オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
カプセルコーポレーションの指揮のもと、再チューンされた“デビルガンダム”の初期試験がひっそりと行われていた。
日本、某県某所――封鎖された山間の研究施設跡地。
「……やっぱり、ここが今のデビルガンダムにとって最適な場所ですね」
伏黒がモニター越しに満足げにうなずく。
「それって、つまり汚染されてるって意味だよな」
隣で腕を組んでいたブループラネットが即座にツッコミを入れた。
目の前に広がる景色は、見事なまでの赤茶けた荒野。地表には異常なまでに成長した雑草と、黒く焼け焦げた金属片が点在している。
ブループラネットの視線の先――荒野の中心には、異様な光沢を放つ巨大な“繭”のような構造体が鎮座していた。まるで呼吸しているかのように、外殻がわずかに脈動している。
「……生きてるな、あれ。完全に」
「一応、機械生命体ってことになってるので」
伏黒がさらりと答える。
「機械生命体だが制御できない訳じゃないシュミレートもしたしちゃんと伏黒の生体CPUも入ってる」
その口調はあくまで冷静だったが、ブループラネットにはわかっていた。
――こいつも内心では、“やべーのを作った”って思ってるな、と。
「今回は“環境適応型自己再構築プログラム”の反応を見るのが主目的だ」
マサキは端末を操作しながら、機体外殻の表面温度と分子構造データを並べて確認していく。
「もしこっちが制御できなかったら、最悪、自爆コードで消す」
「……それ、あっさり言うなよ」
そのとき、
――キュイイイイイィィィン……!!
耳障りな金属音が地の底から響いた。デビルガンダムの繭が、突然くしゃみのように外殻を弾け飛ばし、黒い煙を撒き散らす。
「始まったか……!」
マサキの声に、端末に向かっていた技術スタッフたちが一斉に身構える。
繭の中から、赤黒い金属質の“腕”のようなものがゆっくりと突き出された。
「こっちの信号に反応……してるのか?」
「いや、違う。自己判断で構造展開を開始してる。おそらく、周囲の地形と融合を――」
ドォン! と地面が炸裂した。
地中に眠っていた旧型MSの残骸が、黒い触手のような金属線に包まれて引きずり出されていく。
それは一瞬で“再構築”され、見覚えのあるフォルム――ガンダムフレームのような何かに変貌し始めた。
「おい! 伏黒!」
「大丈夫、大丈夫。想定の範囲内です」
「いやお前の“想定”って、だいたい常識の斜め上だからな!」
ブループラネットが慌てて制御台に駆け寄ろうとするが、突如、施設全体に警告アラートが鳴り響いた。
《警告。DGコアが独立稼働モードに移行しました。》
《システム制御、現在48%まで低下。》
《抑制アルゴリズム、一部機能不全を検出――》
「……は?」
「……うん、ちょっとだけ想定外です」
伏黒があっさりと白状した。
「おいィィィィィ!!」
その叫びを背に、DG(デビルガンダム)の本体が、ゆっくりと繭から這い出す。
白い外殻、明らかに有機物と無機物の境界が曖昧なその躯体は、まるで“意思”を持っているかのように頭部を擡(もた)げ、空を見上げた。
《自己展開プログラム進行率、82%……93%……99%……》
《警告。DGコアが外部情報を収集中――自己進化モードに移行しました》
《現在の判断基準:この環境は“敵性”と判断》
「うわ、敵って判断された!? この地球、敵なの!?」
ブループラネットが半分引きつった顔で伏黒に詰め寄る。
「まあ、そもそもこっちから見てもこの環境、ろくなもんじゃないし」
「問題はそこじゃねえ!」
「いや大丈夫だ、こうなるだろうと予想して外部からの緊急停止装置が組み込まれてる」
マサキが構えたリモコンのスイッチを、ためらいもなく押し込む。
カチッ。
……無反応。
「……」
「……え? 押したよな?」
「押したけど!?」
その場の空気が一瞬にして凍りつく。
《警告。外部信号に対する遮断処理を実行中――》
《自己保全優先度、Sランクに移行。外部干渉を拒否します》
リモコンの信号ランプが、かすかに赤く点滅するだけで、デビルガンダムには全く変化がない。
まるで――いや、完全に拒絶されていた。
「おい、伏黒……」
「マサキさんのせいじゃないですよ。これ、もうボクの生体データでしか止まらない状態なんで」
「最初にそれ言えよッッ!!!」
ブループラネットが怒鳴った瞬間、デビルガンダムの頭部がこちらを“見た”。
――ゴォォ……。
風もないのに、何かが押し寄せてくるような“圧”が発生する。
デビルガンダムの瞳に相当する部位が赤く光り、次の瞬間、背中から触手のような構造体が十数本、天に向けて突き出された。
「な、なんか、今、こっち見てなかったか!? 感情あったろ今!?」
「一部、AIに情動学習させてたからですね。たぶん今、すっごく機嫌が悪いです」
「させんなそんな学習!!!」
デビルガンダムが低く唸るような駆動音を上げる。
まるで、自分の存在理由を問い直すかのように、虚空に問いを投げかけるような“咆哮”。
《DGコア・統合思考プロセス開始》
《外部構造物・文明痕跡の収集を開始》
《汚染源の除去、および理想環境の再構築に移行》
「うわ、これ地球改造始めるやつだ!」
ブループラネットがモニターを指差す。
その表示には、周囲10km圏内の土壌と大気を改変する“楽園化”プログラムの工程がリアルタイムで描かれていた。
「伏黒!」
「わかってますって、最終手段発動しますよ……俺の“生体起動コード”で封印モードに移行させる」
伏黒がゆっくりと目を閉じ、首元に装着された銀色のパッチに手を当てる。
「まさか……体内チップか!?」
「いえ、もっとシンプルです。声で起動します。」
深呼吸ののち、伏黒が静かに言葉を紡いだ。
「コード:スリープ……モード“おやすみなさい”。」
一瞬、デビルガンダムの全身に電流のような光が走る。
次の瞬間、まるで糸が切れたように――デビルガンダムが、その場で崩れ落ちた。
……ズゥゥゥン……
数秒の沈黙。
「……なんで、そのワード?」
「なんか“おやすみ”って優しい響きじゃないですか」
「ギャップで凄み増してるだけだよそれ!!」
崩れたデビルガンダムの外殻が、少しずつ自己修復のための再構築を始める様子を見て、マサキがぼそりと漏らす。
「……たぶん、あと2〜3回が限界だな。封印コード、データ保持が不安定になってきてる」
「え、あと数回しか封じられないの!?」
「うん、そろそろ本格的に“管理”じゃなく“対策”を考えないと――」
伏黒はゆっくりと背を向けて歩き出す。
その背中から、ほんの少しだけだが、“覚悟”のような気配が滲んでいた。
「さて、デビルガンダムくんの機嫌が直るまでは……ご機嫌取り、頑張らないとね」
ブループラネットとマサキが同時に顔を見合わせて、ため息をついた。
「……やっぱ、あいつが一番やべぇな」
(と言ってもこのままじゃ地球再生は上手くいかないな、やっぱりGガンダムの原作道理女性をパイロットにしないと安定しないのか、でも流石にこの苦行を誰かに味合わせるには……あ、ユグドラシルにヒルマいたわ)
◇数日後 ―― ナザリック地下森林エリア《癒しの園》
「え? デビルガンダムのパイロットですか?」
ヒルマ・グリーンリーフは、ぽかんと口を開けたまま、伏黒を見つめていた。
「そう、君が最適なんだ。“環境と調和する資質”と“圧倒的な根性の持ち主”――この二つを満たすのは、他にいない」
「いやいやいやいやッ! わたし、もう薬草の管理で満足してるんですけど!? 平穏で! 緑に囲まれて! 虫と話してるだけの生活が好きなんですけど!?」
「……デビルガンダムも、虫と話す存在になれば……世界に優しくなれるかも知れない」
「その発想おかしいですよ!?」
伏黒は“本気の目”でヒルマを見つめていた。
横でそれを見ていたマサキとブループラネットが、こっそり会話する。
「……ほんとにやる気だな、あいつ」
「止める理由も無いが……これ、ヒルマ死ぬんじゃね?」
「ていうか、地球が死なないならそれでいいって考えだろ?」
「地球のために一人のドライアドが犠牲になるって、これ何の環境系アニメ?」
その頃、伏黒は説得という名の押し売りを続けていた。
「安心して。今回はパイロットと言っても、意識を直接リンクさせるだけ。肉体はこのまま、ナザリックでお昼寝してていいから」
「いや! リンクする時点で嫌な予感しかしない!」
「それにデビルガンダムくんも、君みたいな“優しいお姉さん”が好きだと思うよ?」
「それもう完全に情緒不安定なAIの教育係じゃないですか! あと“お姉さん”っていう言い方やめてくれません!?」
「……君にしかできないんだ、ヒルマ」
「その目、詐欺師の目ですよ!?」
だがヒルマの抵抗もむなしく、次の瞬間にはもう接続準備が整っていた。
伏黒の手で装着された《ドライアド・エコリンク・インターフェース》――通称「草帽子型ヘルメット」が、ヒルマの頭上にぴったりフィットする。
「この帽子、かわい――いや違う、やだやだやだああああああああ!!」
光と共に、ヒルマの意識はデビルガンダムのコアシステムへと転送された――。
◇DGコアシステム内部《メンタルリンク領域》――
「――……ここ、どこ?」
ヒルマはゆっくりと目を開けた。目の前に広がるのは、草原――に見せかけた、無機質と有機物が不気味に融合した空間だった。
緑色の絨毯のような地面は、よく見ると基盤模様が浮かんでおり、風に揺れる木々も金属の骨組みに葉のようなデータの断片が張り付いたものだった。
「えっ、なにここ気持ち悪っ……」
彼女が身を縮めた瞬間、突然、空が割れた。
ズゴォォォン……!!
赤黒い光とともに、巨大な顔――デビルガンダムの“思念体”ともいえる意識の象徴が、空間の中心に出現した。それは仮面を被ったような、無表情でありながら、どこか怒っているような不穏な“顔”だった。
《おまえは だれだ……》
「わ、わたし!? 私はヒルマ・グリーンリーフ! ただのドライアドです! 植物と喋るのが得意です! 戦うのは苦手です!」
デビルガンダムの意識が、まるでこちらを“舐める”ように視線を這わせてくる。
《この環境は 敵性と判定 除去プロトコルを継続――》
「ちょっと!? 環境を全部壊すとかやめてよ!? むしろ“再生”とか“共存”とか、そういう方向にしましょうよ!? ね!?」
デビルガンダムはしばし沈黙した。
そして。
《植物 共存 調和 キーワード照合……》
空間が突然、変化を始めた。
荒廃した草原が、みるみるうちに深緑の森へと変わっていく。
花々が咲き、風が吹き、鳥のさえずりのようなデータ音が響き渡る。
ヒルマの周囲に、金属と木が融合した小動物のようなAI存在が姿を現し、彼女の足元にじゃれついた。
「えっ……な、なにこれ、かわいい……」
《この感情は “快”……》《ヒルマ 評価:有益 指導者適性アリ》
「え、ちょっと待って、今“指導者”って言った!?」
《今後の環境再構築は ヒルマの意思を基準とする》
「……うそ、え? わたしが世界の標準になるの!? 重い! 責任重いわよ!?」
《ヒルマに倣い 全ユニット 緑化モードに移行》
「え、ちょ、やりすぎじゃない!?」
◇地上――デビルガンダム前線制御室
「……おい、なんか森になってね?」
ブループラネットがモニターを凝視する。
「いや、マジで地形変わってるな……酸素濃度も上昇してるし、土壌改良も始まってる」
マサキが驚きと共にデータを眺めていた。
そのとき、デビルガンダム本体が、ゆっくりと起き上がった。
以前のような不気味な雰囲気はなく、そのボディには植物のツタが絡まり、背中から“光合成ブレード”なる謎の発光パネルが展開していた。
《DGコア:モード変更完了》
《ヒルマ・グリーンリーフによるパイロットリンク確立》
《新たな環境再生モード:名称“グリーンパラダイス”》
「グ、グリーンパラダイス……!?」
ブループラネットが膝から崩れ落ちた。
「……いや、結果的には、成功……なのか?」
マサキが困惑した表情で呟く。
「彼女をコアにして正解でしたね、どうやら俺の生体CPUとは相性悪かったみたいだ」
「と言う事は暴走の原因はお前か、伏黒!!」
マサキが鋭いツッコミを伏黒に返した。