転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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75話 新しい組織

 王宮の奥、といっても王が控えている方ではなく、端っこの方、という意味だ。

 こちらは騎士団の縄張りであり、グレイがスカベラと手合わせをした訓練場などもある場所になる。

 王宮内でも比較的土地が余っている場所であり、新しい組織である〈要塞軍〉のために土地が割かれるのも当たり前の場所であった。

 近くへ来ると幾人かの騎士とすれ違ったが、グレイはおろか、ロブスもまた、挨拶もせずに当たり前のように歩いていく。

 

 騎士たちは見慣れない二人組に通り際に首をかしげるが、片方が噂の爺であることに気づくと黙ってその背中を見送ることになった。しかし、自分たちの縄張りを我が物顔で闊歩されるのは気分のいいものではないのだろう。

 騎士たちの顔は苦々しい。

 

「そういえば先生は今何をしてるんすか? もう下町の先生はやめたんすか?」

「あの辺も子供が住まなくなったからのう。街を出て田舎に引っ込もうかと思っていた矢先に、王女に拾われて教育係をしておる」

「へぇ、出世じゃないっすか。あ、じゃあ王女も今度の指導一緒に来るっすか?」

「そうじゃな、一応言ってみるかのう。ついてきても問題ないのか?」

 

 話を聞く限り今や〈要塞軍〉は相当大きい組織だ。

 あまり好き勝手王女が乗り込むと問題になりそうだと、一応教え子の立場を慮っての質問だった。

 

「大丈夫じゃないすか? 〈要塞軍〉ってどうせどこの派閥にも所属してないっすから。うちの総長、貴族のボンボンとか嫌いっすからね」

「気が合いそうじゃな」

「あ、合うと思うっすよ。あ、ここっすね」

 

 小さな倉庫が一つと、でかい倉庫が二つ。

 当初の想定よりも物資を保管する必要が出てきて、後付けで増やしたのだろう。

 遠くから見るとアンバランスな配置だった。

 小さい方の倉庫の横には、小さな家がくっついていて、ロブスはまっすぐにそちらへ向かうと、ためらうことなくドアノブに手をかけた。

 

「どうもっすー」

 

 がたがたと音がして、中でだらけていた事務員らしき人物が姿勢を正す。

 

「あ、ここ一応倉庫の管理室っす。今回は材料お渡ししますけど、あまり勝手に使ったりすると、俺が大将にどやされるんでやめてほしいっすね」

「ふむ」

「ろ、ロブス大隊長殿、おかえりなさい!」

 

 堅い口調で立ち上がって挨拶をする管理人らしき男をちらりと一瞥し、ロブスはずかずかと中へ入ると、鍵を勝手に取り出して戻ってくる。

 

「あの、何を……?」

「この人に今度〈要塞軍〉の指導に来てもらうから、代わりに先払い報酬として、加工に必要な資材の一部を融通する。一応何を使ったか伝えるから、うるさいこと言われたら俺がそう言ってたって伝えてほしいんすけど」

「あ、えー……、はい。いいんですね、ロブス殿の責任ということで」

「いっすよ」

「あの、一筆だけ頂けないでしょうか……?」

 

 管理人の態度からして、おそらくロブスの方が随分と役職が上だろうに、遠慮することなく最低限の手続きを要求してくる。

 気弱そうに見えて意外としっかりした男である。

 

「はいはい、ええっと……」

 

 ロブスはグレイから預かった必要な資材を紙に書き込んでいく。

 

「以下の資材を、ロブスの責任で持ち出します。管理人には一切の責はありません、っと。ほい、ほい、これでいいっすね」

 

 最後に親指を軽く切って血判を押すと、ずいっと管理人に差し出し、鍵束を指に引っ掛けてくるりと回す。

 

「あ、一応私もついていきます」

「ね、理由がないと出してくれなさそうじゃないすか? しっかりしてんすよ、ここの管理人」

「そのようじゃなぁ」

 

 まだ設立されてから歴史が浅いからかもしれないが、形式よりも実利一直線の方向でしっかりとした雰囲気がある。

 そうでなければロブスのような人物が成り上がることは難しいだろう。

 

 しっかりと管理人の監視下で必要量だけの資材を取り出してから、両腕にそれを抱えてグレイたちはまた廊下を歩く。量が量だったので、グレイ一人では持ちきれず、結局ロブスも付き合わせることになった。

 

「先生が教育係してる王女ってどんな奴なんすか?」

「そうじゃのう……、変わりもんじゃな」

「はは、先生の周りに変わりもんじゃないやつがいたためしがないっす。そんなんじゃ全然わかんないっすね」

 

 相変わらず失礼な物言いである。

 それでも悪意がないのが分かっているから、いちいち腹を立てても仕方がない。

 

「まだ子供じゃが意志が強い。若さのせいで時折ぶれるが、総合的に見れば中々賢く勤勉かつ優秀じゃ」

「べた褒めじゃないすか」

「お主にも似たような評価はしとった。お主は若いくせに本当に心がぶれずに気持ち悪いくらいじゃったが」

「ははっ、ありがとうございます」

 

 半分馬鹿にしたのだがその辺りが通じないのがこの男の面倒なところである。

 騎士たちとすれ違って数歩進んだところで、背中から声をかけられる。

 

「おい、お前ロブスじゃないのか……? なんでこんなところ歩いてやがる」

「ん? 誰っすか?」

 

 振り返ったもののロブスはその人物に見覚えがないようである。

 ロブスよりはやや年上か変わらぬくらい。

 騎士たちはたっぷりと資材を抱えて前が見えなくなっている、触れるべきではないグレイの存在には気づいていないようであった。

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