オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
しかし、まだ何か忘れていることがあるような?
「あ、そうだモモンガさん、六腕の処遇についてはどうします?」
「……あっっっ!!!!」
モモンガの骨面ががっくりとうつむいた。
「……そういえばいたな、そんな連中……!」
「確か警備部門の長だったゼロと言うモンク、幻術を使う軽戦士のサキュトロン、キャスターのデイバーノック、踊りながら5本の三日月刀(シミター)を、魔法『舞踊(ダンス)』で宙に浮かべて操る魔法戦士のエドストレーム、振れば鞭の様にしなる柔軟性のある刀身が特徴的な、『ウルミ』と呼ばれる剣を扱うペシュリアン、レイピアを使いこなす軽剣士のマルムヴィストですね」
「今その連中はどうしてるんだ」
武人武御雷が尋ねる。
「軟禁して戦力が落ちるのもあれなので今はコキュートスの部下と戦闘訓練を重ねてますね」
「思い出してきたぞ、確か腐敗貴族の一掃が終ったらナザリックの王国側の戦力として温存しておいたんだったか」
「その通りですがモモンガさん、今の彼らで十分でしょうか?」
「と言うと」
「ナザリックのギルメン達と組手しておいて少しでもレベリングしておかないと不安じゃありませんか、彼らの戦闘力ってプレアデス未満ですよ」
「そう言われると心もとないな、あいつらってレベル30~39ぐらいだろ」
と弐式炎雷が答える。
「……いや、プレアデス未満って、それもう一般兵と大差ないのでは……?」
「実際そうです。戦闘訓練では、ルプスレギナに“開幕五秒で処理”されたり、シズの弾が避けられずに“即退出”したり、ナーベラルの『火球』一発で“再起不能”になったり」
「なんでそんな過酷な相手と組ませてるんだよ!!」
モモンガの叫びに、ミストバーンが少し肩をすくめて答えた。
「手加減すると、実力がわからないとコキュートスが……。それに、アルベドが“どこまで使えるか試す必要がある”と」
「試すにしても限度があるだろ!! 相手、ルプスレギナって……あいつ愉快犯気質だぞ!? 絶対手加減しねえよ!!」
「その点は安心してください、すでにルプスレギナは“更生教育”済みですから」
「お前がやったのか!? 何をしたんだ……」
「いえ、俺ではなく創造主の獣王メコン川さんにお尻ペンペンしてもらいました」
「うわ~この人NPCに一番きつい創造主のお仕置きさせたのかよ」
弐式炎雷が苦笑いしながら言う。
「正直ユリやアルベドもルプスレギナのサディストぶりには困ってたみたいですから丁度いいと思いますよ」
ミストバーンは肩をすくめながら続けた。
「ただ、アルベド曰く“更生”は一時的なものらしく、根本的な性格は変わっていないそうです。だから訓練ではまだ彼女を油断できませんね」
「なるほどな……でもそれじゃあ六腕が本当に戦力になるのはまだまだ先ってことか」
モモンガは頭を抱えつつ呟いた。
「なのでモモンガさんに彼らの手本となる様な戦い方を見せれるギルメン達を選んで指導して欲しいんですよ」
ミストバーンが真剣な表情で訴えた。
「六腕の特徴を聞く限りゼロはヘロヘロさん、デイバーノックはウルベルトさん、ペシュリアンはタッチさん、エドストレームはベルリバーさん、サキュトロンは朱雀さんって分かるんですけどマルムヴィストについてはそれを指導できるギルメンが……」
モモンガがそう言葉を濁らせると、
「なら俺に任せてくれませんか、レイピアの使い方はそれなりに心得があります」
ミストバーンは自信たっぷりに言い切った。
「ほう、頼もしいな……」
モモンガは少し目を細めて頷く。
「じゃあ、マルムヴィストの訓練はミストバーンに任せて、他は担当のギルメンが指導するという事で」
「よし、これで六腕も戦力として少しは期待できそうだな」
弐式炎雷が胸をなでおろす。
「まだナザリックのNPC任せだと加減が分からない所あるから怖いな」
「死んでも生き返らせればOKとか思ってそうですよね、彼らにはナザリックの代わりに王国の裏の戦力としていてもらいたいからその前に壊れてしまったら困る」
ミストバーンの懸念に、モモンガは深く頷いた。
「そうだな……ギルドとしての規模や影響力を維持するためにも、外部の人材は大切にしなきゃいけない。彼らを消耗品扱いするような方針では、信頼も何もない」
「特にゼロのように部下を率いる立場の者が無駄に戦死したら、それだけで士気ががた落ちですからね」
「だよな……ああ、なんか胃が痛くなってきた気がする……。まあ胃ないけど……」
骨面の奥からため息が漏れるモモンガ。その様子に弐式炎雷が冗談めかして肩を叩いた。
「胃がないからこそ、代わりに脳が痛んでるってことにしておきましょうよ。あーでも、脳も乾燥してそうか……」
「そのネタ、意外と傷つくからやめてくれ」
「すまんすまん。でもマジで、六腕の連中はうまく育てれば、王国の特殊戦部隊として使えるはずですぜ。ゼロとマルムヴィストあたりは鍛え直せば暗殺や奇襲でも活躍できそうですし」
「情報統制の一環としても使えそうですね。デイバーノックの幻術とサキュトロンの隠密技術、あとペシュリアンの戦闘技術も都市部の潜入任務向きですし」
ミストバーンの分析に、モモンガも徐々に前向きな顔を見せ始めた。目がないので表情は分かりにくいが、手の動きで察せる。
「うん……となると、ナザリックとは別個に“王国影衛(シャドウガード)”的な部隊名でもつけておくか?」
「お、それっぽいですね! ちょっとダサいけど!」
「いやいや、今考えたばっかりだから……正式名称はあとで皆で相談する! “裏王国治安部隊”とか“王国特別義勇軍”とか!」
「どれも現実感あるのに絶妙に中二っぽいところがナザリックらしくて逆にアリですね」
ミストバーンがふっと笑った。
その時――。
「失礼します、モモンガ様」
部屋の扉が開かれ、アルベドが恭しく一礼しながら入ってきた。その後ろには、ひどく気まずそうな顔をした六腕の面々が並んでいる。全員がどこか擦り傷まみれで、服には焦げ跡やら泥やらがこびりついていた。
「彼ら、訓練を終えて報告に参りました」
「そ、その……ゼロ以下、六腕、ただいま戻りました……」
ゼロが苦悶の表情で頭を下げる。その後ろでペシュリアンが腕を押さえ、マルムヴィストはレイピアの柄を両手で抱え込んでいた。
「訓練の進捗はいかがかな?」
モモンガの問いに、デイバーノックが申し訳なさそうに答える。
「……惨敗でした。正直、NPCの方々の動きは“予測不能”というレベルを超えております。特にあの小さなメイド(シズ)の火力と命中精度は……」
「実質的に対物ライフルでしたね、あれは……」
サキュトロンが震えながら頷く。
「そっか……まぁ、生きてるだけマシだったと思うんだ。よく頑張ったな」
弐式炎雷の言葉に、六腕のメンバーたちが少しだけ表情を和らげた。
「これからは、段階的な育成プログラムに切り替える。まずはギルメン達が基礎を指導する。NPCとの訓練はその後だ。順序を間違えたら誰も育たんからな」
「ありがたきお言葉……!」
「マルムヴィストについては、ミストバーンが個別に指導する。レイピアの扱いなら、きっと彼から学べることが多いはずだ」
モモンガの言葉に、ミストバーンは一歩前に出た。
「任せてください、彼の剣が“芸術”になるまで鍛え上げますよ」
マルムヴィストは驚いた表情でミストバーンを見ると、すぐに深々と頭を下げた。
「ご指導、よろしくお願いします!」
そのやり取りを見ていた武人武御雷がぽつりと呟く。
「これで……ほんの少しは、王国も平和に近づくのかな」
「と言っても組手で強くなるのも限度がありますからね。彼らにそろそろEXP薬を使おうと思うんですが、皆さんどう思われます?」
ミストバーンの問いかけに、場が一瞬静まる。
「……EXP薬か。たしかに効率はいいが、使いすぎるとまずいんじゃないか?」
モモンガが少し眉を寄せるような仕草をしながら口を開いた。
「EXP薬そのものには明確な副作用は報告されていない……が、“過剰使用”や“短期間での極端なレベル上昇”には注意が必要とされている」
「身体と精神がレベルに追いつかなくなる、ってやつですね。特に経験の浅い連中にはリスクが高い」
弐式炎雷が補足するように頷いた。
「はい。能力だけ先に上がっても、それに見合う判断力や反応速度、そして戦闘経験が伴わなければ、逆に危険ですから」
ミストバーンの説明に、モモンガも納得したように頷いた。
「うん……いきなり高レベルにして、気づいたら“自分の力を制御できず暴走”とか、“精神崩壊”なんてことになったら洒落にならんからな」
「実際、かつてEXP薬の過剰摂取で“精神適応障害”を起こしたNPCもいましたしね。感情制御の調整ミスで自己崩壊したタイプです」
ミストバーンが静かに付け加えると、六腕の面々がごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
「……こえぇ……」
「まあ、そこは俺達が管理する。レベルアップは段階的に、訓練と並行して徐々に進めよう」
モモンガが断言すると、場の空気が少し落ち着いた。
「了解しました。それなら彼らも、無理なく“真の戦力”として育てられますね」
その後に彼らにレベル50まで上がるEXPを服用してもらい肉体を回復させるのと同時に強化を行った。
◇翌日、第六階層闘技場
「ここなら存分に暴れられますからね。ドンとぶつかってきてください、ゼロさん」
とろんとした笑みを浮かべながら、ヘロヘロが粘体の身体をふるりと揺らす。その姿はいつもの愛嬌たっぷりのスライム姿……だが、気配は一変していた。
闘技場全体に、異様な緊張感が走る。
石造りのアリーナに向かい合う二人。ゼロは無言のまま、手甲を握りしめた。表情には焦りも恐れもない。ただ、純粋な闘志のみが宿る。
「……言ったな。後悔しても知らんぞ」
「はは、怖いなあ。でも僕、ちゃんと手加減しますよ? “それなりに”ですけど」
ヘロヘロの身体がぷよんと弾けるように宙を跳ねた。その動きは信じがたいほど軽やかで、空気すら置いていかれるような錯覚をゼロに与える。
ゼロはそれを目で追いつつ、低く構えた。
「……くるか」
「いきますよ? 訓練その一、“間合い感覚と対応力”!」
次の瞬間、スライムの身体が信じられない速さでしなり、ゼロの視界から消えた。
「――ッ!」
空気が裂ける音。ゼロはとっさに腕を前に出し、防御姿勢を取る。直後、爆発のような衝撃が正面から叩きつけられた。踏ん張りが遅れ、ゼロの体が数歩後退する。
「……っく、重いな」
スライムとは思えぬ密度と質量の打撃。だがゼロは踏みとどまる。目を細めてヘロヘロの動きを追い、拳を突き出した――が。
「そこです!」
突如、ヘロヘロが粘体をバネに跳躍し、ゼロの背後に回る。そして、柔らかい身体からは想像もつかないほどのカウンターが襲いかかった。
――ドゴォッ!
ゼロの身体が地面を転がった。
六腕のメンバーが観客席で息を呑む。
「ちょ……あれで手加減してんのかよ……」
「いや、今の動き、見えなかった……」
「そもそもあれ格闘じゃなくて、物理法則超えてない……?」
ゼロは土煙の中から立ち上がる。唇の端に少し血をにじませながら、それでも笑った。
「……なるほどな。お前が“上”ってのは、ちゃんと認めてやる」
「はは、それは光栄です。でも、ゼロさんの反応速度、もう完全に常人の域を超えてますよ。あと三手先くらいで、僕にも当てられるはず」
ヘロヘロの声には、戦闘狂のような高揚すら滲む。
「じゃあ、訓練その二。――“カウンター判断の習得”!」
「上等だッ!」
二人は再び激突する。拳と拳。力と技。格上と格下。その差を超えるための、血と汗の訓練が始まった。
ゼロの拳が空を裂くたびに、スライムの体が波紋のように弾け、受け流し、跳ね返す。だが、確実に――ゼロの動きが鋭さを増していくのが分かる。
ミストバーンは闘技場を見下ろしながら呟いた。
「ゼロ……やはり、あの男は“戦場の申し子”ですね。才能は既に頭打ちだと思っていましたが……違ったようだ」
その横で、モモンガが静かに頷いた。
「きっと彼は、“本気の手加減”をしてくれる相手が、ずっと欲しかったんだろうな」
そして闘技場では、爆音と気合が止むことなく響き続けていた。
◇
それから数時間。
闘技場では、順番に他のギルドメンバーたちも姿を現し、各々の得意分野を活かして六腕の訓練を担当していった。
フラットフットには高所からの奇襲対応と空中戦を。
弐式炎雷には即時判断力と爆発的破壊力への対処法を。
モモンガには情報操作と奇襲陽動の基礎を。
個性も戦闘スタイルもバラバラなギルメンたちが、実戦に即した無茶なカリキュラムを次々と叩き込んでいく。
もちろん、手加減は――「それなりに」だ。
ゼロを筆頭にした六腕の面々は、全身を汗と埃と打撲でまみれさせながらも、誰一人音を上げることはなかった。
――そして、夕刻。
その日の訓練をすべて終えた六腕たちが、整列して並び、頭を垂れる。
「「「ありがとうございました!」」」
地に響く、統率のとれた声。
その瞳には、疲労と充実、そして――燃えるような向上心が宿っていた。
ゼロが一歩前に出る。
「……俺たち六腕、まだまだ足りねえってことが、骨の髄まで分かった。今日の訓練、絶対に無駄にはしねえ。次は、実戦で証明してみせる」
言葉に嘘はない。ゼロの拳は、今や鍛え直された鋼のように、揺るぎない決意を帯びていた。
それを見届けながら、ヘロヘロが肩をすくめた。
「はー……これ、次回からさらに激しくなりますね」
「ふふ、楽しみが増えましたね」とミストバーン。
モモンガは一同を見渡し、満足げに頷いた。
「いい顔になったな、ゼロ。……お前たち六腕にしか、やれない役目がある。それを忘れるな」
「……ああ。命懸けで、証明してやるさ」
そうして、訓練の一日が、静かに幕を閉じた。