オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
しかし、その横で──ミストバーンは、別のことを考えていた。
今回はオリジナル設定多めです
崩れた建物の残骸の中、風が薬品の臭いを運んでいく。ここはかつて、八本指の麻薬部門が誇った秘密拠点。その地下施設はほぼ壊滅し、今や瓦礫と焼け焦げた家具、奇妙な装置の残骸だけが残る。
「よし……これでライラの粉の撲滅は時間の問題じゃ。お主たちには手間をかけたの」
ドラウディロン女王は、焼け跡の広がる瓦礫地を見渡しながら言った。
「いえ。仮に女王陛下との接触がなかったとしても、我々は独自に王都の流通網を潰していたでしょう」
白装束のミストバーンが静かに応じる。彼の視線は瓦礫の奥ではなく、女王その人を捉えていた。
「……ところで、女王陛下。つかぬことをお聞きしますが──“始祖魔法”は、今も限られた者しか扱えないのですか?」
「……なんじゃと?」
思わぬ問いに、女王の顔が引き締まった。
「そうじゃ。八欲王どもが世界を蹂躙して以来、始祖魔法に耐え得る者は、もう半分以上死に絶えた。今では王族と、ごく一部の古代の血を継ぐ者しか使えぬ」
「では……我々の所有する《ワールドアイテム》で適性を補えば、始祖魔法を行使できる者を“増やす”ことも可能でしょう」
その瞬間、風が止まったかのように空気が張り詰めた。
「──お主、何を企んでおる?」
ドラウディロンの声は低く、重く、静かに殺気を帯びていた。
背後に控える護衛たちの視線が鋭くなる中、キアラが慌ててミストバーンの前に立ちはだかる。
「ちょ、ちょっと待って! 伏黒、話すタイミングってあるでしょ!? 今のはさすがに火に油だってば!」
だが、ミストバーンは一歩も退かない。静かに、しかし真っ直ぐに女王を見据え、告げた。
「単刀直入に申し上げます。我々の“元の世界”が、今まさに滅びの淵にあります。
ナザリックとしてではなく、私個人の意思として──女王陛下の力を、お借りしたい」
女王は目を細める。だが、すぐに口を開いた。
「その前にお主らの仲間と話すのが先ではないか?」
「!!」
「すいません、先走りすぎました」
「今の事は話半分で聞いておく、よく仲間と話し合うんじゃな」
ミストバーンは深く頭を下げると、キアラと共に女王の元を後にした。女王の背中は、最後まで振り返ることはなかった。
やがて、魔導通信の端末が彼の指先で起動する。
「──ナザリック本拠へ、転移する」
直後、眩い魔法陣が彼とキアラの足元を包み込み、その姿を虚空に消し去った。
◇
「……なるほど、ミストバーンさんの真意は理解しました」
玉座の間にて、ミストバーンの報告を受けたモモンガは、ゆっくりと頷いた。
その左右にはアルベド、デミウルゴス、シャルティア、コキュートスら守護者たち、ギルメンたちが並び、誰もが重い沈黙を守っていた。
「始祖魔法、ですか……」
デミウルゴスが眼鏡の奥で瞳を光らせながら、静かに言葉を紡ぐ。
「たしかに、ドラウディロン女王が言っていたように、それはこの世界の根幹を揺るがす力。八欲王が封印したのも当然かと」
「だが、その“根幹”に手を加える術が、我らの持つ《ワールドアイテム》によって可能となるのなら……」
「禁忌を犯すことになるとしても、だ」
アルベドが鋭く言葉を挟む。
「モモンガ様の名の下に行うのでなければ、あまりにリスクが大きすぎます。ミストバーン様、あなた個人の思いで動くには──この件は重すぎます」
「これはギルメン会議を開く必要があるな」
「すいません、焦りすぎました、でもこっちの世界をリアルと結べるならあの環境をどうにかできると思ったんです」
「モモンガさん、ミストバーンさんのことはあまり責めないでやってくれるか、俺が彼の立場なら同じ事をしたと思う」
「ブループラネットさん、確かに俺もリアルの環境を何とかしたいと思いますがこれは可能性の問題であって確実に出来るとは――
「出来ますよ」
モモンガの言葉にミストバーンが言いきる。
「どういう事か聞いても?」
「もう転移実験は完了してるんですよ、リアルの俺(伏黒)がユグドラシルのデータをいじって何とか低級アイテムぐらいならリアル世界に持ってこれるようになりましたよ」
「初耳なんですけど!!」
「言っていませんでしたからね」
「それで後は出力の問題でして、ナザリック全員の魔力リソースをつぎ込んでも私が運ぼうとしてるアイテムには届かないんです」
ここでモモンガに嫌な予感が走る。
「具体的に何を運ぼうとしてるんですか」
「…………秘密じゃ駄目ですか?」
モモンガは、椅子の背もたれに重たく身体を預けながら、深くため息をついた。
「駄目です。というか、それで許されると思ったら本気で怒りますよ」
アルベドとデミウルゴスも同時に小さく頷いた。コキュートスとシャルティアに至っては、すでに武装解除せぬまま、いつでも拘束に動ける態勢だ。
「……わかりました」
ミストバーンは、しばしの沈黙のあと、ついに口を開いた。
「私が転送しようとしているのは――《デビルガンダム》です」
──《デビルガンダム》。
その言葉が落ちた瞬間、玉座の間の空気は凍りついた。
「……え?」
モモンガが、一瞬、聞き間違いかと耳を疑った。
「お、お前……今、なんて?」
ぬーぼーが目を丸くしながら、珍しく素に戻った声を漏らす。
「《デビルガンダム》です。ユグドラシルのイベント報酬として限定配布された、自律型ナノマシン再生型拠点級ユニット。自己増殖、自己進化、自己修復の三大自己機能を備え、オマケで街一つぐらいなら自力で征圧できます」
ミストバーンがさらりと説明するが、誰の顔も笑っていない。
「……あんなレイドボス級なもんどうやって運ぶんだよ!?」
ウルベルトが、眉をピクリと動かしながら尋ねた。
「あれなら、我々が帰るべき現実の地球──放射能と廃墟に覆われた“旧世界”に、拠点と再生の起点を築ける。
再生医療、環境再生、物資増産、全部一括で処理できる唯一のユニットです」
ミストバーンの言葉に、守護者たちが視線を交錯させた。デミウルゴスがゆっくりと顎に手を当てる。
「……理論上は、成立してしまうかもしれませんね。ナノマシンの解析と制御が可能で、
かつユグドラシル由来のアイテムであれば、通常の因果法則を無視した奇跡も可能に――」
「奇跡というか低級アイテムではクリア出来てますから後は出力の問題ですね」
ミストバーンはあくまで冷静に、まるで日用品を通販で注文するかのように話を続ける。
だがその内容は、あまりに規格外だった。
「……それは、現実世界に《デビルガンダム》を“召喚”する、という理解で間違いありませんか?」
アルベドが鋭い目で尋ねる。
「いえ違いますね、こちらの世界で出来上がったデビルガンダムを始祖魔法の力でパワーアップした転移でリアル世界に運ぶというのが私の考えです」
「それは……《始祖魔法》を、現実世界への物理転移に応用するという意味ですね?」
デミウルゴスが、まるで未知の論文を読み解く学者のように声を潜めた。
ミストバーンは頷く。
「はい。始祖魔法は世界の理を“書き換える”力。元のユグドラシルでは、世界干渉権限レベルのGMコマンドと同義でした。そしてこの世界でも、その名残が一部、力として遺っている。つまり、始祖魔法を起点にしてリアルとこちらの世界を“繋げる”ことが可能になるはずなんです」
「理論としてはあり得ます……が」
アルベドがすぐに切り返す。
「現実世界への物体転送には、単なる魔力ではなく《因果律》そのものの突破が必要になります。
ミストバーン様、あなたが言う“出力”とは、それを可能とするだけの“存在証明”の力でしょうか?」
「違います、いえ厳密に言うとその過程は必要だったのですが、私たちの存在が呼び水となってその過程が必要なくなったと言った方が良いでしょう」
ミストバーンの言葉に、沈黙していたギルメンたちの目が一斉に彼へと向いた。
その中でも、最も鋭い視線を向けたのはモモンガだった。
「……つまり、“ナザリックの転移”そのものが、始祖魔法と因果律への干渉実験として機能した、ということですか?」
「その通りです、モモンガさん。私たちがこの世界へ転移した事象――それ自体が既に、従来の物理法則を超越した“実例”なんですよ」
ミストバーンは言葉を継ぐ。
「この世界はユグドラシルの延長ではない、“別の現実”です。そして我々がその現実に、形あるまま介入したという事実は、既に物理的な転送が可能である証左となります。
我々の身体、装備、人格、記憶、全てがデータとしてでなく“現実存在”として保存されているのですから」
「……だが、その原理を他の物体に応用するのは、話が別だ」
今度はぬーぼーが口を開いた。彼の表情は真剣そのもので、普段ののほほんとした雰囲気は影を潜めていた。
「俺たちはプレイヤーという“特異点”だからこそ、転移できた可能性がある。ユグドラシル側でプレイヤーデータが優遇されていたことを思い出せ。転送の際に変換プロトコルが走ったのは間違いないはずだ。《デビルガンダム》のような拠点級ユニットをそのまま転送するには、その変換プロセスを再現する必要がある」
「それを《始祖魔法》で無理やり突破しようとしてる、って話か」
ウルベルトの言葉に、ミストバーンは頷いた。
「ええ。ですから、必要なのは始祖魔法を行使可能な“媒体”、そして《ワールドアイテム》による補助。それに加え、ナザリック全体の“意志”としての支援です。魔力量だけではなく、我々の“現実との接点”そのものを転送のトリガーに使う必要があります」
アルベドが、沈痛な面持ちで尋ねる。
「……ミストバーン様、あえて聞きます。現実に《デビルガンダム》を転送した場合、仮にそれが制御不能になったとしたら、どうなります?」
「三ヶ月もしない内に人類は文明を失うでしょう」
あまりにも即答だった。
空気が、またもや凍りついた。
「……それを、そんな冷静に言うか普通!?」
ペペロンチーノが顔を引きつらせながら悲鳴に近い声を上げる。
「制御できるのか? それだけ教えてくれ」
モモンガの声には、怒気も苛立ちもなかった。ただ、ギルドマスターとしての覚悟がにじんでいた。
ミストバーンは、その問いに――はっきりと、頷いた。
「理論上は可能です、ゲーム内での仕様はあくまでソロで拠点やダンジョンを力ずくで攻略する課金アイテムですからね。そんなにハードな物を求められないでしょうし、求められたとしてもリアルの方でそこら辺を調節してやればいい」
「ミストバーンさん話は分かりました、だがこれは俺一人では決められない、さっきも言ったようにギルメン会議で決めようと思います」