オーバーロードによく似た世界で(本編完結)   作:ペンギン勇者

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 カルネ村の胸糞案件を他のメンバーに任せてブルムラシュー侯の屋敷に忍び込むミストバーン、弐式炎雷、フラットフットの三人、だがふざけていいシーンでこの男がじっとしているわけなかった。




第09話ナザリックと愚かな貴族

「屋敷の側まで転移したけどこれからどうするっぺ」

 

 弐式炎雷がふざけた口調で喋る

 

「そりゃ王道を行くなら寝静まるまでまってそこから侵入だろう」

 

 そう言うフラットフットも何処か肩の力が抜けている。当然だろう隠密特化のレベルカンストプレイヤーが普通の貴族の屋敷に侵入するのなんて朝飯前だ、多分ギルドのようなトラップもモンスターもいないだろう。

 

「侵入する前に軽く夕食でも食べます?」

「あ~それはありかもな、丁度あいつらも食ってるだろうし」

 

 時刻は夕日が沈んで暫くたったころあいだ、今の季節で言うと夕食の時間だろう。

 

「俺、実を言うと酒持ってる」

 

 突拍子もない事言う弐式炎雷。

 

「良いですね仕事中に飲む酒でしか得られない栄養ってありますよね」

「おい、二人ともガチで飲むきか」

 

 心配するそぶりを見せるフラットフットだが

 

「俺も飲ませてくれよ」

 

 どうやらこのパーティーはツッコミ不在のようである

 

「「「………………」」」

(((あれ、これってやばくね?)))

 

「皆さんいったん落ち着きましょう、このままいけば間違いなくケジメ案件です」

「流石に飲酒しての仕事に対する明確な罰則はないとはいえやったら間違いなくヤマイコさんの鉄拳制裁とタッチの説教コースだぞ」

 

 多分それだけでは済まないだろう。

 

 その一言を境に、三人の表情から笑みが消えた。

 

 弐式炎雷は酒瓶を静かに収納し、軽く肩を回す。無駄な力を抜いた、訓練された者の動きだった。

 

「──じゃ、やるか」

 

 フラットフットが呟くと同時に、周囲の風景が沈黙を取り戻す。三人は互いに短く視線を交わし、それぞれの役割を相談する。

 

「俺らは陰に隠れられるスキルを持ってるけどお前は何か隠れられるスキルを持ってるのか?」

 

「ご安心を、自分も同じように影の中に隠れられるので」

 

 そうミストバーンが言うと体全てが地面の中に沈む。

 

「てことは心配しなくて良さそうだな、問題は誰がどうするかだが」

「俺はブルムラシュー侯の所に行きたいんだがいいか?」

 

 フラットフットが目を細め、しばし思案する。

 

「……正面から行くつもりか?」

「いや、さすがに脳筋じゃないんで。裏口から入って、近くにいた奴は無力化する。音は立てない。万が一気づかれたら……そのときはそいつが悪い」

 

 ミストバーンの淡々と言うその口調に、フラットフットも小さく頷いた。

 

「今回監視の目を潰すのは必要最低限でいいよな、ターゲットは一人だけだし下手に警備を潰すとすり替えたことがバレかねん」

「弐式の言う通りでいいと思うぞ、それと俺は記録や帳簿がある部屋を探してみます。ブルムラシュー侯の罪状──確実な証拠を抑えて見せましょう」

「ミストバーンがブルムラシュー侯でフラットフットが記録か、なら俺は現物で証拠になりそうなもんを探してみるわ」

 

 三人はそれぞれ一言もなく頷くと、静かに行動を開始した。

 

 屋敷の周囲を囲む生け垣と塀。その影に沿って、フラットフットと弐式炎雷が風に紛れるように走る。対して、ミストバーンは地面に沈むと、まるで魚が水中を泳ぐように、土の中を滑るように進む。

 

──誰にも気づかれない。それがこの三人にとって、最低限の仕事だ。

 

 

 

 

 ミストバーンは、侯爵の私室がある東棟の三階を目指す。建物そのものに転移防止魔法がかかっているため、外からの侵入は制限される。だが、地中を経由した潜入には対応しきれていなかった。

 

(……魔法陣の反応なし。構造的な結界に過ぎないな、しかし結界を用意しているとは腐っても六大貴族という所か)

 

 壁の基礎に空いたわずかな隙間を通り、彼は音もなく床の影に這い上がる。

──侯爵の私室。部屋の主は、ちょうど湯浴みを終えたばかりのようだった。

 

 薄暗い蝋燭の明かりの下、バスローブ姿のブルムラシュー侯が、窓辺に置かれたワイングラスを手にする。

 

「──静かすぎるな。……まさか何かあったか?」

 

 彼が首を傾げた瞬間、影から姿を現したミストバーンが一言。

 

「その“まさか”が現実です、侯爵」

 

 ブルムラシュー侯が振り向いた時には、スキルの影縫いで金縛りにされた。

 

 

 

 

 一方、フラットフットは屋敷の西側、事務部屋のある棟へと滑り込んでいた。

 

(こっちの警備は見張りが三人、すれ違うタイミングで睡眠煙を流し込めば問題ない)

 

 事前に計算された移動ルートを完璧に辿り、まるでダンスのように歩哨の間を抜けていく。すれ違い様に空中へ投げた小瓶が破裂し、薄く漂う無色の煙──それを吸った見張りたちは、まるで自然な眠気に負けるように、次々とその場に崩れ落ちていく。

 

「……眠っている間に全て終わるさ。お前たちに罪はない」

 

 フラットフットは誰にも見られることなく、帳簿室に到達した。

 

「さて……ブルムラシュー侯、何を隠してる?」

 

 精密な手付きで封印された金庫を開き、記録水晶、領収書類、監査不正の痕跡を探す。

その作業は無駄なく、迅速だった。

 

 

 

 

 そして弐式炎雷は、屋敷の中庭側──宝物庫と使用人区画を繋ぐ裏通路へと忍び込んでいた。彼の目的は、現物の証拠。金塊、密輸品、禁制薬物。あるいは……消されるべき“何か”。

 

「……なるほど、やっぱ裏があったな」

 

 密室のような地下保管室。その奥に、通常貴族が持ち得ない数の魔道具と偽造金貨、帝国の兵装、そしてライラの粉。

 

「これは……禁輸品どころじゃねぇな。こいつ、どこまで踏み込んでやがったんだ」

 

 彼はそれらを記録に収めつつ、一部を封印された証拠袋に収める。

 この一件で侯爵を落とす材料としては十分すぎる。

 

「──とっとと戻って酒でも飲みたいとこだが……まだ“あれ”が残ってたか」

 

 彼は、地下室の最奥に並ぶ“人形”を見つめる。感情を抜かれたような瞳、機械的な服装の子供たち。どうやら失踪した孤児たちらしい。

 

「……ああ、マジでクズだな、てめぇ」

 

 感情を押し殺し、弐式炎雷は一つ呟いた。

 

「お前が最初に消える貴族で正解だったぜ」

 

 

 

 

「──で、何者だ? 何のつもりだ、貴様!」

 

 背後を取られたブルムラシュー侯は、どうにか体勢を崩すことなくミストバーンに問いかける。だがその声には、貴族としての余裕や傲慢はない。ただの“恐れ”だ。直感が告げていた──この男は、命を奪ることに一切の躊躇がない、と。

 

 ミストバーンは黙って彼の背後から腕を取り、椅子に座らせる。ロープも拘束魔法も使わない。ただプレッシャーだけで、侯爵は立ち上がることすらできなかった。

 

「……ブルムラシュー侯、あなたの罪状を列挙します。覚悟しておいてください、因みに貴方が貼ってある結界とは別に防音の結界を用意させてもらいました、どれだけ叫んでも助けは来ないのであしからず」

 

 部屋の扉が音もなく開き、フラットフットと弐式炎雷が入ってくる。侯爵の顔が青ざめる。知らない顔が三人──しかも、全員が“只者じゃない”。

 

「おい、待て……これはどういう……」

「やれやれ。どこから説明したもんかな。禁制品の隠匿、孤児の人身売買、それとも──魔導具の横流しか?」

 

 弐式炎雷が、証拠袋を机に放り出す。中には侯爵の署名入りの密輸契約書、禁制薬物、そして子供たちのリスト。

 

「どこからバレたかって顔してるけど、正直言ってずっと前から目はつけられてたんだよねぇ」

 

 フラットフットが帳簿から抜粋した不正記録を侯爵の目の前に広げる。

 

「……っ、これは……捏造だ。証拠能力はない! 何の権限で、貴様ら……!」

「そう言うと思いました」

 

 ミストバーンが一歩、侯爵に詰め寄る。冷たい視線が真っ直ぐに貴族を貫いた。

 

「我々は“裏の監査機関”に属する者。名を聞いても意味はありません。目的は“社会の平穏を乱す者の排除”です」

 

「ば、馬鹿な……そんなものが……!」

「あるんだよ、世の中には“表に出ない”正義ってやつがな」

 

 弐式炎雷の声は、珍しく低く、真面目だった。

 

 侯爵の顔から血の気が引く。

 

「おい、待て……話し合おう。金なら出す、取り引きだって……!」

「──その言葉が出た時点で、もう無理だ」

 

 ミストバーンが冷たく言い放つ。

 

「選んでください。全てを告白し、表に出るか。あるいは……ここで“消える”か」

「……ッ」

 

 侯爵の顔から表情が消えた。数秒の沈黙のあと──彼は膝から崩れ落ちた。

 

「……話す……話すから……頼む……命だけは……」

「その言葉、記録しました」

 

 フラットフットが録音水晶を回していた。

 

「さて、あとはこの映像と証拠を持ち帰って処理するだけですね。ブルムラシュー侯、あんたは“詰み”だよ」

 

 弐式炎雷が鼻で笑い、立ち上がる。

 

 尋問は数分で終わった。侯爵が保有する犯罪の全貌と、それに関わる貴族たちの名簿はすべて吐き出された。

 

──あとは“どう処理するか”。

 

 三人は部屋に侯爵を残しそのまま処遇を決める。

 

「で、このままお前のグレータードッペルゲンガーと交換するんだろう、元の本人はどうする」

「石化してアイテム化させます、殺して蘇生よりも倉庫に保管しといてもし必要になった時に解凍でいいと思う」

「ある意味死より恐ろしいな、ずっとそのままなんて本人からしたら気が触れそうだ」

「でもフラットフットさんこいつにそんな慈悲要ります?」

「やっぱ要らないか、こいつには倉庫の奥で埃をかぶってるのがお似合いだな」

「では早速やるとしますか」

 

 ブルムラシュー侯の私室。さきほどまで尋問が行われていた場所は、今や静寂に包まれている。侯爵はぐったりと椅子に身を預け、顔面蒼白のまま虚空を見つめていた。

 

「では、始めましょうか」

 

(ただのストレスでこうなるんだから拘束系の呪文使わなくて正解だったな、使ったらオーバーキルだし……と言っても今からそれに近いとこするんだけどね)

 

 ミストバーンが静かに手をかざす。彼の掌から淡く輝く魔法陣が浮かび上がり、

瞬間──ブルムラシュー侯の全身が灰色に染まっていく。

 

「う、あ……や、やめ……やめろ……貴様嘘をッ」

 

 叫びも途中で凍りつく。石化。完全な拘束。肉体も精神も、時間すらも封じる禁術級の魔法。

 

 侯爵の身体はそのまま石像となり、ガコン、と鈍い音を立てて床に倒れた。

 

「ふぅ。抵抗の声すら虚しいですね。……記録、完了」

 

 ミストバーンは水晶に保存された映像を確認しながら、淡々と処理を続ける。

 

「よし、ドッペルゲンガーの方、呼びましょうか。……偽装は完璧に頼む」

 

 その言葉に応じて、部屋の隅に控えていた影の中から“もう一人の侯爵”が現れる。

容姿も声も、表情の癖さえ完全に一致している偽者──ミストバーンが準備していたグレータードッペルゲンガーだ。

 

「命令通り動いてください。表向きの“侯爵”として、粛々と公務を続けてもらいます」

「了解。演技パターン、記憶完了」

 

 ドッペルゲンガーが機械的に頷く。その演技力は本物以上。下手をすれば、家族ですら入れ替わりに気づかないだろう。

 

「よし。これで“表”の繋がりを辿られても時間は稼げる。……石像は例の倉庫に送っておこうか」

 

 弐式炎雷が大きな布袋を広げる。中は特殊加工されたアイテム保管袋。

 生体であろうと魔法効果で状態変化していれば格納可能な高級品だ。

 

「そのアイテム懐かしいですね、それでユグドラシルの時モンスターやNPCを石化して運んだものです」

「ミストバーン、お前絶対ろくなことに使ってないだろ」

「失敬な、可愛いモンスターやNPCを捕まえて専用の部屋で戯れてただけです(拉致監禁)」

 

 弐式炎雷とフラットフットの冷たい視線が突き刺さる。

 

「そういやこいつ、下手に処分すると証拠が薄れるからな。生きたまま永久封印がベストだな」

「封印された侯爵本人、ドッペルゲンガーに屋敷を乗っ取られて、裏から金と情報を全部吸い取られる……最高の皮肉だね」

 

 フラットフットがくつくつと笑う。

 

「本人には“口を割ったら現状維持”って言っておいて、結局割った後に石化。……ま、騙された方が悪いわな」

「いや正確には、“どっちを選んでもそうなる”ってだけです。選択肢が幻想だっただけで」

 

 ミストバーンが言い添えるように呟く。

 

「では。これで一件落着ですね」

 

 弐式炎雷が封印袋を担ぎ、立ち上がる。

 

「……本格的に動くのは、これが始まりに過ぎないってことか」

「ええ。ブルムラシュー侯が落ちたことで、連鎖は始まります。次は、誰の番でしょうね」

「ま、いいじゃん。次のターゲットはゆっくり酒でも飲みながら選ぼうぜ」

 

 三人の影は音もなく部屋から消えていった。

 

──その部屋の主だった“ブルムラシュー侯”は、既に存在しない。

残ったのはそれを完璧に演じる偽者だけだ。

 

 表の顔は変わらず機能し、裏は完全に“喰い尽くされる”。

それが彼らの“正義”だった。

 




 死んでないから原作より温情(遠い目)

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