オーバーロードによく似た世界で(本編完結) 作:ペンギン勇者
あれから数日ミストバーンはアルベドに翻弄されるモモンガを見て楽しんでいたが……
「それは本当ですかブルマさん、アルベドをモモンガさん、いや、サトルさんのお嫁さんにしたいって」
「本気よ、あの子はね、予想以上に仕事できるし、いう事も聞いてくれるから囲っておきたいのよ」
「あの、サトルさんの心情はどうするんですか?」
「……無視するわけじゃないけど、あの子も完全には嫌という訳ではないのよ」
ブルマは腕を組んで静かに言う。その目は、親の愛情というよりも“管理職の合理判断”そのものだった。
「でも、サトルさんは毎晩『純潔の誓い』を迫られて精神すり減ってますよ?」
「慣れるわよ。仕事と同じ。最初は辛いけど、ルーティン化すればどうということはないの」
「……結婚をルーティンに例える母親、初めて見ました」
「それにね、アルベドの一途さは逆に安心なのよ。他に浮気しないし、裏切らないし、家計管理は完璧。嫁としては優秀すぎるわ」
ミストバーンは顎に手を当てて考え込む。
「確かに……“過剰な忠誠心”は、ブラック企業における“社畜適性”に直結しますからね」
「でしょ? あの子はもう“サトル専用総務部長”として内定よ」
◇その頃のモモンガ
「……最近、妙にアルベドのアプローチが“現実志向”になってきてる気がする……」
デスクに積まれる書類。アルベドが勝手に作ってきた「家計簿案」や「結婚後シミュレーション」には、ブルマの赤ペン指導が入っていた。
『夫婦別財産制の導入』『現代社会法規に基づく婚姻届チェックリスト』『老後の資金計画表』──。
「俺の未来が勝手に確定していくぅぅぅぅ!!」
◇ブルマとミストバーンの密談
「次のステップは“結婚式準備委員会”よ」
ブルマはさらりと言った。
「結婚式……もうそこまで進めるんですか?」
「当たり前じゃない。企業で言えば“内定者研修”をすっ飛ばして“入社式”をやるようなものよ。形式を固めちゃえば本人はもう逃げられないの」
ミストバーンは思わず吹き出しそうになった。
「なるほど……“囲い込み戦略”ですね。恐ろしい、だが合理的だ」
「あなたには式場の手配を任せるわ。暗黒闘気で荘厳な雰囲気を演出できるでしょ?」
「……私、完全にブラックブライダルの実行委員扱いじゃないですか」
「あ、そういえば本人たちはキスもまっだでしたっけ?」
「いえ、もうキスは済んでるから後は子供ね」
「子供……ですか」
ミストバーンは目を細める。
「そう。結婚式なんて所詮は儀式。でも“後継ぎ”ができればサトルも腹を括るしかなくなるわ」
「恐ろしい……“人質戦略”そのものですね」
「違うわよ。母親として、ただ“将来の安定”を確保してるだけ」
ミストバーンはふっと笑う。
「ブラック企業で言うところの“退職防止の社宅制度”に近いですね。家族を巻き込めば簡単には辞められない」
「でしょ?」
ブルマの笑みは柔らかいのに、言っていることは完全に経営者のそれだった。
ミストバーンは腕を組み、天井を仰いだ。
「しかし……サトルさんの精神は持ちますかね。すでに夜ごとアルベドの“愛の拘束稽古”に疲弊している様子でしたが」
ブルマは眉ひとつ動かさず、冷静に答えた。
「大丈夫よ。男はね、プレッシャーにさらされると最初は逃げたくなるけど、そのうち“これが日常だ”と諦めるもの。あの子はもう、八割方観念しかけてるわ」
「……恐ろしい。つまり“離職希望者の再教育プログラム”ですか」
「そうそう。人は慣れれば順応するの。恋愛も結婚も結局は“環境適応訓練”なのよ」
ブルマの合理的すぎる言葉に、ミストバーンは思わず笑みをこぼす。
「さすがはカプセルコーポレーションを支える名参謀……。まさか愛をここまで人材マネジメントに落とし込むとは」
「おだてても何も出ないわよ。でも、成功すればモモンガ──いえ、サトルの人生は安定する。アルベドは専業嫁兼総務部長、
ミストバーンは式場運営担当、私は経営監査役。完璧な布陣じゃない」
「……監査役、ですか」
「ええ、何か問題が起きれば私が介入する。浮気も離婚も、絶対に許さない」
ブルマの声には、母としての情よりも“企業統治の冷徹さ”がにじんでいた。
「……なるほど。家庭を会社に見立て、夫婦を役員会とする。アルベドは実務を担う専務、サトルは名誉会長……いや、実質マスコット」
「ぴったりじゃない」
ミストバーンは口元を覆い、くつくつと笑った。
「サトルさん……もはや逃げ場はない。ブラック企業どころか、ブラックファミリーに組み込まれてしまうとは」
ブルマは満足そうに頷き、静かに紅茶を口に運ぶ。
「ええ。だからこそ、私は安心して見ていられるの」
ブルマとミストバーンは顔を見合わせ、何も言わずに頷き合った。計画は、着実に進行していた。
「あ、そうだ、ダメ押しの一つに何でも願い事を叶えてくれる永劫の蛇の指輪を使いませんか」
「ちょっとそれ大丈夫なの?」
「正直このまま行ってもサトルさんが何処かで発狂する未来が見えるので使うしかないと思います……干渉は最低限に抑えるつもりですが」
「具体的には?」
「指輪にいきなり結婚を願うんじゃなくて、サトルさんとアルベドの仲をよくする、具体的に言うとお互いに好意をもってる幼馴染ぐらいまで距離を縮めます」
ブルマはカップをソーサーに戻し、ジト目でミストバーンを見た。
「……幼馴染みの距離感って。ずいぶん細かい指定ね」
ミストバーンはわずかに肩をすくめる。
「戦術でもあり指輪のデメリットですね、これが抽象的な表現だと願いが不発になってHPとMPだけもってかれるんですよ。
それにいきなり結婚を押し付ければサトルさんは抵抗して精神崩壊する可能性が高い。けれど、“最初から自然に好意を持っていた”
という土壌を作れば、本人は抵抗を疑問に思わなくなる……」
「……つまり“経歴改ざん”ね。企業で言うなら“新卒扱いで中途採用を履歴書に書き換える”みたいなもの」
「ええ。本人の意識には違和感が残りますが、潜在的に“安心感”を与えられる」
ブルマは顎に手を当て、真剣に考え込んだ。
「なるほどね……でも危険じゃない? 思い出をいじるのは人間の根幹に触れるわよ」
「承知しています。しかし、現状のサトルさんは“退職届を握りしめて机に突っ伏している社員”のようなもの。放置すれば本当に逃げます」
「ふむ……」ブルマは唇に指をあて、考え込んだ末に小さく笑った。
「要するに、“強制残業”を命じるんじゃなくて、“やりがい搾取”の方向に持っていくわけね」
「その通り。愛のブラック労働環境を、本人が“心地よい職場”と錯覚できるようにする」
「……本当にあんた悪魔ね」
「いえ、私はただの人材マネジメントの専門家ですよ」
ブルマはしばしの沈黙の後、紅茶を飲み干して頷いた。
「わかったわ、任せる。ただし最低限よ。サトルの精神が壊れたら元も子もないから」
「心得ています」
ミストバーンの瞳が、暗黒の炎のように静かに揺らめく。
永劫の蛇の指輪がもしその場にあったなら、すでに微かに光を放っていたかもしれない。
――そして、運命の歯車はさらに音を立てて回り始めた。
◇その夜──
モモンガは執務室でうなだれていた。
「はぁ……今日も“夫婦共同資産管理簿”を渡された……もうやめてくれ……」
机に突っ伏した瞬間、ふと胸の奥に妙なざわめきを感じる。それは懐かしいような、
不思議な安心感。視界の端でアルベドが静かに書類をまとめる姿が、なぜか“幼馴染みのようにずっと隣にいた存在”に見えてしまったのだ。
「……え?」
頭を振っても違和感は消えない。記憶の中に、存在するはずのない“共有された思い出”の断片がにじみ出てくる。
夏祭り、雨宿り、試験勉強……どれも自分が体験した覚えはないのに、“アルベドと一緒だった”という既成事実だけが胸に焼きついている。
「モモンガ様? どうかなさいましたか?」
「い、いや……なんでもない……」
アルベドの微笑みが、今まで以上に自然に見えてしまう。
その笑みが心を温めると同時に、背筋に冷や汗が走る。
「まさか……俺、アルベドと昔から……?」
サトルの理性が警鐘を鳴らすが、感情はどんどん上書きされていく。
永劫の蛇の指輪は、静かにその効力を発揮し始めていた。
◇カプセルコーポレーション地下ラボ・特別観測室
巨大な水晶モニターに、ナザリック執務室の様子が映し出されていた。机に突っ伏すモモンガと、その横で微笑むアルベド。
ブルマは腕を組み、映像を食い入るように見つめながら小さく頷いた。
「……来たわね。記憶の違和感を“幼馴染補正”として受け入れ始めてる。抵抗反応はあるけど、致命的な拒絶には至ってない」
隣で観察データをまとめていたミストバーンが、無機質な声で答える。
「心拍数上昇、呼吸パターンの乱れ──不安と混乱。しかし、アルベドを直視した際の脳波は安定。むしろ“安心反応”が優勢になっている」
ブルマはニヤリと笑った。
「つまり、“混乱の中で拠り所にしてる”ってことね。完璧だわ」
「……しかし」ミストバーンは慎重に言葉を選んだ。
「潜在意識への干渉は諸刃の剣。もし違和感が強まりすぎれば、逆に“精神崩壊”へと繋がる危険もある。まるで社畜に業務経歴を偽装させた結果、“俺は誰だ”とアイデンティティを喪失するように」
「わかってるわよ。でも見なさい、アルベドの表情を」
画面の中、アルベドは幸せそうにモモンガへ書類を差し出していた。そこには赤字で大きく『未来計画:夫婦共同プラン』と書かれている。
「彼女の一途さが“精神安定剤”になる。どれだけ混乱しても、結局は彼女の存在に縋る。これが私の狙いよ」
ミストバーンはしばらく沈黙し、やがてくつくつと笑い出した。
「……まったく。あなたは科学者というより経営者だ。愛を“依存形成”として設計するとは」
ブルマはモニターから目を離さず、紅茶を口に運んだ。
「会社も家庭も同じよ。結局は“居場所を作って逃げ道を塞ぐ”のが一番効率的。サトルはもう……自分から逃げたいと思わなくなる」
「ブラック企業における“囲い込みと帰属意識の強化”そのものですね」
二人は視線を交わし、無言で頷き合った。
その背後で、暗い光を帯びた「永劫の蛇の指輪」が、静かに台座の上で脈動を続けていた。
◇ナザリック執務室
モモンガはデスクに山積みになった書類を前に頭を抱えていた。
「……なんでだ。記憶が……おかしい。アルベドと、幼馴染だった……? そんなはずは……いや、でも確かに昔から隣にいて……」
胸の奥がざわつく。
だが、その混乱に重なるように、心のどこかが“それで安心している”のをモモンガ自身も感じ取っていた。
「サトル……」
柔らかい声が降ってくる。顔を上げれば、アルベドが当たり前のように自分の横に立っていた。
その仕草は、まるで何十年も一緒に過ごしてきた相棒のような自然さだった。
「ほら、覚えてる? 小さい頃、二人で未来の家の間取りを描いたでしょ。あの時の約束……私、ずっと忘れてないのよ」
「えっ……あ、あぁ……」
頭の中に、存在するはずのない思い出がフラッシュのように浮かんでくる。砂場、落書き帳、二人並んで描いた小さな家。
(そんな記憶……俺にあるわけが……)
「サトル?」
アルベドの金色の瞳がまっすぐに見つめてくる。その視線に抗えず、モモンガは思わず頷いてしまった。
「……あ、ああ。あった、かもな……」
アルベドは花が咲くように笑った。
「でしょ? だから安心していいの。私たちは“最初から”一緒にいる運命なのよ」
書類の束をすっと片付け、代わりに差し出してきたのは新たな書類。
『夫婦共同生活プラン・第2稿(幼馴染版)』と赤字で書かれている。
「これも一緒に考えましょう? あなたと私なら、絶対にうまくいくわ」
モモンガは頭を抱えながら呻いた。
「俺の未来が……どんどん“既成事実”に塗り替えられていくぅぅぅ!!」
アルベドはそんな彼を、ただ慈しむように見つめていた。
その眼差しには、疑いも、迷いも、一片の曇りもない。
◇カプセルコーポ地下ラボ・観測室
モニター越しにその光景を見ていたブルマが、ほくそ笑む。
「……ね? “幼馴染補正”が効き始めた。もう逃げられないわね」
ミストバーンは無表情のまま顎に手を当て、静かに呟いた。
「恐ろしい。“思い出の上書き”による囲い込み……。これはもう、サトルさんが自分で抗う理由を失っていく……ですが良かったんですか、今更ですが実の息子に洗脳まがいな事を許してしまって?」
「実行したあんたに言われると癪に触るけど流石に30超えた息子が仕事よりもゲーム優先な人生を変えたかったと言ったら貴方はどう思う」
「自分には息子がいないので何とも言えませんがちょっと心配になりますね」
「でしょ、ソウスケとキアラは結婚して子供もいるしサトルにも欲しいかなって、これは私の我儘だけどね」
「マサキさんとマキマさんも同じ様にするおつもりで」
「いえ、マサキは癇癪持ちだしマキマはまだ精神面が子供だから期待してないわ」
二人の視線の先で、モモンガはもがき続けていた。
◇ナザリック執務室
モモンガは頭を抱えていた。
(だめだ……どうしてこんな記憶が自然に出てくるんだ……。アルベドと幼馴染だったなんて、あり得ないのに……なのに懐かしい気がする……)
「サトル」
不意に肩に手が置かれ、振り向くとアルベドが穏やかに微笑んでいた。
その笑顔は、幼少の頃から隣にいた“親友”そのものの温かさをまとっている。
「思い出してる? 小学校の帰り道、雨の日に私が傘忘れて、あなたが濡れながら半分差してくれたこと」
「えっ……」
モモンガの頭に、記憶の断片が浮かぶ。夕立、濡れた制服、照れ笑いするアルベドの顔。
(そんなはずは……ない、ないんだ……! でも、俺の中に……ある……!?)
アルベドは懐かしそうに目を細める。
「その時、あなた言ったのよ。『俺がいるから大丈夫だ』って。あの一言が、ずっと私を支えてきたの」
「……っ」
モモンガは胸を抑えた。心臓の鼓動が妙に早い。
(なんでだ……! 俺はそんなこと言ってない……のに……! でも、言った気がする……!)
アルベドは一歩近づき、彼の耳元で囁いた。
「だからね、今さら逃げようなんて思わないで。私はずっと、あなたと一緒に未来を描いてきたんだから」
机の上に、彼女がそっと置く。
『結婚式プラン・幼馴染特別仕様』
表紙には手書き風にこう書かれていた。
《あの日の約束を、正式に果たしましょう》
「ま、待て……俺はまだ何も……!」
「いいの。だってサトル、ずっと私を選んできたんだもの」
彼女の目には一片の疑いもなく、愛と確信しか宿っていなかった。
◇カプセルコーポ地下ラボ・観測室
モニターを覗き込むブルマがクスリと笑う。
「ふふっ……効いてる効いてる。“雨の日の傘エピソード”は鉄板だものね」
「まるで“社員研修の成功事例ビデオ”を見せているようだ」ミストバーンは無表情に呟く。
「これでサトルさんは、“自分が彼女を守ってきた”と錯覚する。責任感はやがて愛情に転化する」
ブルマは紅茶を一口飲み、満足げに頷いた。
「ええ。もう下地は整ったわ。あとは“プロポーズの既成事実”を積むだけ」
二人の視線の先で、モモンガは机に突っ伏し、呻き声を上げていた。
大型スクリーンには、机に突っ伏して呻くサトルの姿が映っていた。隣には、楽しげに微笑むアルベド。その目は“幼馴染”としての確信に満ちている。
「……見てごらんなさい。もうサトルは“逃げたら彼女を裏切ることになる”と潜在的に感じているわ」ブルマはモニターを指で叩きながら冷静に言う。
ミストバーンは腕を組み、低く唸った。
「確かに。“退職希望者が家族を養う責任を突きつけられた”状態……ここからの離脱は不可能に近い」
ブルマは頷き、タブレットを操作する。
画面には新たな計画書が映し出された。タイトルは──
《最終段階:プロポーズ誘導オペレーション》
「ここからは一気に畳みかけるわ。やることは単純、サトルに“自分の意思でプロポーズした”と思わせれば勝ちよ」
「なるほど……“自主退職に見せかけた強制解雇”ですね」
「そうそう。彼のプライドを傷つけずに既成事実を作る。それが肝心なの」
ミストバーンの瞳が暗く揺らめく。
「具体的には?」
ブルマは不敵に笑う。
「次の“幼馴染の思い出”は、昔ふたりで交わした“将来の約束”。例えば──“大人になったら結婚しよう”ってね」
「……ほう。彼女が提示すれば、サトルさんは“自分が約束した”と錯覚するわけだ」
「ええ。そしてその流れで、アルベドに“約束を守ってほしい”と詰め寄られれば……サトルはもう『プロポーズ』という形で応じるしかない」
ミストバーンは顎に手をやり、ゆっくりと頷いた。
「恐ろしい……まさに“辞表を自ら出したと錯覚させる”究極のマネジメントだ」
ブルマは紅茶を傾け、満足そうに笑う。
「これでサトルは“ブラックファミリー”に正式入社。退職なんて絶対に許されないわ」
二人の視線の先では、アルベドが優しくサトルの髪を撫でていた。
「サトル……私たち、小さい頃に約束したわよね? “絶対に離れない”って」
モモンガは顔を真っ赤にして震えている。
(そんな約束……した、か……? いや、でも確かに……言ったような……!?)
ブルマとミストバーンは顔を見合わせ、静かに頷き合った。
運命の歯車は、いよいよ“決定的瞬間”へと回り始めていた。
スクリーンに映るのは、夕暮れの執務室。書類に埋もれるサトルと、その隣で柔らかく微笑むアルベドの姿。
ブルマは足を組み替えながら、タブレットに流れる“記録改ざんログ”を確認した。
「順調ね……“幼馴染時代の記憶”が違和感なく定着してるわ。サトルの潜在意識も抵抗してない」
ミストバーンは暗い仮面の奥で、口元を歪めた。
「ええ。もう彼は、自分が“昔からアルベドを知っていた”と信じ始めている。……さあ、クライマックスだ」
画面のアルベドが、そっとモモンガの手を取る。
「サトル……覚えてる? 小さい頃、二人で言ったわよね……“大人になったら結婚しよう”って」
モモンガの肩が震える。
「な、な……そんな約束……し、したか……? いや、でも……確かに……俺、言った……ような……」
ブルマはニヤリと笑った。
「出たわ、“偽記憶の違和感”による混乱。ここでアルベドが畳みかければ──」
アルベドはうるんだ瞳で見つめ、さらに言葉を重ねる。
「私は、ずっとその約束を信じて待ってたの。あなたも……忘れてないはずよね?」
モモンガの喉がひくりと動き、声が裏返る。
「お、俺は……お、覚えてる……! 忘れてなんか……!」
その瞬間、アルベドが一歩踏み込み、囁く。
「だったら……約束を果たして。私と……結婚して」
観測室に沈黙が落ちる。ブルマもミストバーンも、固唾を呑んでスクリーンを見つめた。
「……言うぞ」ブルマが低く呟いた。
「言わせる……!」ミストバーンの声が熱を帯びる。
モモンガは目を閉じ、震える声で叫んだ。
「アルベド……俺と、結婚してくれ!!」
「……決まった」
ブルマは腕を組み、勝ち誇った笑みを浮かべる。
ミストバーンは静かに頷いた。
「ブラック企業……いや、ブラックファミリーへの正式入社だ。もう退職は不可能」
二人は視線を交わし、満足げに紅茶を啜った。
スクリーンの向こうでは、アルベドが涙を流しながらモモンガに抱きついていた。
運命は、ついに不可逆の段階へと踏み込んだ──。
ブルマは満足げにスクリーンから視線を外し、タブレットを操作した。新たに開かれたファイルには《結婚式プロジェクト:進行管理表》と題された詳細なスケジュールが並んでいる。
「これで優秀な社員兼嫁をゲット、そしてサトルの精神も既成事実で固定。後は……そう、結婚式よ」
ミストバーンは静かに頷き、腕を組んだ。
「なるほど……次は“入社式”の段階というわけですね。式を挙げれば、サトルさんは自分の意思でここまで来たと錯覚し、後戻りできなくなる」
「その通り」ブルマはさらりと言った。「結婚はね、契約書へのサインと同じ。印鑑を押せばもう逃げられないの」
ミストバーンの瞳が細く光る。
「式場の荘厳さは私が引き受けましょう。暗黒闘気を使えば、嫌でも威厳あるセレモニーになる」
ブルマは笑みを浮かべ、紅茶を口に含む。
「頼もしいわ。あなたは“式典演出部長”、アルベドは“新婦兼総務部長”、サトルは……名誉会長でマスコットね。私はもちろん監査役として目を光らせる」
「……ブラック企業ならぬブラックファミリーの完成形、ですか」
ブルマは満足そうに頷いた。
「ええ。これでサトルの未来は安定した。もう辞めたくても辞められないわ」
スクリーンの向こうでは、アルベドがモモンガの首に抱きつき、涙と笑顔を同時に浮かべていた。モモンガは真っ赤な顔で彼女を受け止め、震える声で「俺の嫁……」と呟いている。
ブルマとミストバーンは目を合わせ、静かに頷き合った。
──計画は最終段階へ。結婚式という“契約の儀式”に向けて、歯車は止まることなく回り続けていた。
モモンガさんチェックメイト