お前は何処にもいやしなくて俺もここに居なかった。 作:黑米田んぼ
「…うっ、流石に飲み過ぎましたか」
サイド6の中央に鎮座するソドンでシャリア・ブルは思いのほか飲み過ぎた事による頭痛に苦しんでいた。
「飲み過ぎましたね中佐、こちら水と頭痛薬です」
見るからに昨日の飲み過ぎたのを理解していたエグザベ・オリベは上司に水と薬を渡した。
「すみませんね。思いのほか飲み過ぎました」
「…随分と飲んでいましたよね。自分としても参考になる話もありましたが流石にあれだけ飲むなんて普段の中佐らしくないですよ」
昨日の事をエグザベは思い出していた。アムロ・レイのクランバトルの話はとても面白いが、若干ホラ話にも聞こえたがエグザベの勘がそれを事実だと理解してしまっていた。
「…エグザベ少尉は彼をどう思いました?」
水を飲みすっきりしたのかシャリアはエグザベの前へと向き直る。
「…と言っても人のよさそうな人ですよ?若干それ出来るのか?って言いたくなるようなことをよく言っていましたが」
そう言うと中佐は何だかあーそうなんですかって表情を見せてくる。
「貴方は『アレ』をそう思うんですか」
「…中佐はどう思ったのですか?」
「…ええ、そうですね。エグザベ少尉、少しおかしなことを言うかもしれませんが」
そう言い中佐は一呼吸置いて自分に語る。
「私があの日アムロさんを一目見た瞬間。まるで自分が断頭台に乗せられているような感覚になりましたよ」
「…ギロチンですか。随分と古臭いですがそんなに怖かったでしょうか?普通にお酒を飲んでいましたが」
「全くです。…しかし、私は…なんて言うんでしょうね…私は彼に何処かで落とされた…そんな気がするのですよ」
「御冗談を、中佐を落とせる人間なんてそれこそ赤い彗星ぐらいですよ」
「…そうだと良いですがね(そう、だからこそ親しくなっておかないといけない。もし、彼が私が思っている人物であれば大佐を―――――)」
――――――私のMAVはニュータイプだと信じていた。
V作戦が失敗に終わり連邦の量産体制が赤い彗星によって大きく狂わされたせいで大きく劣勢になった私たちは想定以上に苛烈な戦場を練り歩いた。そんな中彼は私を支えそして、大きく活躍した。
ニュータイプとは全てを手に入れられる選ばれた人間で私は彼はそうなると信じていた。
――――――そんな彼は私が駆け付ける直前に赤いガンダムに撃墜された。
そして、私がルナツー防衛線で頑張っている最中赤いガンダムは赤い彗星はソロモンで消失した。
一年戦争を戦い抜いた私を彼を失った虚無を今の旦那は必死に埋めようとしてくれた。求められ、私も心の穴を埋めようと求め…そして、一人の子供を授かった。
可愛い可愛い私似の男の子。決してあの人との子じゃない。けれど坊やは可愛かった。それで十分だった。
すくすくと育ち、四つん這いから二本足で立ち。ゆっくりと私を求めて歩いて来る。たどたどしい声でママと呼ぶ声がいずれ凛々しい声になっていくのだろうか。そんな今が楽しかった。
――――――そんな私の母親の生活の前に偽物じゃないジオンに奪われた本物の赤いガンダムが現れた。
その噂を聞きつけて、恐らく最後の我が儘になるだろう旦那に坊やを預けて連邦の伝手を辿って私は連邦上がりの民間警備会社ドミトリーに違法MS賭け試合クランバトルへの参加を決めた。
「…ホワイトユニコーン?それが赤いガンダムと戦う前に戦ってほしい相手?」
クランバトルの前に錆落としも兼ねた模擬戦をモスク・ハン博士は私に提案してきた。
「そうだ。ビーム系の出力は半分ぐらい落とすがそれでも当たり所が悪ければ撃墜は免れないだろう。データを取るために君たちにはクランバトルルールではあるが本気でやり合って欲しい」
「…随分な自信ね。その人本当に強いの?」
自慢じゃないが私は100キルオーバーの撃墜王。並大抵の相手じゃ無ければ簡単に落としてしまえる自負はある。
「――――――お手並み拝見ね」
サイド6の外、軍警の範囲を超えた宇宙空間でシイコ・スガイが駆るジオンが開発したガンダムの量産モデル機体ゲルググを索敵もくそも無い全速力で飛ばす。彼女の戦い方は索敵を前提とする教科書道理の戦い方じゃない。無視の突撃による距離を詰めて戦うやり方だ。並大抵の相手ならそれで良いだろう。
「ッ!?」
既に背中のバックパックから抜き出したビームサーベルでホワイトユニコーンが狙ったのだろうビーム攻撃を弾いて避ける。
「やってくれるわね!」
避けることも出来たが相手は索敵の外からまるで見えているかのように頭部に目掛けてまともに動けば直撃して終わっていただろうビーム攻撃が先の一撃を除いて3発放たれた。
「…強い。素人目でさえその強さは本物だ。クランバトルに関わるものにとってホワイトユニコーンの名は知らぬ者はいない。もし、ホワイトユニコーンがあのガンダムに乗っていれば連邦は勝っていたと噂するほどの実力だ」
戦う前モスク・ハン博士はホワイトユニコーンの実力をそう評価した。
「やっと見えたわねホワイトユニコーン!」
シイコのゲルググが相手のゲルググを捕捉する。相手も同じように全開でブースターを吹かせて距離を詰めてくる。ビームライフルを構え今にも発射しようとするだろう。
「来なさい!」
撃って来たホワイトユニコーンの攻撃をギリギリまで引き付けて回避する。機動性能だけなら軽キャノンを超えているゲルググにモスク・ハンが開発している駆動系の摩擦を減らす技術マグネットコーティングが採用されていると聞いている。軽キャノンでは出来ない
だが、それと同時にホワイトユニコーンが駆るゲルググはシイコが切りかかる直前に同じようにAMBACテクニックでいつの間にかバックパックから取り出したビームサーベルでシイコのゲルググの攻撃に合わせてカウンターを仕掛けてきた!?
「クッ!?マグなんとかの技術テストパイロットを多く買っていたって聞いていたからテクは俺が上だって思っているのでしょうね」
当然ながらシイコだって負けない。ビームサーベルを駆使しホワイトユニコーンのゲルググを切り裂こうと振るうが全てホワイトユニコーンに落とされ頭部に打ち込もうと構えていたビームライフルを避けながらシイコはチャンスを待っていた。
「――――――――――――仕掛ける!!」
ゲルググの指先から細い通信用のワイヤーをホワイトユニコーンのゲルググに引っかけ、その遠心力であり得ないほどのスピードで動く。シイコ・スガイの必殺戦法通称スティグマ。どれだけレベルの高いエースパイロットであっても初見でこれを躱せても攻撃に移せることが出来る者はいない。
――――――――後ろから切りかかろうとしたシイコのゲルググの移動先を狙ってホワイトユニコーンのゲルググのビームライフルのビームが発射された。
「ッ!?」
シイコのNT能力がそれを察知し機体を捻って回避する。もしそのまま仕掛けたら腕部か脚部のどれかを損傷したかもしれない。
(―――――間違いない)
「…まさかだと思うけど」
「素人目から見ても彼は『特別』だ。何より彼もMS部隊の者たちに聞かれたらこう答えた。自分はニュータイプだと」
モスク・ハン博士が言っていたあの言葉をシイコは確信する。
「――――――――このパイロットは普通じゃない!!」
一年戦争で何処で何をしていたのだろうか。モスク・ハン博士の口ぶりからして一年戦争時代では連邦所属のようだが、そんなパイロットの噂見たことも聞いたことも無い!
「落ちなさい!!」
元より本気でやれと博士が言ったのだ。お望み通り全力で戦ってやる。その後整備で嘆き喚こうと知ったことではない!!スティグマ戦法による高速移動でホワイトユニコーンのゲルググを翻弄しようとするが。
「っぅっ!?」
翻弄した先をホワイトユニコーンは先読みしてビームライフルを放ってくる。
「ならば!!」
すぐさま回避し、置きビームライフルとスティグマ戦術で挟み撃ちしようと仕掛ける。
「くっ、流石にこの程度…もうスティグマは見切られたっていうの!?」
何度も何度もスティグマによる高速速度で動いているのにホワイトユニコーンはどんなトリックを使っているのか攻め手だったはずの私がいつの間にか逃げる側に戻される。
「ホワイトユニコーン!!お前が選ばれた者じゃないと証明してやる!!!!」
他ならぬ赤い彗星がぶちぎれそうなセリフと共にもはや赤いガンダムも糞も無い。自分が一年戦争を終わらせる理由としてホワイトユニコーンを撃墜する。そう誓ったシイコは最後の猛攻を仕掛けた。
まずはビームライフルで回避誘導、向こうだってそこは分かっているだろう。それがどうした?それぐらいやれない相手など元から求めていない!!
近づきビームサーベルで切りかかる。向こうもまた接近してきた私を切ろうとビームサーベルを逆袈裟斬りで振るう。
「行くわよホワイトユニコーン!!」
避けて、スティグマで後ろへ回る。もちろんスティグマを見切ってゲルググの手首をうまく扱って私に当てようと近づけてくる。それを装甲一枚で躱して接近するタイミングで置いたビームライフルと後ろに回って置いたビームライフルがホワイトユニコーンのゲルググを狙い撃つ。前にも後ろにも躱すことが出来ないビームの牢獄にホワイトユニコーンを閉じ込めた。
ホワイトユニコーンの駆るゲルググは右腕と左腕に持っていた武器を離して体を捻ってビームの隙間を縫って躱すがもう。動くことは出来ないだろう。
「さぁ、もう逃げられないわよ!三つ目のスティグマ!武器を取れないこの状況で何も出来ないわ!!」
ゲルググの右腕が悲鳴を上げて壊れるがそんなこと知ったことじゃない。ホワイトユニコーンのゲルググの背後を取った。ヤツはもう動けない。もしもう一つのビームライフルを抜こうにもその前に私がホワイトユニコーンのゲルググを撃墜させる!!
「私のために死んで、ニュータイプ!!!」
ホワイトユニコーンのゲルググが右腕を引っ張るがもう何も出来ないだろう。
「―――――――勝った!!」
そう思った私のメインカメラをプラズマが撃ち抜いた。
「しまった!?」
あの動きは攻撃を躱すための攻撃じゃない。私と同じようにワイヤーを使った置きビームライフルだ。私としたことがそんなことに気づかないなんて!?
「まだだ!まだ終わって…」
勘を頼りにホワイトユニコーンを探ってでも戦ってやる!
「うわっ、っっっっ~~!!?」
そういう前にホワイトユニコーンは武器を取り戻してシイコのゲルググの四肢を切り落としてしまった。
「クソッ!まだ私は!!」
まだ戦おうとするシイコだが四方から掴む音が聞こえた。恐らく勝利が付いたからシイコを回収しようと軽キャノンがやって来たのだろう。
「ふざけるな!私はまだ負けていない!!」
殺すことも出来たはずだ!なのに頭部は兎も角四肢を切り落としたのは明らかに手を抜いたはずだ。ふざけるな…ふざけるなァ!
「・・・・・・・・・・」
サイド6に帰還したシイコの表情は随分と不機嫌だ。
「良い戦いだったよ。おかげでデータも沢山手に入った。次も頼むよ魔女」
不機嫌なシイコに声をかけて来たモスク・ハンにシイコは質問を投げる。
「…いったい何者なのよあのパイロット。連邦にもジオンにもあんなパイロットは知らないわ」
「…ホワイトユニコーン、本名アムロ・レイ。このサイド6で市民権を始めとする様々な好条件でクランバトルを出禁にされた男だ」
「…アムロ・レイ…レイ?何処かで聞いたことがあるわね」
「軽キャノン開発のテム・レイかね?本人曰く親戚かもしれないと言っているだけだ」
「…そう」
そうやって談笑している二人に噂の人物アムロ・レイがやってきた。
「お疲れさまだ。流石に強いな、流石は100キルオーバーの撃墜王だ。ワイヤーであんな戦法を使ってくるとは思わなかったよ」
「…それはどうも」
「これで赤いガンダムも勝てるのではないかね?サイコミュと呼ばれるニュータイプ兵器が相手でも何とかなるのではないか?」
「サイコミュ兵器のビットはクランバトル前に潰れたと思っていたから、後は反応の差だな」
「ほう、詳しいじゃないか」
「・・・・・ホワイトユニコーンさん」
「うん?なんだ?」
戦闘で荒れた髪型の中からちらほら見える白髪を髪の中に隠してアムロにシイコは構える。
「強かったわ。一年戦争でもあそこまで強いパイロットは見た事が無かったわ」
「…それは嬉しいな」
「次のくらんばとる?の後でよければだけど…もう一度やり合わない?」
そんなことを言うシイコに対して…
「…次があれば」
…尤も。『次』など無かったのだが…
「…馬鹿な人だ」
事務所でクランバトルを見ていたアムロは少し寂しそうな声で呟いた。一人の声はサイド6の風に流れて行った。
「うん?メールか?」
アムロは私用の携帯にメールが来たのを受け取った。だが、その内容はあまりにも意味が分からなかった。
「…カネバンに来い?あそこか?構わないが…何を考えているあのMSは」
そのメールの主がジークアクスと書かれていたことが一番の不思議だった。
さて、原作はもう4話後8話どう作って行こうかなぁ