オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
モモンガは玉座で頭を抱えていた。
つい先日、デビルガンダムを用いた現実世界の大規模戦を終え、ようやく平穏が訪れると思っていた矢先――
「腐敗貴族の処罰を忘れてましたね」
隣で涼しい顔のミストバーンがさらりと言い放つ。
「……今、なんと?」
「ですから。腐敗貴族どもですよ。ナザリックに歯向かい、八本指に荷担していた連中の処罰がまだ終わってません。ええ、きっちりリストにしておきました。どうぞ」
机に無造作に置かれた資料には、異様に丁寧な筆致でこう記されていた。
【件名】王国貴族一掃作戦
【対象】
・ブルムラシュー侯(石化処理済、現在は庭のオブジェ)
・ボウロロープ侯(同上、ナザリック中庭にて鳥避けとして運用中)
・バルブロ王子(特別措置対象、"教育的指導"完了後も更生の兆しなしの為再度石化)
【提案処遇案】
・ブルムラシュー侯 → モモンガ様の寝室前の噴水に「水吐き像」として設置
・ボウロロープ侯 → 第9階層「癒しの園」にて園芸用オブジェ化(緑の蔦で装飾予定)
・バルブロ王子 → 石像のまま「教育展示施設」に収蔵、見学コースAルートに組込可
備考:
・ナーベラル様が「殴られ人形にできないのは残念です」とのコメントあり。
・アルベド様から「次は骨董収集の一環として王族の首飾りコレクションも…」との追加指示あり。
「……お前ら、どこまで悪ノリしてるんだ……」
アインズが顔を覆ったまま嘆息する。
「今はナザリックで置物になってるがいずれは王国の貴族の元に返して裁きを受けさせるんだろう」
「その通りです、ウルベルトさん。俺たちが持ってるよりラナー王女に渡して処分してもらうのが一番かと」
「そのラナー王女って結構権力が強いのか?資料を見ると彼女が率先してやってるみたいだけど」
ベルリバーの返答にミストバーンは、
「愛する人と平穏に暮らすために頑張ってるらしいですよ」
ミストバーンは静かに笑う。
「……彼女、やることは徹底してます。王族のくせに、まるでナザリック式のやり方を参考にしているような……いや、もはや同類でしょうね」
アインズが思わずうめいた。
「それ、教育的に問題ないか……?」
「愛と平穏のためなら何でもするのが、ラナー王女です。ちなみに腐敗貴族のうち、五名は既に“自発的に”資産を譲渡して姿を消しました」
「消えたって……まさか」
「ええ、消されたんです。正規の手続きで。“王国内規定に基づく死刑制度”を適用しただけだそうで」
その声には一片の情もなかった。
ベルリバーがため息をついた。
「ラナー王女……やっぱり“こっち側”だよな?」
ベルリバーの言葉に、誰も否定を返さなかった。
「……しかも自分では善政を敷いてるつもりなんだろうな」
ウルベルトが資料に目を通しながら、ぽつりと呟く。
「実際、民衆の支持は高いですよ。“貴族を吊るしたお姫様”として、民の間では密かに信仰の対象にまでなっているそうです」
ミストバーンはさらりと言った。
「それ、もう王族じゃなくて教祖では?」
アインズが額を押さえると、ミストバーンが追い打ちをかけるように続けた。
「信仰名は“聖処断姫ラナー”。教義第一条は“愛なき者に救済なし”。ちなみに制定者は彼女自身です」
「ちょっと待て、それナザリックより怖くないか……?」
アインズの言葉に、室内が一瞬沈黙した。
そして――
「まあ、愛を語ってるぶん、ナザリックよりはマシじゃないですか?」
ベルリバーが肩をすくめる。
「ええ。ナザリックは“効率”と“忠誠”ですからね。感情で処刑はしません」
「だからって、“水吐き像”は感情以前の問題だろ……」
アインズの呟きに、全員が少しだけ目を逸らした。
「――とにかく、腐敗貴族の処遇は一旦保留だ。ラナーに引き渡すのは……その、彼女がもう少し落ち着いてからにしよう」
「落ち着くという概念が、彼女に通じるかは疑問ですが……承知しました」
「いやこれは俺の感だが遅かれ早かれ俺らが持ってる石化した腐敗貴族共の処遇は変わらないだろうから石化を解いて渡しちまった方が手っ取り早いんじゃないか?」
「ウルベルトさんもそう思いますか、実を言うと僕もなんですよね。この王女、愛を語ってるけど慈悲という物がまるでない。なんかうちのアルベドやデミウルゴスに近い物を感じる」
ベルリバーがそう言うと、ミストバーンはゆっくりと頷いた。
「ええ、似てますよ。いや、場合によっては“上位互換”かもしれません。なにせ、“愛のためなら人道すら不要”という明確な信念がありますから。アルベドやデミウルゴスですら“アインズ様のご意思”という枷がある分、まだ歯止めが効いてます」
「それを超えてくるって……やっぱりもうダメじゃないか、この王女」
アインズが頭を抱えたまま呻いた。
「というか俺の知ってる“愛”って、もっとこう……癒しとか、救いとか、そういう方向性じゃなかったか……?」
「アインズ様、それは“健全な愛”です」
即答したミストバーンの目は真剣だった。
「おう、もうラナー王女に関してはそこまでにしておこう、問題は何時渡すかだな」
「……渡そう。今すぐにだ」
ウルベルトの言葉に、アインズはしぶしぶ頷いた。
「だが確認しておくが、ラナーは王じゃない。王国の正式な統治者は今もランポッサ三世だ」
アインズは念押しするように言う。
「ええ、形式上はそうです。ラナー王女は“ただの王女”ですよ。あくまで裏から静かに王政を“支援”しているだけで」
ミストバーンが涼しい顔で返す。
「支援っていうか、支配に見えるんだが……」
ベルリバーがぼそっと呟いた。
「いやいや、違いますよ。ラナー王女はあくまで“陛下の補佐”。ほら、“善意の娘”として、あくまで忠誠を尽くしている体裁なんです」
ミストバーンは淡々と資料を取り出し、読み上げた。
「近年の王国内政策一覧――
・王都の浮浪者対策(→身元不明者の一斉失踪)
・貴族階級の資産再配分(→対象貴族、全員行方不明)
・新設“市民愛育院”の開設(→子ども達に『愛ある忠誠』を教える施設)」
「おい、最後のなんかおかしくないか!?」
モモンガが思わず突っ込む。
「いえ、すべて“陛下のご意向を忠実に実行しただけ”だそうですよ。ラナー王女が手を加えたなどという証拠は、どこにもありません」
ミストバーンはきっぱりと言い切った。
「……ランポッサ三世って、実際どのくらい実権握ってるんだ?」
ウルベルトが懸念を込めて問う。
「お元気ですよ。お茶を飲んで、祝辞を述べて、毎日国璽にサインしています」
ベルリバーが苦笑した。
「サインって……つまり、何でもハンコ押してるだけじゃないか……」
モモンガの声が虚ろになった。
「まあ“うっかり印鑑が流出してた”なんて話もありますが、たぶん気のせいです」
ミストバーンがさらりと言い放つ。
「要するに、“王国の形は保たれている”。でも中身は、すでに王女の掌の上ってことか」
ウルベルトが総括すると、室内の空気が重く沈む。
「ナザリックよりえげつない“裏支配”だよなあ……」
ベルリバーが呟いた。
「いえ、ナザリックには“アインズ様の慈悲”があります。ラナー王女には……ありません。彼女の行動原理はただ一つ、“愛する者と共に、平穏に生きるために、邪魔な物は排除する”です」
ミストバーンは、まるで事実を確認するように淡々と語った。
「――わかった。石像どもは近々、公式な文書を添えて“王政への返還”という形で送る。表向きは“王国による自国内処理”に任せる、だ」
アインズは苦渋の決断を下した。
「了解しました。では手配しておきます」
ミストバーンが一礼し、すでに準備していた“石像たちの移送申請書”に魔力印を押した。
「一応確認するが、王女側から“歓迎の儀式”みたいなものはあるのか?」
アインズがため息交じりに聞くと、ベルリバーが資料を見ながら答える。
「えーと、“王国貴族更生記念式典”なるものが……開催予定みたいです。会場には“聖処断姫”の巨大なタペストリーが飾られるとのことで……」
「行きたくねぇ……」
モモンガが本音を漏らした。
「ご安心を、モモンガさん。“ナザリックご一行様”の席は特別席で、“感謝と忠誠の花冠”が贈られるそうです」
ミストバーンは、心なしか楽しげに微笑んだ。
「なあ……俺たちが返還した貴族連中とバルブロ。あいつら、これからどうなるんだ?」
モモンガの問いに、ミストバーンはわずかに目を伏せ、冷静に答えた。
「既に処分案の草稿は、王女殿下の手により作成済みです」
「処分……か。まさか、ただの軟禁や監禁じゃないよな?」
ベルリバーが眉をひそめる。
「そのような“生ぬるい”措置は取られません。ラナー王女は愛する者──つまりクライム以外には、慈悲も同情も抱かぬお方です。彼ら貴族には、相応の“代償”が求められるでしょう」
「具体的には?」
ウルベルトの問いに、ミストバーンは手元の資料に目を通しながら淡々と告げる。
「バルブロ王子──“王の資格なし”と断定され、“民衆啓蒙の見本”として晒し者にされる案が進行中です。罪状を自ら読み上げさせた後、広場にて“民衆による投石の儀”が行われる予定です」
「……それ、助からないんじゃ……」
アインズが絶句する。
「助かるかどうかは、彼の反省次第……だそうです」
ミストバーンの声には、一切の感情がない。
「ボウロロープ侯に関しては、腐敗の象徴とされ“肉体から悪徳を削ぎ落とす儀”が検討されています。
詳細は不明ですが、“皮を剥ぐような儀式”だと、刑吏の一人が笑っていたそうです」
「ひでぇ……」
ベルリバーが吐き捨てた。
「他の貴族たちにも、それぞれ“罪状に見合った儀式的制裁”が用意されています。
ある者は、かつて飢えに苦しむ農民を見捨てた罪で“断食の儀”──死ぬまで水とパンだけで生き延びさせられる牢。ある者は、“沈黙の牢”──言葉を封じられ、永劫独房に閉じ込められる……」
「もう処刑した方がマシな気がするんだが……」
ウルベルトが眉をひそめる。
「いいえ、殿下は“生かして悔やませる”ことに重きを置いておられます。殺してしまうより生かせておいて腐敗貴族共に『私の邪魔をするならお前もこうしてやろうか』という善意を感じますね」
ミストバーンの声は冷たく、無慈悲な現実を突きつけてくる。室内には沈痛な空気が漂っていた。
「……善意、ねぇ……」
モモンガが頭を抱え、吐息を漏らす。
「これが善意なら、もう“悪意”の定義見直した方がいいぞ……」
ベルリバーのぼやきに誰も反論しなかった。
「しかしまあ……本当に徹底してるよな」
ウルベルトが腕を組みながら天井を見上げる。
「この世界には“極端”が多すぎる。ラナーもそうだが、我々もそうだ。だからこそ、バランスを取る誰かが必要なのかもしれん」
「その役目を担うのが、俺たちってわけか……」
モモンガが苦笑する。
「全く、どうしてこうなったんだか……ゲームの延長のはずだったのにな……」
「その“ゲーム”の延長で、貴族たちが“皮剥ぎの儀”に処されるのがまた、なんとも……」
ベルリバーが言葉を濁す。
「まあ、あいつらも酷かったけどな。自業自得っちゃそうだが……それでも、やり口ってもんがあるだろ」
「“愛ゆえに、非情を選ぶ”というのは……言い訳としては最も厄介な部類です」
ミストバーンが、冷静に総括した。
「ラナー王女の中では、すべてが“愛する者の幸福のため”という大義に収束する。そこに“他者の幸福”は存在しない」
「それってさ……もう独裁じゃないか?」
モモンガがつぶやいた。
「いえ、“愛による絶対統治”です。独裁とは違い、“信者たち”は自ら望んで彼女に従っていますから」
ミストバーンの口元が皮肉げに歪んだ。
ラナー王女健在かつ王国残っててそっちで好きなようにやっていいよってなったらまあこうなる。