オーバーロードによく似た世界で(本編完結)   作:ペンギン勇者

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 あれから安定したデビルガンダムの起動実験に成功し、また話し合う事になったサトルさん達、なお今後生体CPUを務める彼女にはナザリックのNPC達より早く現実世界に来ていた。


第24話ナザリックと世界

「という事がありましてデビルガンダムの生体CPUは俺からヒルマに変わりました。デビルガンダム君もやっぱりいかつい男性よりも綺麗なお姉さんの方が良かったみたいです」

「まさか暴走していた結果がお前だったとはな」

 

 呆れながら言うサトルだったが、その顔にはどこか安心したような安堵の色が浮かんでいた。

 

伏黒が肩をすくめて笑う。

 

「デビルガンダムくんに対する愛が重すぎたかもしれない。でも結果的に、ヒルマに任せた方がずっとスムーズだったよ。ほら、ほぼ母性で制御してるから」

 

「母性って……お前、それAI兵器に通じる概念じゃねえだろ」

 

 弐式炎雷が意地わるそうに言う。

 

「通じたんだよ、結果的に。な?」

 

 隣でヒルマ・グリーンリーフが控えめに頷いた。ドライアドとしての外見はそのままだが、かつてのヒルマとは思えないほど表情は穏やかで、どこか慈愛すら漂っている。

 

「……ええ、デビルガンダムさんは今、とても静かにしています。共鳴する感覚があるんです。“怒らなくていいよ”って、ずっと伝えている気がして」

 

 彼女の声は、風に溶け込むように柔らかく響いた。

 サトルはヒルマを一瞥すると、伏黒に向き直って問う。

 

「で? DGの性能はどうなってる。まさか、暴走リスクがゼロになったとは言わないだろうな?」

 

「ゼロとは言わないけど、ヒルマの意思とのリンクで抑制は完璧だよ。強化外骨格式の拡張構造はそのまま使えるし、自己再生、自己進化、環境適応能力も完全稼働。ただし、ヒルマが“怒らない限り”だけどね」

「……つまり、ヒルマがキレたらデビルガンダムもキレるってことか」

「うん。でもデビルガンダムくん的には“優しいお姉さん”が不機嫌になるのが一番こたえるらしくて、今はすごい勢いで言うこと聞いてる」

 

ヒルマが少し頬を赤らめてうつむいた。

 

「……そんなに従順だったなんて、知らなかったです……」

 

 サトルは頭を抱えながら溜め息をついた。

 

「お前ら、本当にAI兵器でギャグやるのやめろ。こっちは毎回肝が冷えるんだよ」

 

「でも成功は成功でしょ? ほら、前に実験で現実世界にコピーしたナザリック地上圏の治安も、デビルガンダムくんが整備担当してるし。ほぼ24時間、ボランティア精神で街路樹と水路を保全してくれてる」

「……え、デビルガンダムって今、園芸やってんの?」

「うん。市街地ではエコドローン、郊外では自走式堆肥プラントも展開してるよ。あと、ヒルマの指示で“癒しの時間”っていう休息ゾーンを作って……」

「やめろ、これ以上聞くと涙が出る……」

 

 サトルは遠い目をした。

 

「で、次のフェーズとしてはデビルガンダムをベースにした“多目的支援型モビルスーツ”の開発を――」

「やっぱお前、殴っていいか?」

 

 伏黒は笑って手を挙げる。

 

「いや、冗談冗談。ちゃんと許可取るからさ。ね、ヒルマ?」

 

 ヒルマは静かに、しかし力強く頷いた。

 

「私は……デビルガンダムさんと一緒に、この世界を優しく整えていきたい。たとえそれが、元・薬物カルテルの私でも」

 

 沈黙が一瞬だけ広がる。

 だがその場にいた誰もが、その言葉を否定する者はいなかった。

 サトルは最後に深いため息をつき、ぼそっと呟く。

 

「……ほんと、どこからツッコんでいいかわからん世界になったな」

 

 その言葉に、全員が笑った。

 

「で、次は何処を緑地化する」

 

 ブループラネットが真剣な表情で伏黒を見ていた。

 

「まずは近場からと思いましたがそれだと足が付く可能性が高いのでブラジルのアマゾン川周辺から始めませんか?」

 

 伏黒の提案に、ブループラネットが真剣に頷いた。

 

「良い選択だ。あそこはかつて“地球の肺”と呼ばれたが、今はその面影すら残っていない。デビルガンダムの能力なら、土壌再生から植生の定着まで短期間で実現できるはずだ」

 

 弐式炎雷が口を挟む。

 

「おいおい、勝手に現実世界の環境保全にまで手を出して平気なのかよ? 下手すりゃ国際会議の議題だぞ」

 

「それならそれで、デビルガンダムくんに出席してもらえばいいじゃん。“心優しいお姉さんの植物系AI支援兵器”として」

「その紹介の時点で各国軍部が発狂するわ!!」

「大丈夫、発狂しないようにヒルマが“癒しのフェロモン”出しながら喋れば、きっと誰も怒らないよ」

 

 ヒルマが小首をかしげながら真面目に聞き返す。

 

「……それ、私がやるんですか?」

 

 伏黒は親指を立てる。

 

「もちろん。これも更生プログラムの一環。世界を救うドライアドとして、地球の緑化にフルコミットしてくれ」

 

 サトルが手のひらで顔を覆いながら呻いた。

 

「デビルガンダムだけでも扱いきれんってのに、今度はヒルマを“国連公認のドライアド環境大使”にでも仕立てる気か……」

 

 しかしその横で、ブループラネットが神妙な顔でデータパッドを操作していた。

 

「伏黒、デビルガンダムによる森林再生の予備シミュレーションを3パターン用意した。最短で3ヶ月、最長でも1年以内にアマゾンの植生を復元できる。どうする?」

 

「やるでしょそりゃ。デビルガンダムくん、行くぞ!」

 

――その瞬間、会議室の天井に設置されたホログラム投影機が起動し、そこに現れたのは柔らかい光の中で微笑む、巨大なメカの姿だった。

 

《了解。優しさは、力に変換できます》

「うわ喋った!? デビルガンダムって喋れたの!?」

「ヒルマの願いで簡易音声ユニット搭載したんだ。今のは“落ち着いたトーンで信頼感を与えるモード”」

「やべぇ……めっちゃいい声してる……」

 

 ヒルマが照れたように微笑んだ。

 

「デビルガンダムさん、今日は皆さんに挨拶を」

 

 ヒルマがそう言うと、

 

《皆さん、こんにちは。私はデビルガンダム。ヒルマ様のご指導のもと、世界の再緑化に取り組みます。怒らせないでください》

 

 弐式炎雷がぽつりと呟いた。

 

「……最後の一言が一番怖ぇな」

 

 サトルは完全に諦めた表情で椅子に体を預けた。

 

「こうなったらもう、ナザリックは環境NPO法人として活動するしかないな」

 

 伏黒がにこやかに両手を広げた。

 

「ようこそ、ナザリック・グリーン・イニシアティブへ!」

 

 こうして、デビルガンダムを中核とした緑化プロジェクトは静かに、だが確実に、世界を巻き込んで動き出したのだった。

 

 

◇一週間後

 

 

「こちらブループラネット、現場に到着した。……現状は、想像以上にひどいな」

 

 濁った川のほとりに立つその男の瞳には、焼け焦げた伐採跡、露出した土壌、廃棄された重機の残骸が広がっていた。

 

 通信回線に、伏黒の軽い声が入る。

 

『だろ? でも逆に言えば、やりがいあるってことさ。やっちゃってくれ、地球の守護者さん』

 

 ブループラネットは深く息を吐き、静かに頷いた。

 

「――全ユニット、再緑化プロトコルを展開。DG-CORE、転移準備」

 

《了解。転移座標、ロック完了。》

 

 次の瞬間、大気に異音が走った。

 

 上空の空間が音もなく歪み、空間転移特有の“音の無さ”が一帯を包み込む。視覚的なゆらぎと共に、宙に巨大な転移陣が浮かび上がる。

 

 雷鳴にも似た閃光の中から、銀灰色の巨大構造体が出現する。

 

「……あれが、“DG-CORE”……?」

 

 現地に同行していた国連観測団の一人が呟く。かつての兵器とは思えない有機的で滑らかなフォルム、無数の細い触手のようなナノファイバーが空中を蠢いていた。

 

 空中に転移したその巨体は、一切の噴射音や推進力を使わず、静かに降下し、大地に触れた瞬間――

 

 大地が光った。

 

《フェーズ1:土壌修復、開始します》

 

 辺り一面に光る粒子が散布され、数十秒後にはひび割れていた地面に緑の芽が出始めた。

 

「なっ……!?」

 

 国連職員、ブラジル政府の環境庁職員、そして遠巻きに取材していた外国メディアすら、言葉を失う。

 

 だがそれは、まだ序章に過ぎなかった。

 

 上空に浮かぶホログラムがふわりと揺らぎ、ヒルマ・グリーンリーフの穏やかな顔が映し出される。

 

『こんにちは、皆さん。私はヒルマ・グリーンリーフ。デビルガンダムさんと一緒に、ここから“癒しの再生”を始めます』

《怒らせないでください》

 

 その一言に、場が静まり返る。

 

「やっぱりそれいるんだな……」

 

 弐式炎雷が護衛として同行していた傍らで、ため息を漏らす。

 

 伏黒の声が再び通信に入る。

 

『初期段階は“グリーン・リバース1号”計画に基づいた再生プロセスだ。デビルガンダムくんが分離した植生ドローンと浮遊型陽光調整ユニットを使って、完全な熱帯林回復まで3ヶ月のロードマップで動くよ』

「植生ドローンが……自律飛行してる!? 空から種子散布してるぞ!」

「ナノ触手が土壌のミネラル分を補ってる……え、これ全部AI制御!?」

「嘘だろ、何だこの技術レベル……」

 

 現場にいた研究者たちは震える声で呟くが、ヒルマはただ微笑みながら言う。

 

『デビルガンダムさんは、今怒っていないから安心してください。彼はこの世界を癒すために生まれ変わったんです』

 

 だが、異変は別のところで起きていた。

 

 ブラジリアの国防省、ワシントンのCIA本部、北京の国家安全部、モスクワのGRU――各国の軍事・諜報機関が同時に動き出していた。

 

「未確認兵器体がブラジル上空に突如出現。正体不明のAI構造体。地表変化を伴う環境操作あり!」

「……ナザリックか。また奴らか」

 

 その名が出るたびに、幹部たちは頭を抱える。

 

 彼らは、戦争を仕掛けているわけではない。だが、“やりすぎる善意”が最も厄介だと、各国政府は理解していた。

 

 だが、ナザリックは止まらない。

 

 伏黒の声が、世界中の生中継回線をジャックして流れ始めた。

 

『皆さん、こんにちは。我々はナザリック・グリーン・イニシアティブです。本日は、環境回復の第一歩として“アマゾン再緑化プロジェクト”を実施しています。ご安心ください、誰も傷つけません。ただし――』

 

 ヒルマがホログラム越しに一言添えた。

 

『怒らせないでください』

 

 世界中の視聴者が凍りつく中、デビルガンダムが悠然と森を“育てていた”。

 

 

 

 

「いや~一時はどうなるかと思いましたが何とかなりましたね」

「普通は『お宅の国の自然破壊を何とかしたいので巨大ナノマシンユニットを転移させたい』とか通りませんからね、真顔で拒否するのは当然ですよ」

 

 プニット萌えが呆れたように言うと、伏黒は苦笑いで返す。

 

「でもさ、言ってみるもんだよね。今回は“民間非営利団体による技術実証実験”ってことで通してもらえたし」

 

 そうヘロヘロが呟くが実際には伏黒が《永劫の蛇の指輪》を使っていた、本人曰く「絶対に通したかった」かららしい

 

「その“民間”ってワードが一番信用ならんのだが……」

 

 脇で聞いていたサトルがコーヒーを啜りながら呟いた。

 

「ていうか、お前らが“民間”を名乗るの、いろいろ詐欺じゃねえか?」

 

「んー、一応法人登記もしてあるし? 代表はヒルマだし? ナザリック本体じゃなくて“ナザリック・グリーン・イニシアティブ合同会社”だから」

「もうやめてくれ……俺の脳がこの現実を処理しきれん」

「おやつの時間にでも考えてくださいよ」

 

 伏黒が気楽に返すその横で、ヒルマがタブレットを手に新しい報告を読み上げていた。

 

「アマゾンの再緑化率、現在28%。初期に導入されたDG-COREユニットからのナノファイバー拡張も順調です。今のペースなら予定より2週間前倒しできます」

「早ぇな!?」

 

 プニット萌えが素で驚く。

 

「どんだけ本気なんですか、あなたたち……」

「本気というか、これは自然の力、いえ慈愛の力よ」

「うるせえよ“元カルテルの女王”!」

 

 弐式炎雷がツッコむが、

 

「うふふ……今はただの園芸好きドライアドです♪」

 

 そう微笑むヒルマの後ろで、巨大ホログラムのデビルガンダムが、花畑を丁寧に整えている様子が映し出されていた。苗木を補助ドローンが運び、

 浮遊プラントが陽光角度を調整し、地中ではナノファイバーが静かに根を張っていた。

 

 まるでそれは、戦争兵器とは程遠い、自然への奉仕者だった。

 

 だがその優しさこそが、逆に世界の軍事関係者たちを震え上がらせていた。

 

──善意は、制御不能なとき最も恐ろしい。

 

「にしてもデビルガンダムの三大理論は恐ろしいですね、でもそのおかげで一気に地球再生がはかどるから結果オーライですが」

 

 伏黒がそう言うとサトルは重い溜息をついた。

 

「あれのおかげでデビルガンダム自身をコピーして複数同時展開できるのは凄いを通り越して呆れましたけど絶対世界を敵に回しましたよ」

 

「逆に考えてください、世界を敵に回すぐらいしないとこんな大規模な環境再生は出来ないさ」

 

 伏黒がそう言うとサトルは再び重い溜息をついた。

 

 

 

 

 そのころ、某国・某軍事基地

 

「……衛星画像で確認された再生速度は、通常の自然速度の千倍以上。明らかに異常です」

「DG-COREの展開地点は、地球全土の要衝を網羅するように拡大中。環境回復という名目で、戦略的価値の高いエリアが“緑の盾”で覆われている」

「すでに南アフリカ、インドネシア、オーストラリア北部、シベリアのツンドラ地帯にも局地転移が確認されています。これは――」

「ナザリックによる、“緑色の制圧”だ……」

 

会議室に静寂が広がる中、一人の将軍が苦々しく口を開いた。

 

「どうする? 攻撃か?」

「無理だ。攻撃した瞬間、“怒らせないでください”が発動する」

「……あれ、冗談じゃなかったのか?」

「真剣に言ってるからタチが悪い。デビルガンダム、現在までの全稼働時間で暴走ゼロ。唯一の例外が、“ヒルマが不機嫌だった時”の5秒間だ」

「それで何が起きた?」

「地形が変わった」

「地形って……地図レベルで?」

「そうだ。冗談では済まされない。“癒しのドライアド”は、現在地球最大の抑止力になっている」

「……じゃあ、手出しできないのか?」

 

 将軍は歯噛みした。

 

「ナザリック……どこまで本気だ……」

 

 

 

 

 その翌日。

 

 ナザリック・環境再生プロジェクト本部

 

「で、次はどこに転移させる予定なんだ?」

 

 サトルの質問に、伏黒が指差したのは――

 

「サハラ砂漠!」

「お前、砂漠を森にする気か!?」

「いやいや、最初は“緑の点”だよ。“サハラ・点描プロジェクト”って名前で小規模から始める。まずはオアシスの維持と地下水路の復旧から」

「うっわ、もう完全に国連超えてるなコレ……」

 

 プニット萌えが頭を抱えた。

 

「でもまあ、あれだな」

「うん?」

「お前ら、根本的には……優しいよな」

 

 伏黒が照れ臭そうに鼻をこする。

 

「だって俺、世界を救いたくて生きてるし?」

「うん、その“チートの使い道”間違ってないのに、なんか全部ボケ倒しで見えなくなってるんだよなぁ」

「誉め言葉として受け取るよ!」

 

 ナザリック・グリーン・イニシアティブの次なる目標地――サハラ砂漠再生計画は、すでに最初の資材搬入とデビルガンダム転移の準備が始まっていた。

 

――世界は、今まさに“優しすぎる侵略”を受けていた。

 

 そして、その中心にいるのは、

 

 かつて薬物カルテルの女王だった“癒し系ドライアド”と、

 

 その彼女に絶対服従する“デビルガンダム”だった。

 




 ご愛読ありがとうございました。これにて「オーバーロードによく似た世界で」を終わろうと思います。続はエピローグか何かで書くかも。
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