オーバーロードによく似た世界で(本編完結)   作:ペンギン勇者

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第27話エピローグ3、モモンガさんの恋愛事情

「あ、ミストバーンさん」

 

 ミストバーンを見つけるとトテトテと近づいて来るマキマ。

 

「これはマキマさん、キアラさんどうされました」

「お兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、ちょっと……聞きづらくてさ」

 

 その表情からは自分で踏む地雷を他人に踏ませようという小悪魔的な笑みが感じ取れた。

 

「そうなのよ、サトルもいい年だから結婚の事とかどう考えてるか気になってね」

 

 一方キアラの方は本当に心配している感じだ。

 

「それを私に聞いてきて欲しいと?」

「そそ。サトルお兄ちゃんももう30歳超えてるし……ほら、結婚とか、そういうの、どうするのかなって?」

 

「…………」

 

 ミストバーンは短く沈黙した。

 

 これは熟考でも困惑でもない。単純に**「あまりに想定外すぎて脳が処理を拒否している」**類の間である。

 

「え、なにその沈黙。まさか知らなかったとか?」

 

 マキマがニヤニヤしながら煽る。

 

「いえ……正直に言えば、彼の人に“恋愛”や“家庭”という概念がまだ機能しているかどうか、不安でして」

「うわぁ……リアルに言われるとちょっと切なくなるんだけど」

 

 苦笑するマキマと、どこか遠くを見るキアラ。まるで親戚の集まりで「そろそろアンタもいい年なんだから」と言われた独身アラサーを見る空気である。

 

「それでも……私が聞いてきましょう。もはや私の役目のような気もしてきましたし」

 

 ミストバーンは静かにため息をつきながら、重々しく歩き出した。

 

「うん、頼んだ! 私は爆発四散したくないから!」

「サトルが本気で照れたら、照れ隠しに心臓掌握が起きるから気をつけてね~」

 

 無責任な声を背に、ミストバーンは玉座の間へと向かう。内心では、“結婚”という未知の概念に対して、果たしてサトルがどう応じるのか──それが、いっそ恐怖に近い興味でもあった。

 

 

 

 

「という訳で単刀直入に聞きます、モモンガさんは今結婚したい人はいますか?」

 

 その瞬間、玉座の間の空気が一変した。静寂。ある種の神聖すら感じさせる沈黙が流れる。

 

「……なんでそうなる!? どうしてそういう話題がこのタイミングで俺のところに来るんだ!?」

 

 頭を押さえながら、立ち上がるアンデッドの王。魔力による幻影のローブが、焦りに合わせてばさばさとはためく。

 

「マキマさんとキアラさんからの依頼です。私はただの使者ですので、どうか私を焼かないでください」

「いや、焼かないけどさ!? なんでこのタイミング!? なに、俺そんな“適齢期すぎて独身貫いてるやべー奴”みたいなポジションなの!?」

「……否定はできません」

「できないのかよッ!!」

 

 崩れ落ちるモモンガ。その肩に、見えないプレッシャーがのしかかる。

 

「ちなみにですが、サトルさん……恋愛とか結婚に対してのご予定というか、見通しとか、なんかあります?」

 

 静かに、しかし地味に刺さるミストバーンの質問。

 

「ないよ!? あるわけないだろ!? こっちは仕事と統治とスケジュールに追われて、ようやく1日3時間ゲームできたら“今日は勝ち”みたいな生活してんだよ!? 恋愛する暇があったらスキル構成見直してるわ!!」

「なるほど。ではその旨、お二人には“無理です”と伝えておきます」

「語弊があるだろそれ! ちょっとは夢を持たせてあげて!!」

「ではこちらも助っ人呼ばせていただきますね」

 

 その言葉に、モモンガの背筋が凍る。

 

「……おい、誰だ。誰に連絡を入れた?」

「タブラ・スマラグディナさんです」

「はああああああああ!?!?」

 

 絶叫するモモンガ。玉座の間の空気が瞬間的に凍りついた。

 

「ええ、タブラさん あの、アルベドの“創造主”で、しかも──神話マニアや映画鑑賞が趣味の人だよな!?」

「タブラさんから聞いてますよ、アルベドの設定に自分の好みの女性像を言ったらしいじゃないですか」

「それはゲームの時であって――

「見苦しいぞモモンガ君、君だけの意見を取り入れたわけではないが、君好みの見た目のサキュバスにはしたつもりだぞ」

 

 しれっと居るタブラ。

 

「ならどうして性格をあんな風にしたんですかねえ!!」

 

 ついに怒鳴るモモンガ。しかしタブラは微塵も動じない。というか、むしろドヤ顔だった。

 

「当然だろう? ギリシャ神話で最も面白いのは“女神たちの修羅場”だ。特に恋愛が絡むと最高だ。君がアンデッドで無感情だからこそ、感情的な爆弾としてアルベドは必要だったのだよ!」

「神話にそんな実験動機混ぜんなぁ!! おかげで俺、毎晩のように“純潔の誓い”

を立てさせられてるんですけど!? 勝手に解釈して勝手に泣くから!!」

「それもまた神の加護だ。私は“解釈の余地がある台詞”を意図的に仕込んでおいた。

さすがに彼女の“恋は戦争”という思想がここまで拗れるとは思わなかったが……よきかな」

「よくないからあああ!! お前の“創作の悦び”が俺の“日常の地獄”に直結してんの!!」

「まぁまぁ、そこまで熱くなるな。今回は私も反省して、君に相応しい“花嫁候補”を用意してきたのだ。入りなさいアルベド」

 

そう言って、タブラが手をひらりと振ると──

 

「失礼いたします、我が愛しき御方」

 

 姿を現したのは、いつも以上にドレスアップされたアルベドだった。漆黒のドレスに薔薇の刺繍、黒曜石のように輝く髪は完璧にまとめられ、まるで花嫁のように気合が入っている。

 

「……本気だこの人ら……!」

 

 モモンガは呆然と呟いた。立ち込める濃厚なサキュバスフェロモン。目が合った瞬間、アルベドの瞳はハート型になりかけていた。

 

「さあモモンガ様、私たちの未来について語り合いましょう。婚姻届はすでに十七通ほど用意してあります」

「お前どこから持ってきた!? てかなんでそんなに用意してあるの!?」

「タブラ様のご指導のもと、様々な世界線に対応できるよう準備を……ふふ、完璧ですわ」

「君のために、封印された“多次元アルベド案”のデータを復元した。異世界嫁ルートだ。今なら魔界アルベドや和風巫女アルベドも選べるぞ」

「地獄の多重選択肢じゃねーか!! 俺に自由意志をくれ!!」

「こうなったら現実世界の方もアルベドと結婚します?リアルで仕事を手伝ってくれるパートナーは心強いですよ」

 

 そう言うのはミストバーン

 

……だったが、その一言が引き金だった。

 

「現実でもだと!? 無理無理無理無理!! 俺のプライバシーはどこへ行った!? せめて、せめてログアウトさせてくれええええ!!」

 

 モモンガ、もとい鈴木悟の悲鳴が玉座の間に響き渡る。だが、それに対して返ってくるのは仲間たちの悪ノリと、サキュバスの真剣すぎる眼差しだった。

 

「……これは、マキマさんとキアラさんにどう報告すべきか……『死亡確認』と送っておくか……?」

 

 ひとり小さく呟きながら、ミストバーンはそっと通信リングを耳に当てた。

 

「──こちらミストバーン。任務、完遂できず。対象は深刻な精神的混乱状態にあり。なお、婚姻届が十七通飛び交っている模様」

『了解。そっちは地獄ね。こっちは地獄の入り口ってとこかな。』

 

 通信の向こう、マキマの落ち着いたが微妙に引いている声。

 

『あーあ……サトルお兄ちゃん、照れ隠しで周囲に“死の恐怖”撒き散らしてない?』

「アルベドさんの機嫌次第でこの場が“新婚パーティー”になるか“地獄の結婚式”になるかの瀬戸際です」

『うわ……それ、私だったら命に関わるやつ』

「ご明察。では、私は身の安全のため、ここで一度物陰に退避します」

 

 そう言い残し、ミストバーンは玉座の柱の影へと音もなく移動した。

 

「ふむ、まいりましたね。これじゃあ結婚どころの騒ぎじゃないな、やっぱりアルベドがサキュバスで押しが強すぎるのがモモンガさんにとって毒になってるのかも、ここは母親であるブルマさんに聞いてみますか」

 

 

◇暫くして

 

 

「まあね、あの子も30すぎたし親としては結婚のことは考えて欲しいわ、ただ相手がいないわよね~」

 

 そう言うとブルマは溜息を吐く

 

「守護者のアルベドを現実世界に持っていくのはどうです?」

「貴方それ本気で言ってる」

 

 ブルマがミストバーンを睨むがミストバーンは本気のようだ。

 

「リアルの忙しさを考えるとアルベドのサポートは頼もしいかと」

「それを差し引いても性格が問題あるでしょ、あの子ストレスで禿げるわよ」

 

 ブルマの言葉に、ミストバーンは静かに頷いた。

 

「……確かに。では性格を調整した“サポート用アルベド”を開発するのはどうでしょう? タブラさんなら可能かと」

 

「そんなもん作ったら、元のアルベドが烈火のごとく怒るでしょうが!!」

 

 ブルマが声を上げる。その眼光は、もはや母のものではなく、長年ブラック企業で鍛えられたOL戦士のそれである。

 

「それにしても、なんであの子がこんなにも結婚から逃げるのかしらね……昔はほら、ちょっとは“彼女欲しい”って言ってた時期もあったのに」

 

 ふと、懐かしむような表情でブルマは遠くを見る。

 

「学生の頃は、部屋の隅で“理想の嫁像”ノート書いてたのよ。ほら、『家事ができて』『俺の趣味に理解があって』『でも押しが強すぎず、でも尽くしてくれる』みたいな。完璧超人求めすぎなのよ」

 

「……あの人、理想が高すぎて現実が追いつかなかったんですね」

「そうよ。で、ゲームの中で“設定だけなら完璧な嫁”作ったら、性格が爆発して逆に破滅するっていう。自業自得とはいえ、もはや業が深いわ」

 

 ブルマは顔を覆い、ミストバーンは思わず肩をすくめた。

 

「そうなるとやはりアルベドに理想の嫁要素を詰め込んだモモンガさんには責任を取ってもらいたいですが今のままではキツイ、となるとアルベドの種族をアンデットか人間にして価値観をモモンガさんに近づける所からスタートした方が良いかもしれませんね」

「……あら、いい事言うじゃない」

 

 ブルマの口元に、うっすらと笑みが浮かんだ。

 

 だが、それは慈愛でも同情でもない。明らかに“プロジェクト発足”前の上司のそれである。

 

「性格調整+種族改変……“嫁適合化プロジェクト”ね。コードネームは……そうね、『Project ALBEDO Re:Calibrate』ってとこかしら」

「即興でそんな不穏なコードネームつけないでください」

 

 さすがのミストバーンも思わず眉をひそめた。

 

「でもやる価値はあるわ。あの子の人生を救うためよ? あれで一生独り身だったら、

老後には絶対タワマンに一人で引きこもって、全自動AIとしか会話しなくなる未来が見えるもの」

「……モモンガさん、現代社会の闇を体現する気ですか」

 

 そんな二人のやりとりの最中、別の通信が入った。

 

『──こちらマキマ。あのね、こっちの世界でもアルベドが“分身体”作って強引にお兄ちゃんに迫ろうとしてるんだけど』

「もう手が早い!? 対応早すぎるでしょ彼女!!」

 ブルマとミストバーンがほぼ同時に叫んだ。

 

『しかも“現実世界適応モード”とかいうオプション搭載してるのよ。制服着たりOL服着たりして“どうですか?”って迫ってくるの。殺意の波動しか感じない』

「……本格的に“嫁戦争”始まりましたね」

「このままだと下手すりゃ“リアルで重婚”しかねないわ。法律を盾に守らなきゃ」

 

 ブルマが急ぎ自室の端末を立ち上げ、現行法とユグドラシルの規約を照合し始める。

 

 アルベドの暴走は止まらない。

 

 

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