オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
会議から今後の方針を決めて休憩に入るミストバーン
だが休んでる暇すらなかった。
「にしても六腕が集まるまで暇ですから先にリットン伯ですかね」
(それにしてもコンプレックスの塊ですね、何だか転生前の自分を見てるようで腹が立つし助けたいんだよな~あの後から入ってきた奴に抜かれる感覚は味わいたくない、何とかして助けたいかも…………それにしても何か忘れているような…………あっ!!カルネ村でガゼフとニグンに接触してない!!)
そうミストバーンが思っていると部屋の扉がノックされる。
「ミストバーン様宜しいでしょうか」
(この声は一般メイドか)
「いいぞー、要件は何だ」
部屋の扉が静かに開くと、控えめな動作で一般メイドの一人が顔を覗かせた。彼女は深々と頭を下げると、やや緊張気味な声で告げる。
「恐れ入ります、至高の御方の一人――モモンガ様より、お呼びがございます」
「……え、モモンガさんから?」
一瞬思考が止まり、ミストバーンは眉をひそめた。
「要件を聞いても?」
「はい、現在ボウロロープ侯の所に六腕が全員揃っているので出動して欲しいそうです」
ミストバーンは一瞬、ため息を飲み込むような表情を浮かべた。
(おいおい……。休憩どころか、予定より早い展開じゃないですか。こっちだって段取りってもんがあるんですけど?)
「……了解、すぐ向かう。後で弐式炎雷とフラットフットにも連絡しておいて」
「かしこまりました、ミストバーン様」
メイドが頭を下げて退出するのを見届けると、ミストバーンは腰を上げて肩を回す。
「くっそー……やっぱりナザリックに“休憩”という概念は存在しないんですね、悪の組織だけに労働環境もブラックってか、笑えねーな」
軽くぼやきながらも、その目は次第に鋭さを増していく。
◇暫くして
「お、来たかミストバーン」
「やあ、フラットフットさん弐式さんも一緒ですね」
通路で歩きながら一緒になる三人。
「なあ、ボウロロープ侯の所にもう六腕が揃ってるって本当なのか?」
弐式炎雷がミストバーンに尋ねる。
「そう見たいですよ、ほんと空気読んで欲しいです」
フラットフットが肩をすくめる。
「ったく、こちとら昼寝の最中だったってのに……さすがナザリック、部下のスケジュールなんて概念は存在しねぇ」
「同感ですね。……まぁ、だからこそ面白いってのもあるんですが」
ミストバーンが口元をゆるめる。仮面の奥の目は冗談交じりながらも、既に“狩る側”の獣のように鋭くなっていた。
扉を開けると既にモモンガが椅子に腰かけていた
「よし皆揃ったな」
入ってきた三人をモモンガが見渡す。
「――では、作戦の最終確認を行うとしよう」
モモンガは椅子に深く腰をかけたまま、静かに手を組んだ。その声には威圧感はないが、自然と空間を支配するような絶対的な存在感があった。
ミストバーン、フラットフット、弐式炎雷の三人は無言で姿勢を正す。
「六腕が全員、ボウロロープ侯の邸に集結したという情報は正確だ。そして内部からの告発もあった。……今が最も“崩す”には好機だ」
「“内部告発”……やはり寝返り組が?」
ミストバーンが目を細めて尋ねる。
「詳細は伏せる。だが情報は確かだ。少なくとも、六腕の中にナザリックの意向を理解する者が一人以上いると見ていい」
モモンガの言葉に、フラットフットがにやりと笑った。
「つまり、潰す中にも“拾える”奴がいるってことですね?」
「その通りだ。今回は見せしめが目的ではない。人材スカウトと影響力の拡張、それが主だ。……とはいえ、裏切りの代償を見せることもまた重要だ」
「了解。手加減はするが――甘やかすつもりもないっすよ」
弐式炎雷が腕を回し、関節が軋む音を鳴らす。
「そのさじ加減が難しいんだよなあ……。ま、得意分野だからいいけど」
ミストバーンが仮面越しに軽く笑い、目線を横に流す。
「戦闘は避けられないかもしれませんが、混乱させて、自滅を誘導する方向で動きます。分断、疑念の種まき、恐怖の演出――お得意の舞台演出ですね」
「いいだろう。三人に一任する」
モモンガがゆっくりと立ち上がり、部屋の中央に進み出る。袖口から取り出した小さな黒い魔法具を手の中に浮かべると、そこから淡い魔力の光が広がった。
「転移の座標を設定する。……気を抜くな。ボウロロープ侯が六腕を操っているなら、ただの裏社会の抗争では終わらん」
「……了解」
三人の返答と同時に、足元に転移魔法陣が展開される。
「じゃ、いっちょ――昼休みの延長戦、行ってきますか」
ミストバーンが小さく呟いたその瞬間、視界が光に包まれた。
◇ボウロロープ侯邸 近隣の路地裏
転移の光が収まると同時に、冷たい空気と共に街のざわめきが耳に入ってきた。三人は人気のない路地に出現し、すぐに周囲の様子を確認する。
「半分ノリできちゃいましたけど、具体的にどうするかまだ何も話し合っていませんでしたね」
ミストバーンが軽く頭を掻きながら、侯邸の方角に視線を向けた。
「だよな~どうすっかな、前みたいな割り振りでいいか」
「ああそれなんですけどボウロロープ侯所は皆で行きません、前の流れで行くと丁度三人で良かったですが今回は六腕の捕獲が入ってますからそれを考えると人手が足りません」
「これだったらバリアブル・タリスマンも呼んでくるべきだったか?」
「いやあいつはガチ勢じゃなくてエンジョイ勢だから何処でボロが出るか分からないしな、本人も乗り気じゃないだろう」
「――なら、分割して戦術的に動くしかないですね」
ミストバーンが腕を組んで唸るように言った。
「前と同じように動くなら弐式さんが現物証拠集め、フラットフットさんが記録や帳簿集めで私が腐敗貴族担当でしたがこの場合腐敗貴族を後回しにして私が六腕の捕獲も担当する感じでいきましょうか」
「頼めるか」
「すまん助かるぜ」
「じゃあ、俺は現物探しに集中するわ。盗品とかヤバい兵装があったらそのまま押収する」
弐式炎雷が拳を握ってニヤリと笑った。
「私は書類の確保と内部ネットワークの記録。……あの手の貴族って、必ず裏金の出入りを把握するための“帳簿役”を飼ってるんで、そいつを最優先で確保します」
フラットフットが冷静に告げる。
「私は六腕の捕獲担当。優先は生け捕り。反抗が激しいなら……処分で」
ミストバーンの声に、わずかに殺気が滲む。
「おお怖ぇ……でも頼りにしてるぜ」
「下手な説得より抑止力ってやつですね」
三人は頷き合い、それぞれの装備を確認すると、静かに侯邸方面へ歩を進めた。
◇数分後・ボウロロープ侯邸 周辺監視地点(弐式炎雷視点)
(見張り、あんまし真面目にやってねえな……案外中もスカスカか?)
弐式は屋根の上を音もなく移動しながら、侯邸裏手の倉庫に視線を向ける。
扉には二人の警備兵がいたが、どちらもタバコを吸いながら談笑していた。
(あそこ、見た目以上に物資貯めこんでやがる……行ってみっか)
小さく跳躍した弐式の姿は、夜の闇に溶け込むように消えていった。
◇ボウロロープ侯邸 地下管理室付近(フラットフット視点)
「……やれやれ、どこの腐敗貴族もやることは同じってことか」
薄暗い廊下を抜けた先、鉄製の重い扉を前にして、フラットフットは小声でつぶやいた。
扉の向こうからは、微かにカリカリと何かを記す音と、時折紙をめくる音が聞こえる。
(帳簿役、在室確定。しかも集中してるな)
フラットフットは腰のポーチから小型の煙管状魔道具を取り出し、そっと床に転がす。
しばらくして扉の下部から淡い緑の煙が流れ込む。
「――っ! な、なんだこれ……くっ、けほっ!」
中から咳き込む声が聞こえた瞬間、フラットフットは静かに扉を開ける。
「はい失礼しまーす、ちょっと手伝ってもらいまーす」
抵抗する間もなく帳簿役を拘束し、彼の背後に積み上がっていた帳簿類や水晶記録装置を回収する。
「うーん、しっかりした管理体制。でも内容は……うわ、これは完全にアウトだわ」
魔道具を通じて通信を開く。
『こちらフラットフット、金の流れと六腕の雇用記録、奴隷関連の明細も確認。かなり黒いです』
◇侯邸 南棟(ミストバーン視点)
ミストバーンは柱の影に身を潜めながら、複数の気配を静かに数えていた。
(……六腕、少なくとも四人はこのフロアに固まってる。寝返りの可能性があるのは、たしか“幻魔のサキュロント”)
隠密スキルを使い、敵に気づかれぬまま回廊を移動していく。途中、見張りの傭兵が何かに気づいて振り返る。
「っ……え――?」
喉元を一瞬で押さえられ、気絶した傭兵はその場に静かに横たえられる。ミストバーンはため息をついた。
(正面突破は避けたいけど、これは……状況次第だな)
その時、通信魔法具が微かに光った。フラットフットからだ。
『書類、回収完了。証人も確保。六腕の位置は?』
『こちらも確認。四名以上が南棟に集結。……サキュロントに接触してみる』
◇侯邸 中央倉庫(弐式炎雷視点)
「よしっと……っと、これは……ヤベェもん見つけちまったな」
弐式炎雷は荷物の山の奥から、強化型魔導兵装――それも明らかに軍用禁制級の武装を引きずり出す。
「ボウロロープ……どこからこんなモン仕入れた。やっぱり――八本指経由か?」
腰の通信具を操作する。
『こちら弐式、兵装と禁制薬物、大量に確認。写真データ送る。』
『了解、こっちもひと段落頃だ――動けるなら回収しつつ合流準備を』
「へいへい、任せとけ」
◇侯邸 南棟(ミストバーン視点)
「こんばんわ六腕の皆さん、私ミストバーンと申します、以後お見知りおきを」
その言葉に、場の空気がピンと張り詰めた。突如として現れた侵入者に、六腕の面々が一斉に立ち上がる。
「誰だ貴様……!? 結界は破られていないはず……!」
サキュロントが狼狽の色を浮かべ、声を上げる。
「馬鹿を言え。あの術は私が自ら……っ!」
デイバーノックが言い終える前にペシュリアンが、動くよりも先に《ウルミ》を抜いた。黒光りする鞭のような剣が、低くうなりを上げる。
「こいつ……只者じゃねえな」
マルムヴィストが隣の柱から現れ、音もなくミストバーンの背後を取る。だがその剣先が、相手の首に届く寸前――
「止めておきましょう。それ以上近づくなら、こちらも“本気”で対応します」
(やっぱりこの程度じゃ闘魔傀儡掌を使うまでもありませんね、何時もの影縛りで十分でしょう)
ミストバーンの声が低く響き、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。
次の瞬間、何かが*“弾けた”*。
ミストバーンの背後に、漆黒の《影》が蠢いた。
その圧力に、マルムヴィストの手がピクリと震える。
「……魔力じゃねぇ……威圧? いや違う、これは――“殺意”の形だとでも言うのかよ」
「お遊びはここまで」
ミストバーンは足元に広がる影を一歩踏み、六腕の中心部に近づいた。誰も、咄嗟に動けなかった。
「貴方たち六腕に通達します。反撃はお勧めしません、やっても良いですが後悔することになります」
不死王デイバーノックが、低く呻くように言う。
「……我々を処分しに来たというわけか?」
「できれば、その必要は無いと願っています。戦力としても、情報源としても、あなた方には価値がある。……幻魔のサキュロント」
その名を呼ばれた瞬間、サキュロントが小さく震えた。
「貴方は既に、内部の腐敗を疑っていた。いや言い方を変えましょう腐敗貴族に使いつぶされるのをよしとしなかったという所でしょうか」
「……っ、な、何を……」
「俺は“記憶”を見ることができる」
その言葉に、場の空気がまた変わった。
――六腕の中で最強とされる、ゼロが、静かに腰を上げる。
「記憶を視る、か。……なるほど、だからお前は“闘う必要があるか否か”を事前に見極められるわけだ」
「察しが早くて助かります。ゼロ殿、貴方ほどの戦士が本来持つべきは“誇り”のはずだ。腐った貴族の番犬ではなく、本当に守るべきものを守るべきだと、そうは思いませんか?」
ゼロはわずかに目を伏せ、次いでゆっくりと立ち上がる。
「なら実力を見せてくれ、俺と一対一での勝負だ」
「と、その前に」
そう言うとミストバーンは他の六腕全員を影で縛ってしまう。
「――お前っ」
「念のためです、これで余計なちょっかいは入りません」
「いいだろう、本気でこい!!」
ゼロがそう言った瞬間に勝負が決まる、ミストバーンが貫手でゼロの心臓を貫いたのだ。一瞬何が起こったか理解できない六腕、そして地面に仰向けに倒れるゼロ。
「まあ実力差はこんなもんです、あ、死んでたら聞こえませんね今蘇生します」
そう言うと課金アイテムで蘇生させられるゼロ。
「……なに、この俺が心臓を一突きだと…………」
蘇生されたゼロが咳き込みながら上体を起こす。胸元にはぽっかり穴が開き、自己修復魔法でじわじわと塞がりつつあった。
「本気で来いって言ったのはそっちですからね、加減してアバラを折るくらいにしようかとも思いましたが……それじゃ納得しないだろうと思って殺しました」
「なあ、あんた今のでも本気じゃないんだろ」
「あ、分かります?本気を出したら貴方はバラバラになるので蘇生がめんどくさいんですよ」
ミストバーンは平然としながらも、他の六腕たちを見回した。彼らは影に縛られ、微動だにできないものの、その表情にはもはや戦意というより、混乱と困惑が入り混じっていた。
「さて、他の皆さんも。お話は、できますか?」
「……くっ……」
ペシュリアンが歯噛みする。だが、もう戦意は見られなかった。
「こっちは貴族に雇われてたってだけで、別に国家転覆とかそんな大それたことは考えてなかった……。金と、ちょっとした“自由”が欲しかっただけだ……」
「ふむ、それは大多数の傭兵に共通する願いですね。しかしその結果が奴隷取引と禁制兵器の護衛では、さすがに見逃すわけにはいきません」
エドストレームが視線をそらすように言った。
「……あたしは、前から違和感があった。何人も仲間が、変な任務で消えた。侯爵は、言葉巧みに“必要な犠牲”と……。あんたが言った通りだよ。腐ってたのは、あっちだ」
「なら、我々に協力する意思は?」
ミストバーンの問いに、エドストレームが深く息を吐いた。
「一つ条件がある。……今までの“罪”を帳消しにしろとは言わない。ただ、“やり直す場”を頂戴。それだけでいいわ」
「了承しましょう。……ただし、裏切りは死と同意儀と考えてください」
影がぞわりと揺れ、言外の“警告”を六腕に伝える。全員が息を呑み、次いで小さく頷いた。
『こちらミストバーン、六腕の確保完了。半数以上が協力に前向きです』
『了解、じゃあこっちも証拠持って脱出ルートへ。弐式さんは?』
『問題なし。倉庫のヤバいブツも回収完了』
通信を終え、ミストバーンは小さく肩をすくめた。
「やれやれ。想定より、まともに話せる相手で助かりました」
ゼロが立ち上がりながら肩を回す。
「いや、お前が話し合いの前にぶち抜く奴だとは思わなかったよ……説得の“せ”の字もねえ」
「まあ、“誠意”の見せ方にもいろいろあるということで」
「物理かよ……」
一行は拘束された六腕たちを連れて、静かに侯邸を離れた。
やがて、静寂が訪れる。
何か書いてたら少し綺麗になった六腕。