転生爺のいんちき帝王学   作:嶋野夕陽

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宴席から駒

 前の方の席に陣取っていたファンファ勢力の商人たちは、クルムとの挨拶が終わると一斉にパクスの方を気にし始めた。顔を覚えて貰えればそれだけで商機となり得る。

 他の大商会とは違い、自前の勢力はあっても傘下の商会がそれほどないというのも相まって、他でそれほど評価されていない商人ほど、パクスと近づく機会を探っているところがあった。

 古い大商会に見向きもされないくらいならば、新興で味方が少なく、勢いのあるパクス商会の下に潜り込みたい。

 今や王都におけるパクスの影響力は、それだけ大きなものなのである。

 他の商人たちの動きをわかっていても、パクスは知らぬ顔をする。

 

 商人たちも席を離れるとなれば、他の商人から今所属している大商会へ告げ口される恐れもあるし、そもそも店主たちがいるようなテーブルに囲まれているパクスの下へ、自分から向かうのは中々勇気のいることだ。

 

 互いにけん制し合っている間に、一人の若い商会主がついに決心をして席を離れた。さりげないふりをしているが背中には汗びっしょりだ。

 地方から荷物の輸送などをして稼いでいるぎりぎり中規模程度の商会主で、あちこちの珍しい物や便利な物の知識もある。

 王都中に存在するパクスの店のラインナップを考えれば、十分に自分の仕事に商機があるはずだと踏んでの賭けだった。

 

「失礼、少々お邪魔します」

 

 各所に配置された丸テーブルはそれほど大きくなく、詰めれば六人程度は囲めるが、グレイたちが広く場所をとっているので、五人目が入るのは難しい。

 

「別に構わんよ」

「そっすね」

 

 返事をしたのは目的の人物ではなく、妙に背の高い老人と、筋肉で張り詰めた軍人の方だった。どちらも見覚えはないけれど、パクスと一緒にやってきたのだからと、男は邪険にすることなく「ありがとうございます」と挨拶をする。

 別にテーブルを移動すること自体は自由なので、男の行動には何ら失礼な部分はなかった。

 

「本日は皆さんもクルム王女殿下のお祝いでいらしたのですか?」

「そうじゃな。そういうお主はもう一人の方が目当てじゃろ?」

 

 背の高い老人、グレイが尋ねると、男は「はは……」と愛想笑いをする。

 普通に考えれば、この場でそんな発言をするのはクルム王女に対しても失礼であるし、パクスがクルム王女の勢力についているのだとすれば、口が裂けても肯定するわけにはいかない。

 

「いやぁ、なんかめでたい席で美味しい飯が食えそうだったんで来たんすよね」

「あ、ははは……」

 

 もっとやばい奴がいて苦笑い。

 誰だこいつを招待したのは、と男は思ったが、答えは誰からも招待されていない、である。横にいる爺が勝手に連れてきた。

 ちなみに男の目的の人物もすました顔をしているが同じである。

 

 さてそのパクスはというと、一番に自分のところへ顔を出しに来た男のことを値踏みしていた。

 なんとなくではあるが男が何をしているかは把握している。

 この沢山の目がある中でパクスに望みをかけて一番にやってきたのだから、中々勇気のある男である。

 あとは関係のない非常識な二人に対する動きも、邪険にしたりせずうまいことあしらっている。パクスはグレイのことを敬っているが、決してグレイの判断、行動が常に正しいとは思っていない。

 

「なんというか……、クルム王女殿下の姿を見ていると、新しい風のようなものを感じます。若い王女殿下があれほど凛々しく活動されているのですから、自分もそろそろ勇気を出して新たな一歩を踏み出す時なのではないかなと思うのですよ」

 

 そこでチラリとパクスの様子を窺う男。

 パクスは当然それに気づいたし、分かりやすいパスを送って来たなと思ったが、鼻から小さくため息だけついて返事をしてやることにした。

 

「情勢は常に変わり続けていますからね。ここで出会えたのも何かの縁かもしれません」

「ありがとうございます!」

「そっすね、何かの縁かもしれないっすよね」

「うむ、そうじゃな。ところでお主は何の仕事をしておるんじゃ?」

 

 余計な奴らまで勝手に縁を結んできたが、男の交渉はおおむね成功だ。

 仕方なしに質問にも答えてやる。

 

「うちはたくさんの馬車を持ってましてね。王都から地方へ持って行ったものを売り、地方の産物を仕入れて王都で売るという、ごく一般的な商売をしています。自慢はこの目と、足の強い馬たちです。元々は地方で馬の牧場をしていまして……、そこで人食い馬と普通の馬のあいの子を育ててたんですよ。一念発起して王都に来て商会を立ち上げて十年目です」

「ほう」

「……便利そうっすね」

「ほうほう、それは中々良いのう……」

 

 三人そろって考えたのは、〈要塞軍〉の手に入れた素材を、この男の馬車を使って王都へ運ぶことである。実は先ほど三人で話したことの一つに、魔物素材と加工屋を使って、王都で一儲けしようというものがあった。

 〈要塞軍〉は軍備で金をえらく消費する。

 もちろん王国からその金は出ているが、年々渋くなっていて、そろそろ〈要塞軍〉の方で何か商売でもしなければという話が出ていたのだ。

 

 馬の話までは知らなかったパクスまで関心を持ち、一斉に三対の視線を向けられて男はたじろぐ。これは好機、と踏ん張った男であったが、果たして本当に好機となるかは、これからの男の対応次第となることだろう。

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