転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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77話 一応半分くらいは色々考えている

 朝の訓練を終えたグレイは、今日もぐったりと休憩しているクルムには目もくれず、朝のお茶の時間を過ごしていた。ここでのんびりといつものお茶を飲み、菓子を軽く食らって昼食まで腹を持たせるのが日課である。

 

「今日もちと用事があるんじゃが、そちらはどうじゃ?」

「昨日と同じです。中でできることをこなしておきます」

「ふむ……、ビアットを借りても良いか?」

「ウェスカの方に許可を取って下さい。私はここでお姉様の相手ですので。私も外に出かけたいところですが……」

 

 誕生日まで大人しくしているというのは、自分で言いだしたことだ。

 ぶつぶつ言いつつも理性が勝っているようで出かけるつもりはないようだ。

 これまで気持ちを押し殺して大人しい王女として生きてきたが、どう考えても活動的な気質を持っているクルムである。

 一度グレイと刺激的な毎日を過ごしてしまったせいで、これまで当たり前であった日常が退屈に思えてしまうのだろう。

 

「ちなみに今は何の仕事をしておるんじゃ?」

「手紙ですよ。これから王位継承権争いに参加します、というような旨の内容を遠回しにお知らせしています。これまでのように付き合ってくださる方もいるかもしれませんし、これを機に私との付き合いを絶つ方もいるかもしれません。そうならないよう、心に訴えかける手紙を書かなければならないのですが」

「面倒じゃのう……」

「そう言うと思いました」

 

 細かな気配りも大事なのだが、その辺りのことはグレイからは学ぶつもりもないクルムである。

 かつて王宮で大暴れして国外に追放されたグレイだ。

 反面教師にするくらいでちょうどいい。

 

「先生はどこに出かけているんです?」

「うむ、ちょっと昔なじみのところに顔を出していた。世話になった奴はもう寿命で死んでおったようで会えなかったがな」

 

 家を構えていた以上、グレイはそれなりに長いこと王都で暮らしていたはずだとクルムは推測する。事実そうだ。

 先ほどの言い方だと、まるで随分と久しぶりに会いに行ったような言い方である。

 仮にも世話になったと思っている相手にそんなことありえるだろうかと、ベッドで体を休めながらクルムは首を傾げた。

 

 最初のうちはちゃんと椅子に座っていたが、寝転がっていた方が体の回復は早いのだ。

 グレイ相手にいちいち体裁など保っていられない。

 

「先生が王都にいた頃のお知り合いですか?」

「そうじゃな」

「……先生はいつごろ王都へ帰ってきたんです?」

「二十年前くらいだったかのう」

「……その間一度も会いにいかなかった……なんてことないですよね?」

「会いにいっとらんが?」

「世話になった人なんですよね?」

「そうじゃな。しかし万が一儂が王家に逆恨みされていた場合、儂から訪ねればあちらに迷惑がかかるかもしれなかったじゃろう」

 

 傍若無人なグレイから放たれたとは思えない、他人に気を遣った一言であった。

 恩人に会いにいかないなんてやっぱりグレイだな、と心の中でちょっと引いていたクルムは、びっくりして目を丸くしてしまった。

 

「ま、あんな王都の端で細々とやっている分には気づかれんじゃろうが、流石に中心街へ顔を出してはのう」

 

 グレイが人との付き合いを浅く広くしてきた理由でもあった。

 自分だけならばともかく、仲が良くなって人質になんてとられた日にはたまったものではない。

 面倒だし、助けに行って気づいたときには手遅れ、なんてこともありえる。

 

 だからといって四六時中一緒にいるのも気持ちが悪い。

 となると、自然と歩んできた人生のような人付き合いになってしまうのだった。

 それが気質に合っていたという側面もあったが、老境に入るまで寂しい人生を送ってきたのは、なにもグレイの人間性が終わっているからという理由だけではなかった。

 

「……それにしては、私のお願いはすんなり受け入れてくれましたね」

「どうせ田舎へ引っ込む直前じゃった。最後に王宮がどんな状況になっているのか見るのも悪くないかと思ってのう。王位継承争いのことは知っておったし、第十一王女ともなれば、よほどの傑物でない限り相当不利な状況じゃろうと想定した。折角頼ってきたのじゃから、まったく目がないようじゃったら、ついでに抱えて田舎まで運んでやろうかと思っただけじゃ」

「先生は……意外と色々と考えていらっしゃるんですね」

「お主、それ師に対して言う言葉ではないからな」

「もっとこう……、いざとなったら全員殺してしまおう、みたいなことを考えているとばかり」

 

 考えていた。

 色々考えれば人生窮屈になったのも、友を失ったのも、父親を殺すことになったのも王家のせいである。

 糞みたいな政治が続いているようで、クルムにも見込みがなければ、存分に暴れてから逃げてやろうと真面目に考えていた。

 今も考えている。

 

「そんなわけないじゃろ。人を野蛮人のように言うでない」

「すみません。少し考えを改めます」

「うむ、そうするが良い」

 

 野蛮人である。

 自覚もある。

 

 ただ、人から言われるとなんだか腹が立つので、一応否定しているだけのグレイであった。

 

 

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