絶対唯一“人衣変態”   作:ヘビとマングース

2 / 5
2:Make debut!

 生徒会長である鬼龍院(きりゅういん)皐月(さつき)から手渡しで新しい制服を受け取った。

 その翌日、普遍方(ふへんがた)最太(さいた)は黒い学ランで現れたのだ。

 昨日までの暗い水色の制服とは見るからに違う。当然、反応する生徒は居た。

 

「黒い⁉ 普遍方くんの制服が今日は黒いよ流子ちゃん! ああっ⁉ 流子ちゃんのセーラー服も黒かったんだった! それじゃあお揃いなの⁉ ずるいよ二人とも!」

 

 最太の制服を見て誰よりも早く大騒ぎしているのは丸顔でボブカットの女子生徒だった。

 名前は満艦飾(まんかんしょく)マコ。

 元気でポジティブで考えるよりもまず行動する、名物的なアホの子である。

 

「お揃いじゃねぇよ。っていうかそれどうしたんだ? 昨日までその辺の奴らと同じだったろ」

 

 マコの発言に呆れた顔で反応したのは、赤いメッシュが入った黒髪ショートカットの女子生徒。

 (まとい)流子(りゅうこ)は他の生徒とは違って黒いセーラー服を着ている。

 最近転校してきたばかりであり、マコや最太と仲良くなったおかげで急速に本能寺学園に慣れつつあるところであった。

 

「いやーそれが、まあ、プレゼントされたって感じで」

「プレゼントぉ?」

「いいな~! いいな~普遍方くん。誰にプレゼントしてもらったの?」

「それは……秘密、かなぁ?」

「えぇ~どうして⁉」

「ってことはやっぱ問題があったんだろ。当ててやろうか? 生徒会の連中に探られたって話だ。もしかして裏切るように唆されたんじゃねぇだろうな」

 

 天真爛漫で些細なやり取りであっても一喜一憂するマコとは異なり、流子は嫌な予感がしているようで警戒している。

 誤解なのだがそう思われても仕方ないとは思っていた。最太は気まずそうに否定する。

 

「いや、それはないよ。これはただ単に渡されただけ……ってそれじゃ俺がもうゲロってるみたいなもんじゃないか。尋問上手め」

「別に大したこと言ってねーよ」

「生徒会の人にプレゼントしてもらったの? もしかして皐月様? どうして⁉ ひょっとして普遍方くんって皐月様のお友達なの⁉」

「いやいやいや、それはないって。だって会ったのも昨日が初めてなんだから」

 

 最太の態度からは隠し事をしようという様子は感じられない。

 本人でさえ何も知らないのは微妙な顔をしていることからなんとなく感じ取れた。

 

「なんでかわからないけど皐月様からプレゼントされました」

「なんの情報もない発言だな。なんでかってところが重要だってのに……」

「すごいね普遍方くん! 皐月様に気に入られたの? もしかして、恋に発展したりとか⁉」

 

 マコが舞い上がって叫ぶと最太がハッとした顔をした。しかし喜んでいるのではない。何かに気付いた様子に見えたがすぐに肩を落として悲しそうな顔をしてしまう。

 絶対に何かあったじゃないか。

 呆れた顔をする流子は詳細を聞き出したくてたまらなくなっていた。

 

「それはない……満艦飾さん、それはないんだよ。俺だってそうであってほしい気持ちはあるよ。でもそれだけは絶対にないんだよ……」

「普遍方くん悲しそう……」

「何があったんだよ。っていうかそんな、あいつが恋とかするわけねぇだろ」

 

 恋愛に興味がなさそうな流子とは正反対に、最太は物憂げな顔で深く息を吐き出す。

 

「恋っていいなぁ……俺も恋したいなぁ」

「おい。そんなことはどうでもいいけど、それよりその服、極制服じゃ――」

「わかるよ普遍方くん! 恋してみたいよね!」

 

 流子が気になることを質問しようとするとその前にマコが入ってきた。

 彼女と最太はつい最近になって話すようになったとはいえ、今年度は同じクラスであり、同じスラムで暮らしているため顔見知りであり、似たような境遇で生きてもいる。

 スラムにないものはあまりに多く、一度話し始めてみればずいぶん息が合っているらしい。

 

「貧乏だとお金がないからモテないよねぇ!」

「そうなんだよ! せめてお金さえあればモテるかもしれないのに!」

「そういう問題じゃねぇだろ」

 

「私たち、いつも何が何だかわからないもの食べてるよね!」

「そうだ! ゴミを漁って食べられそうな物だけ食べてるんだ! 虫なんてご褒美さ!」

「それは……なんとも言えねぇけど」

 

「お風呂も入れないし家は何かが腐った匂いで充満してる!」

「これじゃキスもできないよ!」

「わかった、悪かったって。それは後で聞いてやるから」

 

 ヒートアップしつつあった二人を落ち着かせ、流子はやれやれという顔で嘆息する。

 どちらもスラム育ちの根性と貪欲さが備わっていて、行動力があることは知っていた。ひょんなことから何かと助けてくれるのだが、いまだに扱いには困ってもいる。

 

 とにかく今は優先して気になることだ。

 流子が注目していたのは最太が昨日受け取ったという黒い学ランであった。

 

「お前が着てるそれ、極制服じゃないのか?」

「え?」

「そうなの? ってことは普遍方くん、星付きになったの⁉ 貧乏生活抜け出せちゃう⁉」

「やったぁ⁉ いやっ……でも昨日も自分の家で過ごしてたけど」

「そうなの? じゃあ星もらってないね」

「ぐぅぅ、ぬか喜び……」

 

 やはりどちらものんきだ。

 流子よりも先に本能寺学園で生きていたのに、流子よりも危機感がない。

 

 極制服という言葉はきちんと理解しているはずだ。

 本能寺学園の星を持つ生徒には配られる特別な制服、極制服(ごくせいふく)

 それは生命(せいめい)戦維(せんい)という特別な力を持つ繊維を織り込まれた制服であり、着た人間に超人的な力を与えるという性質がある。

 

 無星の生徒には与えられないが、一つ星・二つ星・三つ星の生徒にはそれぞれの力量に合わせた極制服が支給される。

 それ故に無星のままでいる最太が極制服を着ているのは異常事態でしかないのだ。

 

「多分そうだろ。使えたのか?」

「いや全然。そういえば試してもなかった。今まで縁がなさ過ぎたし」

「お前、もしかしてあいつらに利用されてるんじゃねぇのか? この学校のランク制度はまだよくわからねぇし気に入ってもねぇが、普通は最底辺のパンピーがもらえるもんじゃねぇんだろ?」

「うーん、確かに」

 

 今までそんなことも気にせず着ていたのか、今になってようやく真剣に考え出したようだ。

 最太はなぜ自分が極制服をもらえたのかを考え始め、腕組みをしてうーんと唸る。それを見てマコも腕組みしてうーんと唸っていた。

 考えてわかることでもないだろうが、そうしてしまう気持ちは流子にもわからなくはない。

 

「生徒会の奴らはなんとなく気に入らねぇ。会長の女には聞かなきゃならねぇこともあるし、どうにかして直接対決に持ち込めねぇもんか」

「困っているんだね流子ちゃん。わかった! それじゃあそのことも一緒に考えよう! 私たちも協力するよ!」

「そうしてくれるのは有難いんだが、お前らか……」

 

 意気揚々と言ってくるマコの笑顔を見つめ返して、流子は不安そうな様子を見せた。

 出会ったばかりとはいえマコと最太のことは気に入っている。しかし頼りになるか否かは別の話であって、現時点では不安が大きいのも確かだった。

 

 纏流子が本能寺学園へ来たのには理由がある。

 父の死の理由を知るためだ。

 生徒会会長である鬼龍院皐月は父の死の真相について、きっと何か知っている。しかし教えるつもりがない彼女からそれを聞き出すためには、彼女に自分を認めさせる必要があるようで、そのためにはケンカも辞さない覚悟である。

 

 荒事には慣れている流子であったが、一方で作戦を考えたり回りくどい方法を取ったり、面倒なことは苦手としている。

 このままでは生徒会に近付くことすらできないだろう、とは思っていても別の方法を探ること自体に四苦八苦していて、気ばかり急いていたところだ。

 

 そんな時、真剣に考えていた最太が口を開いた。

 先程とは声色がいくらか変わっていて、なんだか期待できそうな雰囲気だった。

 

「もしかしてこれってチャンスなんじゃないかな?」

「チャンス?」

「俺が着てるこれが極制服だとして、俺が星付きの人たちみたいにバトルができるとして、現状を変える可能性はぐっと高まったんじゃないか? 纏さんには“鮮血”がある」

 

 極制服より能力的に完全な上位である服、神衣(かむい)

 流子が着ている黒いセーラー服こそがその一種であり、名を鮮血(せんけつ)という。

 

 流子は最近になって本能寺学園に転校してきた生徒だが、“鮮血”と武器である片太刀(かたたち)バサミ”を用いて数々の強者を倒し、騒動の火種となっていた。

 鬼龍院皐月が支配する本能寺学園において、鬼龍院皐月に反抗しようとしている、そんな人間は纏流子しか居ないのである。

 

 逆に言えば流子が居れば現状に対する反抗ができるはず。

 彼女はケンカができる。そしてその気概がある。

 マコと共に自ら巻き込まれに行ったのだが、今になって最太は活路を見出そうとしていた。

 

「俺たちは力を合わせるべきなんだと思うんだ。纏さんは皐月様と戦いたい。満艦飾さんは纏さんを助けてあげたい。そして俺と満艦飾さんはこのチャンスに星を上げたい」

「戦いたいじゃなくて勝ちたい、いや勝つんだよ」

「どうするの普遍方くん。何かいい方法があるの?」

「なあに、ケンカを仕掛けるだけさ。部活動の部長は二つ星極制服の持ち主が多い。こっちから出向いて倒し続けていれば生徒会だって黙っていられなくなる」

 

 なんだ、と思って流子は肩をすくめて落胆した。

 今までやってきたことと同じではないか。

 ほんの数日とはいえ、すでに何人かの部活動が流子に襲い掛かってきて、返り討ちにしていた。彼が言い出したことは何ら変わりはない気がしてならない。

 

「料理部だよ満艦飾さん!」

「はわわわっ⁉ 料理部っていうのはあの! 新鮮な食材でおいしい料理を作る料理部のこと⁉」

「おい……それが目的か」

 

「そうだよ満艦飾さん! 料理部っていうのは腐っていない変色していない食べても腹を壊さない美しい食材で美味なる料理を作る部活動なんだよ! そこを俺たちで占拠するんだ!」

「すっ、すごい作戦だよ普遍方くん! 流子ちゃんのやりたいことを叶えつつ、私たちのやりたいことまで叶う! 一石一鳥だよ!」

「一石二鳥な」

 

 どうやら彼らは単純に飢えているらしい。

 意気込みは流子が少なからず引いてしまうほど熱く強くて、利用されているとも取れてしまう状況にも思えるとはいえ、目的を果たすためにどうせそうするつもりだった。

 二人に親切にしてもらっているのは事実であり、まあいいか、と流子は軽く受け入れる。

 

 スラムでどんな暮らしが行われているか、満艦飾家に居候している流子も体験して知っている。二人の言うことがわからないでもない。

 それだけに、意図して格差を作り出している本能寺学園の政策が気に入らないのだ。

 

「しょうがねぇなぁ。どーせやることは変わんねぇんだ。そんじゃあ、こっちから仕掛けて上の方で踏ん反り返ってる連中を引きずり出してやるか」

「おおっ! やる気だね流子ちゃん! よ~し、私も頑張っちゃうよー!」

「目指せ生活改善! 脱・貧乏!」

 

 図らずも盛り上がる二人を従える形となったが、流子自身もまんざらでもない顔をしていた。

 元々スケ番で知られた彼女はリーダーでいることに喜びがあったようだ。

 

「盛り上がんのはいいけど調子に乗り過ぎてミスんなよ?」

「「はーいっ!」」

 

 にやりと笑う流子の後ろで、マコと最太は上機嫌で返事をしていた。




簡易キャラクター紹介

・纏 流子(まとい りゅうこ)
黒髪ショート赤メッシュ。スケ番。ケンカ上等。
もしや自分がツッコミ役なのではと気付きつつある。

・満艦飾 マコ(まんかんしょく)
茶髪ボブカット。貧乏。天真爛漫。
最初の親友が纏流子、その次が普遍方最太。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。