……指導って儂がそっちまで顔を出すのかのう?」

「そりゃそうっすよ。俺がここにいるのって状況の報告に来ただけっすからね」

 

 ロブスに報告係が務まるのだろうかと、グレイは少しばかり考える。

 どうやら〈要塞軍〉は金食い虫だから、きっと財務関係者には小言をさんざんぶつけられることだろう。

 この男がそれにまともに対応するとは思えない。

 

 そこまで考えてから、グレイはなる程、と納得した。

 どうしたって王宮が金を出さざるを得ないのならば、何を言われても気にしないロブスのような人材をよこすのが適切だと納得したのだ。

 なかなかよく考えられた人選である。

 

「ついでに前々から計画していたスペルティア様を勧誘しようと思ったら、なんか最近怪しい大男が現れたって言うじゃないすか。もしかして王宮のなんか、なんでしたっけ?王様決めるための馬鹿みたいなあれこれに巻き込まれてんじゃないかなって思って、慌ててたってわけっす」

「ま、あ奴も馬鹿ではないから、下手に争いに巻き込まれるようなことはすまい」

「そういえば先生はスペルティア様と知り合いっぽかったっすね。どちらで?」

「腐れ縁じゃ」

「腐れ縁とは?」

「ロブスよ」

「はい、なんすか?」

 

 グレイはしつこく尋ねてくるロブスをじろりと見つめる。

 本当に人の気持ちを考えずに話を進める男である。

 悪びれも何もない。

 

「負けたのだからしつこく聞くな」

「それ言われるとこれ以上聞けないっすね」

 

 意外とあっさりと引き下がったロブスは、長い廊下をグネグネと進んでいき、王宮の端の方へと向かっていくのであった。




8/1拙作〈私の心はおじさんである3〉発売日でござんす。
もしお財布とお時間に余裕のある方がいらっしゃいましたら、手に取っていただけますと幸いでござんす。
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