オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
ボウロロープ侯を懲らしめ何とか休みを得られた三人。
だがしかし、その分モモンガにしわ寄せがいき体調を崩すのだった。
「という訳で今回は私がギルド長代理だ、三人とも楽にしてくれ」
そう言うのは鈴木ソウスケ、モモンガの兄である。
その言葉と同時に、場の空気が一瞬で変わった。
「一つ聞かせてくれ、モモンガは大丈夫なのか」
弐式炎雷が焦った声で聞く。
「問題ないよ、と言っても過労気味だから休ませた、今は下の妹とアルベドが一緒についてるはずだ」
「ふーそれは良かった…………その組み合わせでモモンガさん休めるんですか」
ミストバーンの失礼な問いにソウスケが答える。
「失礼だな君は、と言って妹もちゃんとその所は…………わきまえているから大丈夫だと思う」
今の間は一体なんだ、ソウスケしっかりしろ
「マキマちゃんがモモンガさんの相手をしてるなら自分も行った方が良いですね、モモンガさんも元気出ると思いますよ」
「余計に悪化するから本当に止めろ」
ソウスケが少しドスの効いた声で喋る。
「あ、すいません」
と素直に謝るミストバーン
「で今回の任務はリットン伯だ」
「あ~それなんですけど彼の場合環境に能力値が追い付いてないようなんですよね~」
「つまり?」
「こっちで彼のビルドをいじってやれば優良貴族に変えれるかと、もちろん悪事に手を染める用なら処分しますが」
「……つまり、リットン伯の育成にナザリックが関与する、と」
ソウスケが眉をひそめながら、ミストバーンの提案を反芻する。
「ええ。どうせこの国、貴族の人材プールが腐ってますし、素材さえ悪くなければ矯正プログラムで十分に対応可能かと」
「矯正プログラム……お前それ何のゲーム用語だよ……」
弐式炎雷が頭を抱える中、フラットフットは静かに補足する。
「言い換えれば“洗脳しない範囲での教育指導”。ナザリックの威光をちらつかせれば、むしろ感謝される可能性すらあります」
「具体的に何をやるんだ?」とソウスケ。
「はい、こちらをどうぞ」
ミストバーンが取り出したのは、**“中級貴族向け人格矯正スケジュール(Ver1.12)”**と書かれた分厚いマニュアルだった。
「ちょっと待て、それいつ作った」
「昨日です。疲労困憊の中、手慰みに」
「お前の“手慰み”怖すぎんだろ……!」
弐式炎雷はツッコムがソウスケはマニュアルをめくっていくうちにふと呟いた。
「……これは、意外と現実的かもな。“傲慢な資産家”から“善政に目覚めた啓蒙主義者”へ。プログラムの流れも丁寧だ。うん、弟なら採用してたと思うよ」
「やったぜ」「いぇい」
三人が小さくガッツポーズを決める中、ソウスケは念のため釘を刺す。
「ただし、暴走は厳禁だ。“神の威光”の押し売りになったら即刻処分だからな」
「「「了解ッス」」」
◇ナザリック地下大墳墓・医療区画(特別室)
「……モモンガ様、もう少しお休みになってください」
「ご飯はおかゆにしておきました、ほら、あーん……」
「……あーんって言われてもなぁ……」
ベッドの上でモモンガは目を逸らす。隣には心配そうな顔のアルベドと、その横でにこにこと佇む妹・マキマの姿があった。
「サトル兄ちゃん、動いちゃだめだよ。せっかくソウスケ兄さんが代理してるんだから、いまこそ回復に専念すべき!」
「そう言われると弱い……!」
マキマの言葉には逆らえないモモンガ。妹からの純粋な心配は、何よりも彼のHPとMPを削っていた。
そして栄養補給のために人化しているのだがアルベドの身体が目の毒だ、どうしても胸元に目線が行ってしまう。
(うう、これなら人化しないほうがよかったかアルベドは嬉しそうだが妹の視線が痛い)
「アルベド、君も何か言ってくれ……」
「わかりました。それでは今日一日は私が……添い寝しながら看病を……!」
「しなくていい! やめろぉおおお!」
ナザリック地下にモモンガの絶叫が響く。
◇リットン伯領・郊外(夜間・屋敷外壁付近)
「さて、またここからスタートな訳だが、いつも通りに侵入するか」
ミストバーンが屋敷の影を指差し、無言で姿を消す。
「影移動が本当に便利ですよね、影が繋がってれば移動し放題。実質、鍵も壁も意味ないっていう……」
フラットフットも続いて影に滑り込む。
「はいはい、俺も行きますよっと」
弐式炎雷が最後に影へと溶け込むと、次の瞬間、三人は屋敷内の書斎に転移していた。
「着いたな。……なんだここ空気が重いな。誰も掃除してないのか?」
「むしろリットン伯の精神状態が反映されてるんでしょう。オーラ的に陰鬱ですね」
「部屋の四隅に除霊札でも貼っときますか? 一応ナザリック式ですけど」
「やめとけ、変な宗教っぽくなる」
「ナザリックってもう十分変な宗教では?」
「否定できない……」
そんな軽口を叩きつつ、三人はリットン伯の寝室へと向かう。
◇リットン伯・寝室
「さてここがリットン伯の寝室ですが…………」
「これ結界も何も貼られてないな」
「不用心と言うかそれだけの知識がないのかも」
「流石能力的に六大貴族では一段劣ると言う評価ですね、ふさわしいと思いますよ」
そう言うとミストバーンは重苦しい溜息を吐き出す。
「じゃあ結界はこの一番グレートの低いのでいいか?」
「いや念のためにそれより二グレート上げたものにしてください、そうすれば現地の英雄級も気が付かないでしょ」
そうミストバーンが言うとリットン伯の寝室前に三人が集まり結界を展開する。
「じゃあ入りますか」
「んだな」「OK」
そっとドアを開けるミストバーン。
「……だ、誰だっ!?」
暗がりの中、寝巻き姿のリットン伯が飛び起きる。そこにはすでに三人の姿があった。
「おはようございます、リットン伯。貴族としての才能を開花させに来ました。強制的に」
ミストバーンが無表情で言い放つ。
「きょ、強制的に!? 何かの宗教か!?」
「いえ違います」
そう言うとミストバーンは魔法で強制的にリットン伯を支配下に置く
「おい、中級貴族向け人格矯正スケジュールは使わないのか?」
弐式炎雷の疑問にミストバーンが答える。
「あれはソフト、今からリットン伯にハードを外付けします」
そう言うとミストバーンは懐から幼虫のようなものを取り出しリットン伯の右目に滑り込ませた。少し身悶えするリットン伯。
「おい、今のって何の幼虫だ」
「ああ、これは週一コラボで実装したバルダーズゲート3のブレインイーターの子供です、こいつは生物の脳みその役割もあるので簡単に知性を上げたいときに便利なんですよ、因みにこいつの成長は止めてありますが俺の指示でいつでも本人をブレインイーター
に出来るように改造してあります」
「おっかねえもん持ってんな、お前」
「弐式こいつがおっかねえもん持ってるのなんて今更だろ、こいつはユグドラシル時代は公式のチーターだぜ」
「ダハハハハ、そりゃそうだったわ」
弐式炎雷が笑いながら肩をすくめる。リットン伯はまだ焦点の合っていない目で、ぼんやりと三人を見ている。
「認知領域、再構築完了。あとは人格ベースの上書きと補正を走らせれば……よし、これで“啓蒙的中立貴族Ver1.0”が完成する予定」
「……中立貴族って何だ、そもそも?」
「政争には首を突っ込まないが、民には程よく優しい理想のフォーマットです。言うなれば、反抗しない高性能NPC」
「まるでモブキャラ育成だな……」
「実際そうです。世界のNPCたちを正しく導くのがプレイヤーの役目。ね?」
にっこり笑うミストバーン。その顔を見て、弐式炎雷が小さく溜息をつく。
「なあ……お前、これ楽しいのか?」
「楽しいからやってるわけじゃない。理想の環境を作るには手間がかかるってだけさ」
「つまり、めちゃくちゃ楽しんでるってことだな」
「その通り」
開き直るミストバーンに、フラットフットがぽつりと呟いた。
「でも……なんだかんだで、これで一人“ましな貴族”が出来るなら、まあ良いことなんでしょうね」
「そんでもってコイツの成功例を見せびらかして、他の貴族にも“自主的矯正”を促す……そういうわけか?」
「ええ。バグの多いソフトは、まず一つ安定したパッチを配ってから、全体更新するのが基本です」
「お前の言うこと全部ゲーム用語だけど、一応意味は通じるのが腹立つわ……」
弐式炎雷がうんざりしたように頭を掻いた。
その横で、リットン伯がゆっくりと立ち上がる。目の色がさっきまでと違って、知性と落ち着きが宿っていた。
「……私は……リットン。私はこの国に何ができるかを……考えねば……」
「うむ、再起動完了だな。次回はスケジュール通り、染めている悪事から足を洗うとこからスタートしてもらう」
ミストバーンが淡々と指示する。
「ふふ……ナザリック式矯正、やっぱり無敵ですね」
「これさ、モモンガに報告したらまたストレス溜めそうじゃね?」
「言い方を“社会貢献型プログラム”に変えればセーフです。モモンガさん、言い回しには弱いですから」
「お前……本当にギルド長の扱いに関してだけはプロだよな」
ミストバーンがくいっと親指を立てる。
こうして、リットン伯の人格矯正は無事(?)完了したのであった――。
生まれ変わったリットン伯、石化されなくて良かったね