お前は何処にもいやしなくて俺もここに居なかった。 作:黑米田んぼ
「こっちの調整は終わったぞ。確認してくれ!」
赤いガンダムとガンダムタイプ、軍警の大暴れから一夜明けてアムロは復旧作業のために使える機械を片っ端から整備していた。
「悪いねぇアムロさん!!軍警の奴らも酷いよなぁ!此処にいる奴らだってそこそこの連中がちゃんと許可取って立てているのもあるのによぉ」
「そうだな」
MSが複数で暴れれば自然とこうなる。ましてや軍警のザクが片っ端で家をひっぺ返して乱暴に放り投げれば他の家にあたる死傷者も馬鹿にならずそれらを対処するための諸々を考えればまた新しい揉め事の種が生まれる。
「アムロさん!こっちのはもう良いよ。向こうの奴らに行ってきてやってくれ」
「ああ、分かった!」
そうやってアムロは一日中大量の機械の整備やメンテをし続けたのであった。
「―――マスター、バーボンを一つ頼む」
「畏まりました」
そうやって大量の機械を捌き終えて多額の報酬で少し飲もうとバーへと足を運んだアムロ。
四角いグラスを軽く揺らし赤みがかった色の液体の中で透明の氷が揺らぐのを見ながらトウモロコシを初めとした幾つもの材料によって作られた華やかな香りを楽しみゆっくりと喉へと流していく。
「―――失礼、お隣宜しいでしょうか?」
ツマミのピーナッツを口に入れて二口目のバーボンを飲もうとしていたアムロに誰かが声をかけて来た。
「ああ、構わないが席なら幾つもあると思うんだが?」
声をかけて来たのは薄い緑色の髪をした30代ぐらいだろうか茶色のコートを着た男と軍警にでも冤罪を吹っ掛けられて殴られたのか顔に殴られたような跡がある茶髪の真面目そうな青年が近づいてくる。
「ええ、ですがこちらの方が見やすくてねマスター頼みます」
男がバーのマスターにそう言うとマスターはテレビを操作する。
「クラバの試合か」
テレビにはクランバトルの映像が映される。ミノフスキー粒子で電波器具類が余り発達しない自分たちの世界と比べるとあらゆる意味で平和だなと思っていたアムロの耳に。
「ジークアッ!?・・・し、失礼」
テレビに映っていた機体はこの間赤いガンダムとやり合っていた謎のガンダムタイプだ。隣の青年もドローンで一部始終を見ていたから思い出せた。あの時、ガンダムタイプの側にいた青年だ。
「お宅も大変ですね」
「ハッハッハ何の事でしょう・・・所でお名前を聞いても宜しいでしょうか?私はシャリア・ブルと申します」
「自分はエグザベ・オリベです」
「…アムロ・レイだ」
「ありがとうございます。それでアムロさん先程の失言は何と一緒に飲み込んで貰えますかな?」
どうやら思った以上に・・・いや違う。シャリア・ブルを名乗るおそらくジオン軍人は冷や汗をかいているがその理由が画面の前に映るガンダムタイプのMSが盗難されたジオンの最新鋭機とかじゃ無くまた別の事で怯えている。この気配には覚えがあるが自分の世界の何処かの戦場で彼と相対したのか。
「そうだな、スコッチをくれ」
何であれ敵意は無さそうなのでご好意を甘んじて受け取ろう。
「そうですか、ではこちらの方にスコッチを私はピスコをください」
「あ、えっと、自分はカルバドスを」
「畏まりました」
注文を聞いてマスターが各々に酒を置いていく。
「おや、面白い組み合わせですね」
シャリアの言葉に釣られてテレビを見るガンダムタイプのグループポメラニアンズのM.A.Vは何と赤いガンダムだ。遠距離用にハンマーを携えている。
「成程、機体性能は圧倒的にポメラニアンズが上だが動きはどうだ?」
「確かに明らかに片方の動きは素人の動きですね」
エグザベの指摘どおりガンダムタイプもといジークアクスの動きは誰が見ても明らかに宇宙空間やMS操縦に慣れてなく尚且つクランバトルの前提である静かに相手を索敵するM.A.V戦術をまるで理解していない。
「確かちゅ…M.A.V戦術はシャア・アズナブルとそのM.A.Vが作り上げた戦術だと聞いていますが」
「ええ、M.A.V戦術は二機一組の戦術。連携の取れてないポメラニアンズは大きく不利となりますが・・・」
「それも、あの子が目覚めるか否かで大きく変わる」
「目覚める?」
どういう意味だとエグザベはアムロに問うそれに対してアムロはこう返す。
「俺もクラバに何度か参加したことがあるから分かる。ニュータイプのM.A.VとオールドタイプのM.A.Vじゃあ大きく勝手が違う」
「ええ、―――!?動く!」
ジークアックスは水色のザクが投げた閃光弾を受けてしまう。その上ショルダータックルを受けあの様子だと目をやられたのだろう絶体絶命の瞬間、ジークアクスの動きが変わる。
「随分と飛んでいますが普通ならこのままもう一人が挟み撃ちして終わりですがアムロさんは違うと?」
閃光弾で目をつぶされ視界戦闘がおぼつか無いジークアックスは何を思ったのかバーニアを噴き上げ飛ぶ。エグザベの指摘通りジークアックスに立ちふさがるピンク色のザクこのままなら間違いなく頭部を破壊されて終わりだろう。
「ああ、…あの子しっかりとNTの目を持っているようだな」
「ヒートホークをまさか見えていたって言うんですか!?」
ジークアクスは迎え撃とうとするピンク色のザクを失って飛んで行ったヒートホークの軌道に誘導し追突させそのままヒートホークを引き抜こうとしている。当然ながら相棒を助けるために水色のザクはジークアクスに襲い掛かるが赤いガンダムがハンマーを叩きつけて妨害する。
「決めたな」
アムロがそう言うとジークアクスはヒートホークを残りのザクの頭部に叩き込み勝者はポメラニアンズとなった。
「勝ってしまいましたね…これが本物のM.A.V」
「素晴らしい。実はサイド6に来たのは最近でしてこうしてクランバトルを観戦するのは初めてでしてここで出会ったのも何かの縁これからも一緒にお酒を飲みながらクランバトルの話でもしませんか?」
そう言いシャリアは新しい酒を頼んだようだ。
「…ああ、俺で良ければ」
そう言いアムロもまた新しい酒をマスターに注文した。
「…ではお互いの出会いとこれからの友情を期待して」
そう言いシャリアはバーボンと同じ内側を焦がしたオーク樽で作るライ麦を原材料とするライ・ウイスキーのグラスを手に。
「ああ、そうであることを願って…」
アムロは白ワインを軸に香草やスパイスを配合して作られるフレーバードワインの一つベルモットのグラスをシャリアのグラスに近づけ。
「「―――――――乾杯」」
チンと静かにガラスの重なる音がバーに響いた。
「…昨晩は飲みすぎたかな」
そう言い自宅の水道で顔を洗うアムロに仕事用の端末の一つが鳴る。相手はモスク・ハンだ。
「俺だ。何の用だ?」
そうアムロが出るとモスク・ハンは嬉しそうな声でアムロに言う。
『アムロ君。君に折り入って頼みがあるんだ。実は最近ゲルググを手に入れてね。本格的なデータ取りとして模擬戦闘用に調整したビームライフル前提で戦ってほしいんだ』
ゲルググ、ジオンの機体だがこの世界線ではシャアがガンダムを奪ったせいでその技術が大きく影響を受けて映像でしか見た事の無いがジムに近い見た目だったことにまだこの世界に慣れ切っていなかったアムロは唖然としたことを覚えている。
「それは良いがそれは直ぐに終わってしまわないか?」
ただでさえV作戦の戦闘データ不足で作られた性能の低い軽キャノン一機で13の機体を全滅させたアムロにマグネットコーティングされたゲルググなど誰が勝てるんだと内心アムロは呆れているが…
『そう甘い口を言えるのも今のうちだよアムロ君。何しろ今度の相手は100キルオーバーの
「…そうか」
次回恐らく作中2番目にアムロを苦戦させる相手と思われるVSシイコ戦君は生き残ることが出来るか?