本能寺学園生徒会室に、生徒会長
生徒会四天王と呼ばれる四人が厳粛な空気で直立し、皐月の前に整列している。
風紀部委員長、
なぜかハイテンションな満艦飾マコの勧誘を強引に振り払い、生徒会室へ帰還した。
いつも通り厳しい面持ちで沈黙を保っている。
運動部統括委員長、
深緑色の髪の精悍な青年で一本の竹刀を背負う。
運動の分野においては競技を問わずに最高峰のパフォーマンスが可能なスペシャリストである。
生徒会会計、ならびに情報戦略部委員長、
眼鏡をかけている水色の髪の青年だ。
片手には小型のノートパソコンを持っていて、クールな面持ちで表情をぴくりとも動かさない。
文化部統括委員長、
鼓笛隊似た制服に身を包み、頭蓋骨を乗せたシャコー帽を被るピンク髪の小柄な少女である。
自信が伺える笑みを浮かべて、最も身長が低いのだが最も堂々とそこに参加していた。
皐月は彼らを見回して話を始める。
絶対的なリーダーかつ圧倒的な実力者。一人も欠かさず真剣に彼女の声を聞いていた。
「新型極制服“
ピリッとした空気が室内を満たしていた。普段とは異なる緊張感に全身を包まれている。
「お前たちも知る通り、“変異体”は環境に適応・変形する極制服だ。着用者の思考によって様々な形態に変形することが可能であり、リスクはあるが、お前たちの三つ星極制服よりもさらに自由な戦闘が可能になる」
彼らにはあらかじめ事情を伝えられていた。
それでも疑問を抱かず納得したというわけではなく、今もなお迷いや戸惑いは残っている。
各々がそれぞれの反応を見せる中、思わず口を開いたのは蟇郡だった。
「皐月様、差し出がましいようですがそれは、やはり危険なのでは……」
「危険は承知だ。だが恐れていては進歩はない」
「怖くなっちゃったのガマくん?」
疑問を口にした蟇郡へ声をかけたのは蛇崩だった。
彼が視線を向けても口元がにやけており、隠すつもりもなくからかうような様子である。
「ママのおっぱいちゅぱちゅぱしたいの? 頭ナデナデあやしてほちぃの? あんたのちっちゃい器で受け入れられないからって皐月様の決定に異を唱えないでくれる?」
「蛇崩乃音。貴様こそことの重大さがわかっているのか」
「あんたよりかはちゃーんとわかってるわよ。それにあんたより度胸があるってだけ」
蟇郡の目つきが変わって、明らかに蛇崩を睨みつけていたが、皐月の前であるため手を出すようなことはしない。溢れ出る怒りを自分の中に抑え込んで深く息を吐き出す。
そして蛇崩も彼がそうするとわかっていて言っているものの、仮に突然殴りかかられても余裕で勝つ自信があった。だからこそ敢えて挑発しているのだ。
二人のそうした態度を咎めず、一切気にせず、皐月は淡々と声を発する。
どちらがどう暴れ出そうとも皐月自身が単独で、一瞬で押さえ込む自信があるのである。
暴れ出す危険性など考慮するまでもなく、彼女は常に余裕であった。
「私が選定し、御し切れると信じて与えたのだ。異論は認めん」
「はっ。出過ぎた真似をしました。申し訳ございません」
「そーよ、反省しなさい」
「蛇崩乃音……!」
「よさないか君たち。無駄話はやめてくれ」
つまらなそうな顔をして犬牟田が口を挟んだ。
ケンカにさえならない些細な言い合いに関心など湧かない。彼は隣に並んでいる仲間であろうと冷たく言い放ち、本題のみを求めた。
「皐月様。我々がここに呼ばれたということはそれ相応の理由があるのではありませんか?」
「そうだ。お前たちに鬼龍院皐月の名において命じる」
再び空気がピンと張り詰めた。蟇郡と蛇崩の表情も引き締まり、室内が一気に静まり返る。
「決闘部に対する攻撃許可を与える。各自、連中が狙う部活動に所属し、迎え撃て。本能寺学園生徒会特別措置“
皐月の雄々しい叫びに応じて四人全員が「はっ!」と声を揃えた。
思うことは色々あれども反抗しようという者は居ない。
彼らが頭を下げて承諾したのを確認した後、皐月は一人ずつへ目を向けて言い放つ。
「蛇崩乃音。纏流子の相手をしてやれ。神衣“鮮血”の着用者だ。手加減はいらん」
「本当にいいの? 徹底的にボッコボコにしちゃうだろうけど」
「構わん。あれは、徹底的に痛めつけたところで折れない女だ」
「ふうん……ならいいわ。頭の先から足の先から骨の髄まで、余すところなくいじめてあげる」
蛇崩は一瞬ムッとした顔になったものの、すぐに笑顔になって不満を消す。
皐月の言葉が本当かどうか、試してみればいい。
許可は出たのだ。蛇崩は手心なく手加減なく徹底的に纏流子をボコボコにするつもりで、皐月の命令を承諾した。
「猿投山渦。極制服“変体”を渡した普遍方最太に接触しろ。あの男は生命戦維の適合率は高いが戦闘技術を持たない素人だ。お前が師となり、導いてやれ」
「俺が弟子を? まさかの命令だったが、わかりましたよ皐月様。俺が鍛えるからには俺の次に強い戦士に鍛え上げてみせましょう」
聞いた瞬間こそ驚いたとはいえ、猿投山はすぐに受け入れた。
皐月に対する忠誠心が厚いだけでなく、彼は運動においては絶対の自信を持っており、他人を鍛えるなど大した任務ではないと考えていたようだ。
「蟇郡苛。お前にはもう一人の娘を任せる。奴にも極制服を与え、戦線に参加させろ」
「満艦飾にですか? ぬ、ぬぅ……俺があいつの面倒を見るのか」
「あの女も肉体が強靭なようだ。新型極制服のテストにはもってこいだろう」
「わかりました。務めを果たします」
またしてもマコと関わらなければいけないと知って蟇郡は表情を曇らせたが、他の誰かにできるとも思えない。ならば自分がやるしかないと考えた。
何より自身が忠誠を誓う皐月のため。文句の一つさえ抱かずに承諾する。
「犬牟田宝火。全体のサポート及びデータ収集に努めろ。誰も殺させるなよ」
「了解しました」
犬牟田は余計な発言をせず、疑問を表すこともなく、即座に受け入れて返事をした。
新型極制服のテストならば自分にも利がある。その点に注目していたのだ。
「今回の決定は我々の計画にとってなくてはならないものである。決闘部に設けた期間は一週間。重ねて言うが、これはただの第一段階だ。即座に結果を出せ」
「「「「はっ!」」」」
時間は限られている。
四天王は揃って生徒会室を後にし、互いに声を掛け合うこともなく違う道を進んだ。
皐月は生徒会室に残り、彼らを見送った。
ひっそりと隠れていた生徒が陰から現れた。
小柄な男子生徒である。眼鏡をかけ、金色の長い髪を一本にまとめており、オレンジ色の半透明なフェイスマスクを着けて、白衣のような極制服を着ていた。
裁縫部部長、
彼は極制服の製造を統括するという大変貴重な立場にあった。
静かに現れて四天王が行ったことを確認し、なおも仁王立ちしている皐月に声をかけて、糸郎は疑問を投げかけた。
彼はその立場と技術と知識から四天王と同列に扱われていて、場合によっては四天王以上の扱いを受けることさえあるのだ。
「よろしいのですか? 本当のことを言わなくて」
「何の話だ」
「普遍方最太に渡した“変体”は特別です。これまでの最高ランクである三つ星極制服が生命戦維を30%織り込んでいるのに対して、“変体”に織り込まれた生命戦維は90%」
淡々と話す糸郎の言葉を聞いて、皐月は眉一つ動かさなかった。
「常人であれば着ただけで精神崩壊を起こす代物。間違いなくこれまでの極制服で最高傑作です。もしも使いこなすことができれば神衣に勝つことはできずとも、最強の極制服となるでしょう」
「わざわざ言うべきことか?」
「その判断はしかねますが、信頼する四天王に対する態度としては違和感があったもので。あなたの計画を彼らは知っているでしょう?」
「必要なら情報ならば伝えている。それに私とて、隠しておきたい秘密くらいある」
彼女にしては珍しい発言。だが糸郎はそこまで深い関心を抱かなかった。
現在関心を寄せているのは歴代最高峰の極制服“変体”を着用した上で平気な顔をしている普遍方最太の存在のみ。
おそらく皐月は全ての事情を知っているだろうとも察しているが、敢えて深くは聞かなかった。
「満艦飾といったか。そちらはどうだ?」
「ご指示の通り、変異体極制服の三つ星を用意しました。彼女なら問題ないでしょう」
「それでいい。結果ならば否が応でも出る」
皐月には一片の迷いさえない。
堂々と言い放ち、揺らがぬ自信を感じさせる強い眼差しを、この場に居ない人間に向けていた。