オーバーロードによく似た世界で(本編完結)   作:ペンギン勇者

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 あれから六腕を確保した三人、残るのはボウロロープ候の確保という消化試合だった




第12話愚かな貴族とナザリックの休日

 

「で、ここからはほぼ消化試合ですが皆さん来ます?」

「後はボウロロープ候に証拠を突き出して尋問してからグレータードッペルゲンガーに交換か」

 

 ミストバーンの言葉にフラットフットがため息交じりに話す。

 

「ボウロロープ侯を現行犯で押さえて、証拠付きでお縄にしてやるだけだろ? マジで消化試合だな」

「一応、グレータードッペルゲンガーの準備は整ってる。尋問後すぐにすり替え可能だ。こっちはいつでも行ける」

 

 ミストバーンが端末を弄りながら補足する。

 

「念のため、突入班はフル装備で行きましょう。貴族相手とはいえ、往生際の悪い連中が屋敷に残ってる可能性もある」

 

 ミストバーンの冷静な指示に、二人も頷いた。

 

「了解。お前が突入先頭な」

「もちろん。ボウロロープ侯には、直接“ご挨拶”させてもらいますよ」

 

 フラットフットが肩を回しながら立ち上がる。

 

「じゃあ準備完了次第、侯爵邸に向かう。証拠も映像も揃ってるし、詰みの一手だ」

 

 ミストバーンは短く告げると、夜闇の中へと歩み出した。

 

 

◇ボウロロープ侯邸・本館二階 私室前

 

 

 重厚な扉の前で、ミストバーンたちは足を止めた。屋敷内は既に制圧済み。抵抗は最小限で、わずかな傭兵が取り逃がす間もなく制圧された。

 

「中にいるのは、確定?」

「ええ。監視水晶の映像では、さっきから一歩も動いていません。……完全に油断してますね」

 

 フラットフットが静かに答えると、ミストバーンは頷き、扉に手をかけた。

 

「じゃあ、行きますよ」

 

 ドン、と低い音を立てて扉が開く。

 

「誰だッ! 無断でこの部屋に入るとは……!」

 

 ボウロロープ侯爵が、紫のガウン姿で立ち上がる。机の上にはワインとチーズ、そして分厚い帳簿。壁際には数名の側仕えがいたが、いずれも怯えて声も出せない。

 

「こんばんは。ボウロロープ侯爵殿。今宵はお話を伺いに参りました」

 

 ミストバーンの言葉に、侯爵の顔が青ざめていく。

 

「……お前たちは、何者だ。護衛はどうした、屋敷の結界は……!」

「すべて無力化済み。あなたが集めていた六腕も、今や無力です。全員、生きたまま拘束済み。逃げ道はありません」

 

 フラットフットが帳簿の束をテーブルに叩きつける。その中には、奴隷取引の記録、違法薬物の購入履歴、六腕への報酬支払いなどが克明に残されていた。

 

「……証拠は、全てここに。あとは本人の口から、どこまで吐いてくれるかですね」

「バ、バカな……貴様ら、何者だ……私には貴族としての特権が……!」

「その“特権”は、今しがた剥奪されました」

 

 ミストバーンが淡々と告げ、影が床から這い上がる。侯爵の足元を縛り、椅子ごと拘束する。

 

「……それでは、尋問を始めましょうか。質問に答えるたびに、少しだけ影の締めつけを緩めて差し上げます。無言なら……その逆、ということで」

「ま、まて! 話す、話すからッ!」

 

 侯爵の悲鳴混じりの叫びに、ミストバーンがわずかに口角を上げる。

 

「ご協力に感謝します」

 

 背後でフラットフットと弐式炎雷が端末を操作し、尋問内容をそのまま録音・録画する。

 

「じゃ、第一問。奴隷を仕入れていた供給元、全部吐け」

「……八本指の、奴隷売買部門だ……!」

 

 ボウロロープ侯爵は、歯をガチガチと鳴らしながら叫んだ。脂汗をかき、顔色はすでに死人のように青い。

 

「八本指か……やっぱりな」

 

 フラットフットが低くうなずき、隣で弐式炎雷が鼻で笑う。

 

「王国内でも最悪の犯罪組織。中でも奴隷売買部門は、行方不明者の半分以上と関わってるって話だったな」

「ええ。王国の捜査機関ではもう追いきれないレベルの連中です。だから我々が出張っている」

 

 ミストバーンが冷静に補足する。その口調に怒気はないが、空気が一段と冷える。

 

「ボウロロープ侯。あなたは八本指とどんな取引をしていた? 供給と受け入れだけか?」

「そ、それだけだ……私はただ、依頼された通りに屋敷を貸して……記録には残さないようにと……!」

「……記録が残ってないわりに、帳簿にはしっかり“保護者不明人員の引き渡し料”なんて項目が複数見つかってるんですが?」

 

 フラットフットが帳簿の一ページを広げて、侯爵の目の前に突き出す。

 

「うぐ……!」

「お前さあ……“ただの屋敷貸し”にしちゃ、金回りが良すぎるんだよ。八本指から毎月金が流れてきてるってのは、既に口座追って把握済みだ」

「わ、私は八本指の奴隷部門の実働部隊とは関係ない! 裏で取り仕切ってる責任者がいるんだ、私じゃない、私はただの仲介役で――!」

「その“責任者”の名前を言え」

 

 ミストバーンの声が一段階低くなる。

 

「言えば……許されるのか……?」

「言わなくても、こちらで突き止める。だが、“言わない”ことで得られる恩赦はない。選べ」

「……ッ! わ、分かった……“アンペティフ・コッコドール”……奴隷部門の幹部だ……私が知るのはそれぐらいだ……!」

「アンペティフ……記録にはあったな。オネエ言葉を話す、坊主頭の厚化粧の男。恐らく同性愛者って奴だ」

 

 フラットフットが端末を操作し、映像と照合を始める。

 

「そのアンペティフが次に奴隷を持ち込む予定は?」

「三日後……夜明け前……奴隷は一度、裏港にある倉庫に集められる。屋敷で“質”を確認した後、すぐに他国へと“出荷”される手筈になっている……!」

「……上出来です。あとはその証言を裏付けるだけですね」

 

 ミストバーンが淡々と立ち上がる。

 

「ボウロロープ侯。あなたの役目は終わりです。おとなしく“置き換え”に応じてもらいましょう」

「ま、まってくれッ! 私は八本指に逆らえなかっただけで――」

「関係ありません。八本指は潰します。あなたも、潰す対象の一部です」

 

 そう言うとミストバーンの眼光が怪しく光り一瞬で石化するボウロロープ侯、それを影が床を這い、侯爵を完全に飲み込んでいく。残ったのは、グレータードッペルゲンガーによる精密な“偽物”だけだった。

 

 

◇暫くして

 

 

「さあ、後はリットン伯のみですね」

「あーミストバーン追加でバルブロ王子もだってよ」

 

 弐式炎雷の言葉を聞き辟易するミストバーン。

 

「もういい加減終わって欲しい」

「しょうがないだろ隠密で動けるのが俺らぐらいしかいないんだから」

「安西〇生休みが欲しいです」

「ぶっちゃけ俺も、帰って酒飲みてーよ」

「連続だったからな、俺も夜勤明けみたいに体がだるい」

 

 そう言っていると山から朝日が昇ってくる。

 

「とりあえず帰りましょう、今日はもうくたくたです、何もやる気が起きない」

「賛成ー、俺も―眠いというか疲れた」

「言っとくけど帰るまでが仕事だからな」

 

 そう言いつつ転移門で一人先に帰るフラットフット。

 

「あ、ずるい、じゃーなミストバーン俺も帰って寝るわ」

「寝る時にお酒は駄目ですよ~」

「あれが無いと眠れねーだわ」

 

 そう言いつつ転移する弐式炎雷。

 

「一人になっちゃいましたね」

(個人的にはリットン伯はどうにかしたいんだよな~あいつも転生前の俺と似た境遇だろうし、いかん疲れで頭が回らん)

 

 そう思うと最後の一人になったミストバーンも転移で帰るのだった。

 

 

◇ナザリック地下大墳墓 第九階層・転移広間前

 

 

 ピシャン、と空間が裂けるような音と共に、転移ゲートが開く。

 

「うぉおおお……もう動きたくねぇ……背中が死ぬ……」

 

 弐式炎雷が、まるで戦死した兵士のように崩れ落ちた。

 

「筋肉痛どころか魂にまで痛みが……。私、明日死ぬかもしれません……」

 

 フラットフットがロボットのようにぎこちなく立ち尽くす。

 

 最後に出てきたミストバーンは、仮面を外しながら溜息をついた。

 

「…………異業種になったからってなんで24時間働けると思ってたんだろうな」

「いや、お前異業種関係ないだろ。中身、チーターだろ」

「肉体は疲れてなくても精神的疲れは別なんです…………あ、肉体の方も疲れてるかも」

「異世界なめてたよね。ブラック企業よりブラックだわ、この大陸」

 

 三人はもはや威厳も作戦も投げ捨て、ゾンビのような足取りでナザリック内を歩く。

 

 

◇ナザリック地下大墳墓・大食堂

 

 

 静寂を破ったのは、カツーンカツーンという高らかな足音。

 

「……お帰りなさいませ、ミストバーン様、フラットフット様、弐式炎雷様。ご無事でなによりです」

 

 振り返ると、そこには整然と立つ執事セバスの姿が。

 

「はい……無事ですが……精神が削られました……。ついでにHPもMPも床ペロ寸前です……」

「お食事をご用意しております。栄養価の高いスープ、炭水化物、魔力回復ポーション風のジュースなど、全て完備されております」

「うわぁ……ナザリックの飯って、神……」

「いや、神を超えて魔王だわ……」

 

 三人が席についたとたん、椅子に体を預けるように崩れ落ちる。

 

「俺ら、次の任務の前に“有給”とかいう概念を導入しないか?」

「いいですね、それ。ナザリック・リフレッシュ休暇。もしくは“地獄の休戦日”」

「サトルに言えば……通るかな?」

「おい、今はモモンガだろ、本名を知っててもそれを快く思ってない場合もあるからここはゲーム内の時と同じようにするのがマナーだ」

 

 フラットフットが弐式炎雷を注意する。

 

「あ~でもご家族の前だと少しその名前は恥ずかしい見たいですよ」

「ははは」「やっぱりな」

 

 ミストバーンが続ける。

 

「やっぱりご家族の前であのロールは恥ずかしいらしくて素に戻っちゃいますね、後声のトーンも」

「そういやモモンガさんは休めてるんだろうか、だとしたら休み取りにくいよな~」

「ですよね~」「そうだな」

 

 弐式炎雷の呟きに重苦しく返す二人、三人の目がどこか遠くを見つめた。

 

 

◇ナザリック地下大墳墓 第九階層・娯楽フロア

 

 

 ナザリックにおいて“休日”とは、命令が出ていない日を強引に“オフ”と定義することを意味する。

 

「……やったな、今日は誰からもお呼びがかかってない!」

「正式な業務命令がないってだけで、こんなに世界が輝いて見えるなんて……」

「生きてて良かった……本当に、心の底から」

 

 三人はほぼ同時に、ふかふかのソファにダイブする。ここはナザリックでも数少ない“リラックス空間”として整備された娯楽区画の一角。謎の高級絨毯、異世界シアター、バブルバス、VR風ゲーム装置などが所狭しと並んでいる。

 

「ミストバーン様、今日はどうされます?」

「俺は……エクストラディメンション露天風呂だな」

「おおー、出た! ナザリックの“エクストラディメンション露天風呂”、お前とルシ★ファーが悪乗りで作った奴」

「え、ちょっと待ってください、あれって天空と地獄の両方が見えるっていう、あの変な温泉ですか?」

「そう。露天なのに風が吹かない、不思議空間だ。入ってるだけでMPが回復する上に、お肌もつるつるになる。ついでに雑魚の魔物が湧くけど、無視でいい」

「無視でいいのか……と言うか効果も滅茶苦茶だし本当に悪乗りで作ったんだな」

 

 

◇ナザリック特製・エクストラディメンション露天風呂

 

 

「やっぱりリラックス効果を最大限受けるとしたら人化だよな~」

 

 そう言いつつミストバーンは人化の指輪を嵌める、残りの二人も同様だ。

 

 バシャァ……という音と共に、蒸気に包まれた異空間の湯船。背後には星空、眼下には燃える溶岩の地獄風景、音楽はなぜか琴とホルンの合奏。

 

「ふぅぅぅぅぅ~~~~~……!!!」

 

 三人が同時に湯船に沈み、天を仰いだ。

 

「これは……癒される……」

「魂が……戻ってくる……」

「もう任務とかどうでもいい……ずっとここにいたい……」

「それな……」

 

 天井に浮かぶ“ナザリック・癒しモード”の魔法光球が、柔らかく三人を照らす。近くにはセバスが用意したフルーツドリンクとおしぼり。完璧すぎる環境。

 

「ところで、明日は……」

 

 ミストバーンの言葉に、弐式炎雷がバシャァと湯を跳ねて止める。

 

「言うな! それを口にしたら、もう終わるから!」

「明日のことは……明日の俺たちに任せよう」

「そう、今日は現実から逃げても許される日……」

 

 

◇数時間後・ナザリック地下大墳墓 娯楽室A・ボードゲーム卓

 

 

「オセロ……弱すぎない? 弐式炎雷」

「戦術って、将棋とかチェスには応用できないんだな……」

「これはこれで頭使うんですよ! っていうかミストバーンさん強すぎるんすよ!」

「リアルでは学生時代の俺は部の大会で負け知らずだったからな……(嘘)」

 

 ミストバーンはスキルでチートしてるだけです。

 

「いやー、俺、こっちのミストバーンの方が怖ぇわ……!」

「知性型チートキャラ、日常でも無双してるのか……」

「いや俺の場合おふざけ系チートキャラですがね」

「それ聞くと迷惑系ユーチューバーみたいだな」

「…………それを言われると傷つきますね」

 

 

◇その夜・第九階層 宿舎区画・ミストバーンの私室前

 

 

 一日を満喫し、ゆっくりと歩く三人。

 

「いやぁ……こんな休日、いつぶりだろうな……」

「モモンガさんも休んでるといいですね……」

「……いや、俺たちがこんなに楽しんでるって知ったら、怒られそうな気もする」

「見なかったことにしましょう。っていうか見られてたら、明日からの任務が倍になる」

「やめろおおおおお……!」

 

 三人の叫びがナザリックに響く頃——

 

 第十階層・玉座の間では、モモンガが書類の山に囲まれながら、盛大にため息をついていたという。

 

 




 流石の異形種になっても24時間労働は辛い

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